準備ニュース10

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学習会報告(6) 広島-「水」−あれこれ

 ・汚れてきた太田川

 ・地下水の不思議−「名水」−

 ・水が文化を育てる

 ・水は自然が育てる−水環境との関わり方を見直そう

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【準備ニュース10号】

汚れてきた太田川

「迷」水百選
 
佐々木先生

 
「太田川は上流、中流、下流のいたるところで汚れてきています。太田川は日本で最も電源開発された川で、水路ばっかりなんです。

 冬の太田川本流は中電のパイプの中だといわれているぐらいで、高瀬堰のすぐ上流に土師ダムとか上流のダムの放流水が集まってくる。パイプの中を通る水は死に水だとも言われています。

 生物の多様性がなくなって、単一の生物しか住めないような水になってます。
 
 特に土師ダムからの放流水なんか典型的なんですけど、ここに出てくる水の生物多様性指数(水生昆虫)は非常に小さい、決まった種類の水生昆虫しか成育しにくい水だといいます。

 だから、『迷』水百選なんです。」

川底がヘドロ化してきた

 佐々木先生

 「これは高瀬堰のヘドロを撮った写真です。高瀬堰の貯水池の東に高陽取水口、西に八木取水口があります。ここで取水された水は、瀬野幹線を経て、東広島の約90パーセントを給水して、大崎上島、下島へいっています。少し下流の戸坂取水口の水は、中山を経て、呉から音戸町へいきます。呉市の約50パーセントの水を給水しています。まさに広島県の水がめですけど、高瀬堰のすぐ上流では太田川本流と根の谷川、三篠川が合流しています。実はこのあたりは十五年ぐらい前からかなり汚れていて、全国の水源の中で最も大腸菌の多い水だと言われたこともありますが、それは今も変わってません。可部とかは急速に人口が増えたんですが、下水道がなくて生活廃水が垂れ流しで、汚れがみんな高瀬堰に流れ込んでいるという状況が長く続きました。ようやく下水道が通ったので、これからどうなるか、と注目しているんですが、現在さらに上流に家が建っていて、汚れが安芸飯室とかの上流に移動しているような格好です。最近は、中流域から上流域にかけても川底にヘドロがたまってきています。

 上流に団地ができるとどれだけ水が汚れてくるか、僕が育った呉の二級水源池のことをお話しますと、二級水源池は、広の郷原というところにあります。つい二年前まで、広町三万七千人の水源でした。ぼくが小学校のころは、ここの水で飯盒炊飯した記憶があります。高校の時、昭和40年ごろのことですが、女の子とデートしてボートに乗りました。そのとき水がとてもきれいだったことは、今も忘れ得ぬ思い出です。

 ところが、その後上流の黒瀬町に団地が出来だして汚れ始めました。十年で、みるみる汚れました。汚れの進行は、黒瀬町と、広大が移転して東広島周辺にも団地ができたことと大体比例しています。黒瀬町では、団地の下水を処理するのに、単独浄化槽といってトイレの水だけ浄化するので認可がおりていたんです。汲み取りだけでも認可がおりていました。でも、汲み取り便所だと、『臭い』とかいって広島の人が買わないので、トイレだけ水洗にする単独浄化槽というのがすごく流行りました。今は台所もし尿も一緒に処理する合併浄化槽じゃないと認可されませんが、一度設置した単独浄化槽を合併浄化槽に変える義務はありません。

 太田川周辺、瀬野川一円もこの単独浄化槽がすごく多いです。個人的には、それが川を汚している一因じゃないかなと思っています。台所の水が浄化されていませんから。そこへ今からお話する食生活の変化などがあるものですから、瞬く間に汚れてしまいます。」
 
ヘドロ化の最大の原因は処理されない生活排水

 佐々木先生 「なぜ川底にヘドロができるか、太田川の場合、中流や上流にそんなに工場とかありませんから、急に増えている団地の排水が、ヘドロ化を進めていると考えられます。太田川の汚れの原因は生活排水だと、広島市もはっきり言ってます。汚れの七割ぐらいが生活排水によるものだということです。BODという汚れを表す値をみると、工場が出すBODよりも各家庭が出すBODの方が大きいということです(BODとは、有機物汚れのことで、正確には生物化学的酸素要求量)。日本の中小の都市では、生活排水による水汚染が現在はメインじゃないかと思います。瀬野川でずっと水質分析を続けていると、家が増えるごとに川が汚れるというのを実感します。

 生活排水から窒素とかリンが流されます。栄養に富んですぐ藻の生えるタイプのリンですから、褐藻とかラン藻といった藻が石にべっとり生えます。ちょうど畑に肥料を撒くように、生活排水などから供給される窒素・リンで藻が生えるんですが、川の中に藻が生えるということは、さらに水が汚れるということを意味します。藻が生えると、空気中の炭酸ガスを吸収して、水の中で有機物を合成して、蓄えることになります。それが腐ってヘドロになるわけですから、炭素の収支でみますと、流れてきた汚水がさらに汚染されることになります。物質収支の正確な計算はできないんですが、長年川を見ていると、藻が生えているところの下流域は、確実にヘドロ化します。これは地元の人も経験的に言われます。藻が腐って、大腸菌を増やすと同時に、ヘドロになります。
 
表1 生活排水のBOD負荷量 表2 食品種類別のBOD負荷量
排出源 BOD負荷量(g/人・日) 種類 コップ一杯(200ml)の
BOD負荷量(g)
便水 便所 13 お茶 0.06
生活雑排水 台所 18 米のとぎ汁(一回目) 2.4
 洗濯・風呂・洗面・掃除雑用 ラーメンの汁 5.4
広島市資料より ジャガイモの味噌汁 7.4
BODとは水中の有機物が微生物の
働きで分解される時に消費される酸素の量。
有機物による汚染負荷の目安になる。
ビール 16.2
牛乳 15.6
天ぷら油 300


 普段の生活で一人が一日に排出する有機物は、人によって差がありますが、トイレからはおよそ十三グラム出します(表1)。台所からは、十八グラム、風呂とか洗面所とかは九グラム流しています。風呂の水は結構汚いんです、汗におしっこと同じ成分が入ってますから。台所の排水と風呂・洗面所の排水を足すと二十七グラムになります。有機物で考えると、し尿よりも生活雑排水の方が倍ぐらい川を汚しているということになります。


 台所の排水が本当にヘドロを作るのか実験してみました。ヘドロを分析してみますと、90〜95パーセントは太田川特有の花崗岩の砂なんです。その表面に難分解性の有機質がべったり張り付いています。もちろん窒素とかリンとかをたくさん含んでいます。太田川のきれいな砂を取ってきて、ふるいにかけて大体ヘドロの粒子と同じ大きさにして、ラーメンの汁と混ぜてみました。日光を当てながらぐるぐる混ぜたんですけど、ヘドロは出来なかった。米のとぎ汁を使っても、藻は生えるけどヘドロ化しなかった。味噌汁でもできなかった。ところがこの三つを混ぜてやりますと、一週間かちょっとで、川にあるのと同じようなヘドロが出来た。つまり、食べ物が混ざってくると、砂は非常にヘドロ化しやすい、いろんな藻(バクテリア)が生えやすくなって、それが腐ってヘドロになる。ヘドロの素は食べ物だといっていいと思います。

 食品の成分で比べてみると、ラーメンの汁は、人間のうんちやおしっこ(し尿)の倍くらい水を汚します(表2)。だから環境問題を論じる人は、ラーメンの汁を全部飲まないといけません(笑)。ビールなんかも、流すとし尿の8倍ぐらい汚します。だからビールの栓をあけたら最後まで飲みましょう。飲み屋でビールを残すやつはけしからんということです(笑)。牛乳も大いに水を汚します。賞味期限を少し過ぎたようなのを流したりしますが、これもいけません。油なんかもすごく汚します。流しちゃいけません。油というのは有機物の固まりで、炭素・水素・酸素というエネルギーの固まりです。ですから、ジェット機や自動車が動くんですが、石油から作った油でも、菜種油や米から作った油でも、炭化水素という概念からみれば一緒なんです。てんぷら油でもディーゼルエンジンは走ります。

 昔は家があって排水を流しても川は汚れなかった、という方もおられますが、三十年前と今では、食事の仕方が随分違います。例えばラーメンなんか、三十年前には、ぼくらはラーメンの汁を全部飲んでました。飲まないと、もったいないと怒られた。だからラーメンを食べてもラーメンの汁が川に流れることはなかった。でも今は、みんなラーメンを食べるとほとんど汁を捨てています。こういうものを川に流すのはもってのほかなんですけど、人間の食べ物ですから、魚も食べるからいいだろうという感覚があります。もう一つ、古い人には、ごみは川に捨てるという感覚が上流域にあります。昔はごみ収集なんかなかったですから、ごみはみな川に捨てる、というのが別に悪いことじゃなかった。必要なものは全部取って、捨てるものは流す。昔は洗剤とかプラスチックとかいうのは全くなかったですから、流すことで全部分解されて、三尺流れれば水清し、だった。それですんでいた。でもいまはそれがヘドロを作っています。

 それから、ラーメン一つをとっても、三十年前のラーメンと今のラーメンとでは汁なんかの成分もすいぶん違います。今の方が油分が多い、だからBODが高くなります、それと、これが一番問題なんですが、リンが多い。すごくリンが多い。麺なんか特に、漂白して色をきれいにみせるため安定化剤としてポリリン酸という物質を添加します。これは食品添加物として認可されていて、味噌にもしょうゆにも、特にコーラなんかにすごく入ってます。昔、あるメーカーのコーラを飲むと骨が溶けるという噂が立ったことがありました。骨に吸収されやすいタイプのリンを使っていて、それが骨をぼろぼろにするという動物実験の例があったらしいです。その後、リンの形態を変えて、人間には割と安全で、食品を安定化させるためのポリリン酸安定化剤というのが開発されました。いまそれをいろんな食品に大量に使っています。たとえば味噌でも大量に使っています、豆を煮るときに放り込みます。そうしないと、店頭に出した時に、色がわるくなって売れないんです。昔は味噌というと、表面が真っ黒になって、それをそぐと中からいい香りの味噌がでてきたというのが当たり前だったんですが、今は表面からきれいです。これは薬剤が入っているからです。本当は空気で酸化しますから、表面は黒くなるはずなんです。

 ポリリン酸は食品衛生法で許可されていますから、使っても法律違反じゃあありません。洗剤のリンは、ものすごく騒いで少なくなりましたけど、食品に添加されるリンのことは意外と知られていません。カップめんのリンを調べてみると、すごい量です。前に小学校の授業で、パックテストでリンを計ったんですが、千倍薄めても、リンが大量に出ました。リン酸には、すぐに利用されるリン酸と、じっくりじっくり肥料として効果を発揮する遅効性のリンがありますが、ポリリン酸は遅効性になります。川ではヘドロ化を進めますが、そのあと海に行ってもまだリンがたくさん残っていて、赤潮になるタイプだと思います。こういった食品や添加物の質の変化が、水を汚す大きな原因だと思います。」
 

上流や広島湾でもヘドロ化が進んでいる

佐々木先生 

「下流のデルタでもヘドロがたまっています。六つの川の中では天満川が一番多い。猿猴川も増えてきました。今は、雨が降ったら流量調節をやって、水を全部放水路に流します。昔は大水が出るとヘドロが洗い流されて土砂が堆積していたんですが、それがなくなってヘドロばかりたまるようになりました。原爆ドームのところでもヘドロの厚さが四十センチぐらいありますが、コンクリートの護岸でヘドロをおおいかぶせています。このあたりは今でも原爆がわらがでます。ヘドロを掘ったら原爆がわらがでてきて、そこをもっと掘るときれいな砂地になります。これは、原爆があった五十数年前は、きれいな水が流れていた、という証拠です。その上にヘドロがたまっているということは、戦後ヘドロがたまったということです。」
 
 広島湾もヘドロだらけです。

 カキ筏の下には、場所によってへドロががたくさんたまっています。カキがプランクトンをたくさん食べて、排泄物を下に落とします。それがヘドロになります。

 水深二十メートルぐらいのところに、針金を十五メートルぐらい下げてカキを養殖するんですが、ヘドロのせいで下のほうで酸欠になりますから、十メートルぐらいまでしか養殖できない。それでも業者さんは、カキをたくさん水揚げしたいものですから、筏を増やします。そうすると密殖になります。密殖にすると、筏が潮流を邪魔して、ますます水が停滞して、水質が悪くなる。その結果へドロがたまる、という悪循環を繰り返すことになります。
 
 最近マイクロバブルで酸素を与えてカキの成育を促進させようということでやってますが、確かに対症療法としては、死にかけた海では有効だと思いますが、やっぱり汚れを流さない、病気のもとを絶つのが基本だと思います。

 ちょっと話がそれますが、現在僕たちの研究室では、バイオテクノロジーを使って、カキ筏の下のへドロを、生分解性プラスチックという分解しやすい、地球にやさしいプラスチックに変える研究をしています。自然から採集した特殊な菌でヘドロをプラスチックに変えます。

 広島湾はずいぶん汚染が進んでいます。世界遺産の宮島の大鳥居ところはアオサが大量に出て参っています。このアオサの遺伝子を調べた人がいるんですが、どうも日本原産のアオサじゃないようです。フィリピンとかタイのプーケットのリゾート地にいるような遺伝子に近いアオサの仲間だそうです。あちらから船底にくっついて入ってきて、いい環境があるということで、広島湾の世界遺産の下で大繁殖している、ということです。

 上流はきれいだと思われるかもしれませんが、だいぶ汚れてきています。立岩なんかかなりひどいです、吉和にいろいろ温泉とか出来て人が多く来て、排水の質が変わっています。立岩ダム周辺は渓谷で非常にきれいなところなんですが、ヘドロが流れています。オオサンショウウオがヘドロの中をうろうろしている。オオサンショウウオの親は大きいから強いですが、赤ちゃんは育たんと思います。広島城のお堀の鯉といっしょです。お堀に鯉の赤ちゃんを入れると死んでしまいます。人間と同じで、大人はしぶとくてなかなか死にませんが(笑)、本当は赤ちゃんがちゃんと育って生活できるようなところがいい環境なんです。

 このように、ここのところ太田川の水は上流から河口までずいぶん汚れてきていて、それが水底のヘドロになって現われています。ちょっと心配な状況です。」
 

● 汚れてきた太田川
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