「素朴な質問なんですが、軟水がミネラルが少なくておいしいといわれましたが、世間一般ではミネラルウォーターといって硬水の方がおいしいとされていますが、何で逆なんでしょうか。」
佐々木先生 「一つはイメージですね、外国から入ってきたミネラルウォーターで水割りを作ったらかっこいいというイメージですよ。二番目は冷やすということ、ミネラルウォーターは冷やしますんで、冷やしたら特においしく感じます、軟水は冷やすと舌に刺激が少なくなっておいしく感じないんです。かなりイメージでごまかされているところがあります。」
「硬水で酒を造ると辛口になるというお話でしたが。」
佐々木先生 「はい。水で食品は随分変わってきます。豆を煮るときでも、硬水で煮るとおいしくたけるんですが、軟水で煮るとぐじゃっとしておいしくない。あるお総菜屋さんが、中国のほうが豆が安くて人件費も安いから、向うで豆を煮て、こっちで味付けをしようと企んだんですが、水が違うから失敗しました。」
「西条の水は中硬水ですか。」
佐々木先生 「そうです。この辺で、ああいう水が出るのはごく一部で、西条と比治山の一部と、家納喜という酒屋さんがあるあたりですね。」
「前に遊びでビールを作ったときに、松笠山の水でないといいのができないといわれたんですが、松笠山の水はどうですか。比治山は、裏に緑があるからいい水が出るんですか。」
佐々木先生 「松笠山の水は軟水です。比治山は硬水です。比治山の緑と、あそこの土質が上手くバランスが取れていて、いい中硬度水が出ているんだと思います。電車通りをこえるとすぐに鉄分の多い水になります。」
「松笠山の頂上ではなんでいい水が出るんですか。」
佐々木先生 「広島には山の頂上にいい水が出るところが結構あります。極楽寺山とか、竹林寺とか、福王寺とか。中国山地とつながった水脈があるんだと思います、松笠山もその一つだと思います。」
「地下水が宮島の干潟みたいな所に出てくるというお話でしたが、海の中に地下水が湧くようなところは生き物も違ったりするんですか。」
佐々木先生 「地下水が湧くところは酸素がないですから、多様性は非常に少なくなります。ヨコエビとか、ほんとうにきれいなところに住める一部の生物しかいません。しかしそれがちょっと流れていくと、すごく多様性を育みます。」
「藻場の近くには地下水が湧くところがあるという話を聞いたことがあるんですが。」
佐々木先生 「それはあると思います。海の中に地下水が湧いて塩分が下がると、ものすごく生物の多様性が増えるそうです。瀬野川でも川の中に、湧き水があるところは、水がきれいですごく生物の種類が多いんです。」
「地下水脈の話をされたんですけど、地下水脈というのは、陸地の上の川とは違った流れがあるわけですか。」
佐々木先生 「ええ、地下の岩盤の隙間などをぬって流れているみたいですが、とても複雑な流れのようです。今は、超長波で地下水の流れがだいぶ分るようになりました。ある井戸とそのすぐそばの井戸の水脈が全然違うということもあります。」
「地下水も山の方の状態が変わるとどんどん変わってきて、で、中流の方で人間がいろいろ流すとそれでまた地下水に影響するわけですよね。」
佐々木先生 「ええ。片方で汲み上げると、こっちの地下水が変わる場合もあります。可部にコーラ会社が来ましたよね。大量の水を汲み上げるんで、まわりの井戸が出なくなったという話をよく聞きました。昔は可部は三メートル掘ったら地下水が流れていたんだそうです。砂がたまったところで、どこを掘っても水が出ていたところですよ。」
「そういえば、伏流水を使った水道水源がありましたよね。」
佐々木先生 「可部は水が豊富なところだったんですよ、昔は。今はもうだめですけど。水はあるけど汚いです。
上根の方から出てくる地下水と太田川本流からしみだしてくる地下水がよくて、可部駅の周辺でバランスがちょうど取れていたようです。可部高校あたりもよかったんじゃないですかね。酒屋さんがありますから。」
「太田川の水はかなり悪いようなお話だったんですが。まずやらなければいけないことは、やっぱり下水の処理ですか。」
佐々木先生 「下水処理でしょう。ほかにもありますが、まず、団地や各家庭の下水処理でしょう。それから、護岸工事の見直しというんですか、護岸工事をすると、瀬野川で研究しているんですが、無機質(のイオン)が流れてきますから、そこの生物が殺されてしまうんです。一年ぐらいで回復はするんですが、元には戻らないんですね。一年やそこらでは魚がつくような状態にならないんです。それに、ヨシ原なんかがあると、生物にはいいんですけど、ヨシを刈るとだめです。もともと広島はヨシが多いところなんです。ヨシは花崗岩の砂地には多いんです。吉島はヨシが多かったから吉島なんですよね。昔、ヨシ島って書いたんですよ。」
「広島カキは太田川の水質とは関係ないんですか。」
佐々木先生 「いや、大いに関係あります。カキの業者さんからよく聞いたのは、十月に雨が少ないと、二月にカキが採れないんだそうです。雨が降って山から栄養源を流してくれるんでしょうね、そして、カキが育っておいしくなるということだろうと思います。昔は堰なんかなかったですから、雨が流す水はもろに広島湾にきよったからですから。」
「太田川が持っている微量な成分が関係しているということはあるんですか。」
佐々木先生 「太田川で調べたことはないんですが、東北では、川のフルボ酸鉄とか、そういうものが影響があるというのは、北大の水産の先生がやってます。襟裳岬で、戦時中に燃料に山の木を全部きったために、昆布や魚が戦後全然獲れなくなったといいます。それで、植林を進めて、植林の面積が増えるごとに、昆布の収穫が上がってきて、魚の水揚げも上がってきたというデータがあります。」
「今広島カキの水揚げが減っているのとは直接関係ないですか。」
佐々木先生 「今は汚染でしょう。だって、阿多田島のところでも赤潮が出るんですから。大水が出たときの流量調節にも問題があると思います。六つの川全体に流すべきですが、洪水対策ですから、難しい面もあると思います。ぼくらが子供の頃は、ちょっと雨が降ると宇品のほうは水浸しになって電車が通らなくなっていた。それが当たり前だったんです。今はそういうこともなくてありがたいことですけど、どっちがいいか。段原の方も放水路ができる前はよく床下浸水してました。」
「先生は、将来は東京の方が広島より水道水の質がよくなるかもしれないとおっしゃっていましたが、川の水質そのものが汚れていっているということと、浄水場の設備の問題があるんですか。」
佐々木先生 「設備は一番いいクラスの急速濾過装置をもっているんですが、原水の水質が悪くなってます。今年魚切ダムでアオコが大発生して活性炭を使ったんですけど、有史以来広島市で大量の活性炭を使ったというのは初めてですよ。いままでも危機感があって活性炭を用意していたんですが、浄水場で活性炭を大量に使ったという例はなかった。魚切でもなかった。プランクトンのデータをみると、何年か前の大渇水の時から、プランクトンの種類が変わっています。魚切の上流に湯来町の人口の半分が住んでいる団地がありますが、あそこの排水設備もあまりよくないです。昔のタイプの排水処理施設で、窒素・リンの除去が不十分です。作られた当時は法律が甘かったから許可されましたが、今だったらだめです。そういう設備をフル運転しているわけです。」
「法律が変わっても設備は変えなくても良いんですか。」
佐々木先生 「ええ。だからなるべく業者さんは、新規にせずに改装にするんです。家でもそうです。改築でやると新しい建築基準でやるから、建材なんかが高くつきます。だから、改装にして、古い基準でやろうとしますよね、工場もそうです。改装にすると、古い排水基準でできますから、排水処理施設はそのままでいいんです。で、生産量だけアップさせる。生産量が増えると当然排水も増えますが、排水処理場は変わらない。だから、処理しきれていない汚水がたくさん流れることになります。そういうのが多いんですよ。」
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