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学習会報告(5)

松枯れ跡地と人工林が崩れた

松枯れ跡地や人工林は根の力が弱い

危険の認識と森林の整備から防災を始めよう


白木町のごみ処分場計画にあらたな動きの可能性−その1−

芸北神楽と太田川

あの優しかった可部の町は−(一)

グループ活動紹介(3)「広島ゴミ0研究会」

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【準備ニュース8号】

学習会報告(5) 6.29の土石流災害が教えてくれるもの


 太田川の話はここでおいといて、昨年の六月二十九日の集中豪雨による土石流災害について、あの災害が何を教えてくれたかお話してみたいと思います。

 特に広島市の西部から極楽寺山周辺が非常に大きな被害を受けたわけですが、太田川筋を走っていても、いたるところ、特に人工林ですが、崩れています。なぜこんなことになったか。
 
 被害の最大の原因は、最大時間降雨が40から50ミリ、最大3時間降雨が120から150ミリ、という記録的な集中豪雨であることはいうまでもありません。

 もう一つは、いわゆる30度を超えるような急傾斜地ですね、これが非常に多い。

 しかも、マサ土である、ボロボロの、いわゆる砂みたいに非常に崩れやすい、粘性がない。

上へ ☆松枯れ跡地と人工林が崩れた

 それから、これが今日の本題になりますが、松枯れ跡地と、人工林が崩れている。佐伯区の荒谷川の川筋で、集中的に二十人の方がなくなった。もともと「荒谷」、荒れる谷なんですが、そこを省みずに、スギ・ヒノキを植えて、ごく最近も、伐ったり植えたりしている、最も古くてもせいぜい三十年で手入れはほとんどされていない。


 そこが集中的に崩れた。そんな谷の下流に宅地造成をしてしまった。普段は水が少なくて、ちょろちょろ流れているもんですから、河川ぎりぎりまで家を建てた。その上に、砂防ダムをいくつか新しく作っているんですが、そんなのはもろともせずに、全部乗り越えてしまった。

 荒谷川にはとてつもなく大きな砂防ダムを造っていたんです。砂防ダムがいくつもあったんですが、それを全部乗り越えてしまった。山を怒らせたら、砂防ダムなんかを造ってもだめだよ、ということなんです。

 どこが崩れているかみていくと、極楽寺山系の稜線の瀬戸内海側に集中して崩れている。稜線の内陸側も確かに崩れているんですが、若い人工林だけ数ヶ所崩れている。

 海側は、人工林も、それから松枯れ跡地で崩れている。内陸側は松枯れがほとんどないんです。そして、十数年前と比べると、特に海側で松枯れが非常に進行している。たまたまここに集中的に雨が降って、しかも松が枯れているために、崩れてしまった。崩れたおよそ150ヶ所を全部歩いて調べてみますと、健全なアカマツ林が崩れているのは、わずか1ヶ所です。

 スギ・ヒノキの人工林が29パーセント、松枯れ地が60パーセント、それから山火事の跡地のヒノキの人工林も多い。ですから、松枯れ地と人工林が崩れたと断言してもいい。植生の影響が如何に大きいか、ということです。
 

上へ ☆松枯れ跡地や人工林は根の力が弱い

 では、なぜ松が枯れると、崩れやすくなるか。生きたアカマツは、根が、たとえば、直径が胸の高さで30センチだと、20トンの土をおさえる力を持っている。

 20センチでも、10トンぐらいの土をおさえる。10センチでも2.5トンの土をおさえる。松枯れの少ない極楽寺山の裏側(内陸側)には実際にこういう松が生えている。松の根っこというのは、かなり深く、深根性で張っているわけです。根が張っていくと、ちょっとやそっとの土石流はおさえてしまう。

 ところが、枯れて十年ぐらい経つと、その力はなくなってしまう。松枯れのあと、広葉樹林が再生してくるんですが、まだまだ若いので、生きていたときの松の力には到底およばない。

 松が枯れてしまった跡は、緑があるにはありますが、今の時点では、5センチとか10センチという太さのもやし林なんです。こういう林の土をおさえる力は、健全な松林の五分の一でしかない。だから崩れるんです。


 次に、人工林なんですが、まず、非常に若い人工林が、崩れている。昭和63年の土石流災害の後も植林し、そこが崩れている。間伐などの手入れもされていない。もっと深刻なのは、なんで荒谷川はあれだけ大きな砂防ダムを造っていながら、大災害になったかというと、スギが、生きたスギが流れたんです。

 だから、土石流の体積が倍ぐらいに増えた。しかも、スギの流木がたくさん出て、それが停滞して、一時的なダムを造る。そうするとさらにまわりのスギを集めてしまって、ものすごく膨れ上がるんです。それが一気にきたわけです。砂防ダムは気休めにしかならなかった。

 なんでそんなことになったのかというと、谷の底まで植林したからです。スギは水があると成長がいい。こういうところに植えたら成長がいいから、ぎりぎりまでスギを植えろ植えろと指導した。

 今回の災害は、ある意味で林業の責任問題でもあるんです。

 谷底は、普段水が流れていなくても、水みちです。そういうところにたくさん植えた。しかも、まだ木の根が張っていない。そこから、ごっそりいくわけですよ。これではたまらない。砂防ダムを設計した時の計算をはるかに超える体積の土砂やスギが流れたはずです。
 

 
 森林を伐採すると、残った根が少しずつ腐ってくる。十年から二十年の間に、残った根がだめになる。

 代りに植えた木が生長してくるわけですが、今はまだ若い段階で、30年以下なんです。しかも手入れが悪い。伐る前から見ると根の力は五分の一ぐらいしかない。


 災いは忘れた頃にやってくるといいますが、伐って植えた直後じゃあなくて、植えて十年以上経ったところで崩れる。そして、崩れたら砂防ダムを幾つ作っても間に合わないんです。
 
荒谷川上流域

スギ人工林(林齢8年)
 
荒谷川中流部

スギ人工林(林齢16年)

 普段は、曲がりなりにも若い林だけども木があるから、多少の雨だと崩れないんですね。もし森林がなかったら、表土が流れて禿山になってしまう。やはり森林が覆っているということは非常に大きい、さらにそれが立派な広葉樹林だともっとがっしりとしてくる。

 多少の雨が降っても土石流は発生しない。ですから、松の元気なところでは土石流は発生していない。是非一度現場を見ていただきたいと思います。実に、クリアーです。山にどういう森林がどういう状態で育っているのか、ということが、防災上決定的に大きいんです。
 

上へ ☆危険の認識と森林の整備から防災を始めよう

 森林はほっといても育つわけですから、森林を守るためには、宅地造成をしない、人工林を作らない、というのが一番いいんですが、しかし、いまや松枯れ地やスギ植林地のすぐ下に多くの団地が造成されてしまっています。


 これからも、いつでも去年と同じことが起こりうる。怖いなと思います。住んでらっしゃる本人は知らないんだけど。非常に怖い。そういうところがたくさんある。たまたま去年は極楽寺周辺がやられただけで、明日は我が身です。

 だから、現実の山の危険性というものを、まず住んでいる方々がきちんと認識するということが大事です。そして、少なくとも人家が建った所の上では、きったりはったりしない。速やかに人工林は間伐して、育てる。森林が育ってないところは、一生懸命植栽でもして、きちっと育てる。

 で、現状をきちっと説明して、集中豪雨があったらすぐに逃げなさい、ということを徹底するしかないんじゃないか。

 たとえば今回の被災地の荒谷川で、林業をさせないでお金が入らなかった場合の損失と、今、災害復旧なんかで使っている金額、砂防ダムなどで百億円、あと、道路工事・河川改修などありますが、それがどちらが得なのか。

 荒谷川の林業でもうかる金額は、一千万ぐらいしか儲からないんじゃないですかね。だから、一千万円の補償で林業を中止してもらえるようお願いしたら、百億円失わないですんだ、千分の一での損失(投資)ですんだ、そんな話もあり得ます。

 やはり、森林に対して予備的にきちんと投資をして、民有林の管理保全のために、相続税の問題なんかを含めて法整備を進めるべきではないか。市街地域になってしまった場所の森林を、どうやって健全な森林として育てていくか、守っていくか、そのために、財政的な、いろんな意味での制度的な整備が求められています。

 現在私の研究室では、このあたりの問題を研究しています。森林を守るのには、土木工事をすることから比べたらお金はほとんどかからない。」
 

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