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「石を」巡る自然と文化の結びつき

国際海洋都市ミレートス

川・百話 第一話

水の道をたどる(1)

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【準備ニュース3号】

国際海洋都市ミレートス―川とともに栄え川とともに滅んだ町―


 かつてトルコ西海岸にミレートスという町があった。マイアンドロス川の河口部に開かれたこの町は、紀元前6世紀に大繁栄期を迎えた。哲学者ターレスをはじめ著名な歴史家・建築家達が活躍し、豊かな水の文化を花開かせた。紀元前5世紀から町の再建に着手し、「聖なる道」(幅28メートル、長さ200メートルの大理石の道)が建設され、その周囲にデルピニオン(神殿)、ブーレウテリオン(議事堂)、アゴラ(広場)、ストア(列柱館)などが整然と立ち並んだ。丘の上には2万5千人を収容できる大劇場も建設された。その反対側には大浴場も作られた。エジプト、ローマ、シリアなど周辺諸国の人々で町は溢れていた。しかし紀元3世紀頃からこの町は急速に衰え、終に廃墟と化してしまったのである


 ミレートスは天然の良港に恵まれた地中海有数の国際海洋都市であった。アナトリア高原に源を発するマイアンドロス川は、蛇のように幾重にも曲がりくねってミレートスに注ぎ込み、町に豊かな恵みをもたらしていた。

 上流域は落葉ナラやブナが鬱蒼と生い茂る深い森に覆われていたので、川は豊富な水を湛え海は豊かであった。ミレートスは天然の良港と豊かな森・川・海、つまり水の恵みによって繁栄したと言って良い。

←大劇場の跡


 繁栄に伴い人口が急増した。人口急増は多量の食糧を必要とした。そこで人々は中・下流域の川沿いの森を切り開いて小麦やオリーブ栽培の耕作地を開発し食糧増産に努めた。また上流域の森を伐採しその木材で青銅器や陶磁器を生産した。それらを木材で製造した交易船に積んで諸国へ売りさばいた。交易によって獲得した膨大な資金は町の再建に使用された。道路・住宅・劇場・浴場などが次々と建設された。これらの建設工事に上流域の森の木材が大量に使用された。膨大な量の木材を燃料にする浴場で人々は疲れを癒した。

 だがミレートスの発展は森の資源に支えられていたのでマイアンドロス川中・上流域の森は見るみるうちに裸の荒地となっていった。

 
 ミレートスをはじめ地中海沿岸地方は冬に大量の雨が降る場所である。その冬雨がマイアンドロス川流域の農耕地や伐採跡地を襲った。雨は瞬く間に表土を侵食し、土砂をマイアンドロス川へ送り込んだ。川は土砂で溢れ、河口部へ土砂は止まる事なく流出した。天然の良港は土砂で埋め尽くされた。港を失ったミレートスは終に海洋都市としての機能を完全に失ってしまった。

 土砂で埋まった所には湿地帯が形成され、そこにマラリア蚊が蔓延した。人々はマラリアに悩まされた。思いもよらぬ川の逆襲によって、ミレートスは3世紀頃から急速に衰退し終に廃墟と化してしまったのである。


←ミレートス かつて海であったところ

 かつてマイアンドロス川は豊かな水を湛えていた。森も川も海も豊かだったからである。その水の恵みに深く依存してミレートスは繁栄した。この繁栄を支えている根源が水であると気づいた哲学者ターレスは「万物の根源は水である」と人々に語りかけた。しかし人々はターレスの言葉を理解できなかった。いたずらに中・上流域の森を破壊して町の再建に走った。その結果川は土砂で溢れ、終に人の住めない廃墟となったのである。

 近々「太田川新聞」(仮称)が発行される予定である。川とともに栄え川とともに滅んだ町・国際海洋都市ミレートスの教訓は、太田川とその未来を考えるひとつの視点になるのではないだろうか。ターレスの言葉も脳裏におさめて私たちの太田川を考えたいものである。

三村 泰臣(広島工業大学:哲学)

 
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