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学習会報告(5)

ダムの必要性についてもう一度考え直してみよう

人工林と自然林では保水力に大きな差

最上流域を広葉樹林にすれば、立岩ダム並みの「緑のダム」

ダムを作るより、森林を守る方がはるかにお金がかからない

林業経営の方向性の転換を

解説


白木町のごみ処分場計画にあらたな動きの可能性−その1−

芸北神楽と太田川

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【準備ニュース8号】

学習会報告(5) 治水・利水を山(森林)から考え直そう

●はじめに

 考えてみると、陸地の上というのはどこでも、ある川の集水域なんです。だから、私たちの営みは全て、『流域』での活動ということになるわけです。


 林業・農業・都市の生活など、あらゆる人間の活動が河川の水質や水量の変化に影響を及ぼしている。

 つまり、川を流れる水の質や量のことを考えるとき、その川の集水域(流域)全体の、人間を含めた生態系の影響をトータルにみていく必要がある。

 だから、切り口は色々あるとは思いますが、この集水域で、太田川の流域で、われわれがどんな営みをしていくべきか。

 下流域の営み、中流域の営み、上流域の営みとそれぞれありますが、基本的にはサステイナブル、持続可能な形で、我々がいかに生きていくべきか、そういうことをこれから考えていかなければならない。

 農薬の問題、ダイオキシン、環境ホルモン、河川水の流量の問題、全部絡んできます。洪水の問題のような、非常にシビアな問題もある。

 そして、生活の場はいろいろあるけども、上流域、中流域、下流域は一体です。

 そのことを、渇水が起きた時、洪水が起きた時に、私たちははっと気付かされるわけです。

 この一体性の中で、やはり、水量・水質を保全しながら、二十一世紀に向けてどうこの太田川の集水域(流域)で生きていくのか、という問題があります。

 だから、太田川新聞の目指している方向性というのは、一過性のものではなくて、普遍的に必要なものである、と思います。
 

☆ダムの必要性についてもう一度山(森林)から考え直してみよう

 現状をみてみますと、たとえば、非常に大きな渇水があると、六年前なんかそうでしたが、すぐダムを造れという発想が出てくる。


 しかし、本当に、ダムが治水・利水に役立っているのか。

 アメリカでは、もうダムは造らないんです。ダムを造る時代は二十世紀の前半に終わって、今はダムは造らない。

 日本では洪水とか渇水が起こると、相変わらずダムを造ればいい、という話が出てくる。本当にそれでいいのか。

 ダム信仰というのは、工学的な発想です。現在治水・利水の主流を担っているのは工学屋さんで、集水域、流域の生態系が、河川に水が流出していくプロセスにどう影響しているのか、といったような視点やモデルをほとんど持っていない。

 極端ないい方をすれば、今のところ、どんな森林であろうが、どんな生態系であろうが、河川に出てくる水の量を、大体同じモデルで計算して、ダムの建設を計画してしまうわけです。はたしてそれでいいんだろうか。

 それぞれの川の流域で植生も違うし、人間の活動の特徴も違う。そのあたりを全て考慮に入れて、利水や治水の計画を立てるべきではないか。

 たとえば、森は緑のダムだというけれども、森にもいろいろある。

 今回は、私たちが暮している太田川流域を材料に、人工林と広葉樹林との比較から出発して、自然がもともと持っている保水機能をもっと見直した方が、ダムが抱えているいろんな問題をお金もかけずに解決していけるんじゃないか、そういったことを少しお話してみたいと思います。

 先日、名古屋で洪水が起こりました。利根川などの関東平野の水系なんかでも、いつ氾濫してもおかしくない、という状況を抱えています。

 吉野川の第十河口堰の問題にしても、あそこは、本当に人工林が多くて、八割ぐらいがそうだといわれていますが、その辺を変えれば、根本的に河川の流量の計算が変わってきて、もちろん可動堰なんか作る必要はないんですが、もっと、お金がかからない、安全を守るための方法を考えることができるはずです。
 

上へ ☆人工林と自然林(広葉樹林)では保水力に大きな差がある

 森林は緑のダムだと言われますが、本当にダムなんだろうか、洪水の時は、流量をおさえてくれて、渇水の時は蓄えた水を流してくれるんだろうか。

 意外と、森林が持っている保水とか治水の機能は量的にはきちんとおさえられていないんです。

 緑のダムだとはいっても、実像が科学的にきちんとおさえられているわけではなくて、そういう雰囲気が先行している、といった感じがします。

 さらに、人工林と広葉樹林でどれくらい機能が違うのか、といった問題もありますが、科学的なバックボーンに乏しい。

 ところが、時代の流れのなかで林業が左前になって、なかなかスギ・ヒノキでは食えない、ということで、最近は人工林よりも広葉樹林が治水や保水の機能ですぐれている、と行政も一生懸命宣伝してくれています。

 だけども行政も果たしてどこまでそういうデータを持っているのか、確信をもっているのか、という点で疑問を感じます。

 ではこの問題にどう科学的にアプローチしたらいいのか。まず、山火事で森林がなくなってしまったところと、その隣りで焼けなかったところを比べてみました。
 

 これは江田島の例なんですが、地形や地質と雨の降り方が同じところで、森林があるところとないところの水の出方を比較しました。

 そうすると、まず、ピーク時(雨が降って流量が一番多くなる時)の流量がどう違うか、というと、このデータ(焼けて3年後)は、ほんの普通の雨、時間降雨6ミリからせいぜい8ミリのときのものです。

 それでもピーク時の流量が2倍、3倍違う。堤防で洪水を防ごうと思ったら、森林がない場合では、森林がある場合の2〜3倍の高さがないと危ない、ということになります。

 逆に、今度は雨が降らないと、森林がないところの流量は、あるところの3分の1から5分の1になるんです。

 つまり、緑がないと、降った雨がすぐにさっと流れてしまって、土の中にたまらない。

 だから、雨が降らないと、土の中に水がたまっていないものですから、どうしても水がすぐ涸れてしまう。

 このグラフで見る限り、森林のダムとしての機能―洪水と渇水を防いでくれる―は、バカにならないことが分かります。
 

 
 この差はどういった理由で起こるのでしょうか。

 焼けたところとそうでない所で、降った雨水が土にしみこむ速さ(浸透能)を比べてみました。

 焼けてないところの方が、しみこむのがはるかに速いことがわかります。

 表層の土壌が、山火事によってかたくなってしまう、ただそれだけのことで、降った雨水が、じゅうぶんにしみこむことができなくて、水が表層を流れてしまう。

 そうすると、雨がやむと、河川の水が一気になくなってしまう。そして、下流でも、流量が減るということになるわけです。
 こうやって浸透能を計ってみると、保水能力の大きな違いがあらわれてきます。

 森林の土はスポンジのように非常に柔らかい。森林の土壌というのは、土の中に根があるんじゃなくて、根の中に土があるんです。

 1mm以下の細い根が、びっしり張ってるんです。ちょうどへちまのたわしの中に土を詰めているような感じです。

 上には腐植、落ち葉がたまっている。そうすると直接雨滴が土をはねない。そして、雨水がスポンジのような土に速やかにすうっと入っていくわけです。

 このスポンジのような土は、そこに住んでいる土壌動物、ミミズとかトビムシとかいろんな生き物がいるわけですが、そんな生き物と、虫よりももっともっと小さな微生物が作ってくれる。

 たとえば、私が森林の中に足を一歩踏み入れたとしますと、足の下には、何千万匹という小さな生き物がいるわけです。そういう虫が落ち葉を餌として食べるんです。

 そしてミミズとかの大型動物が耕してくれて、柔らかい土が常に維持される。

 森林は一切肥料をやらなくても、畑よりはるかに高い生産力を持っている。落ちた葉を速やかに土壌生物が分解しながら、有機肥料として樹木に与えている。

 自然のシステムとして柔らかい土が出来てくる。この土が高い浸透能、つまり保水力を持っているということです。
 
 
 では、そういった森林の土壌の力は、広葉樹林と人工林で差があるのか。

 浸透能にどのくらい差があるか、ということを調べてみると、大体、人工林は広葉樹林の二分の一から三分の一です。アカマツ林はその中間です。 同じ斜面で比べてみて、これだけの差が出る。

 針葉樹の葉は、分解が悪いんです。リグニンとかの、土壌動物にとって難分解性のおいしくないものがたくさん入っている。そのために、土壌動物や微生物がすごく少ない。


 しかも、スギ・ヒノキ林は一種の構成でバリエーションがないから、おいしくないし、特に手入れの悪い人工林は、林床が真っ暗ですから、なおさら土壌動物が少なくなる。そうすると、土壌がかたくなってしまうんです。その結果、浸透能が悪くなる。


 土壌の浸透能が悪い人工林では、どういうことが起こるのでしょうか。

 今から十二年前に、加計町方面を集中豪雨が襲いました。このときを例に考えてみました。

 この集中豪雨では、人工林のところから、集中的に崩れて、土石流が下流の人家を襲って、住民の方々に被害が出た。

 崩れたところの八割、九割はスギ・ヒノキの人工林ですが、そこから大量に水が出て、土石流が発生した。ところが、となりの尾根の、地形も全く同じようなところで、人工林を植栽しなかった広葉樹林の谷は全く崩れていない。
 
 なんでこんなに差があるのか。今お話した、人工林と広葉樹林の浸透能の違いが関係していないか。

 このグラフは、当時と同じように雨が降った時に、水の出る量が、人工林ばかりの集水域と、広葉樹林の集水域でどう違うか、土壌の浸透能だけを変えてシミュレーションしてみたものです。この黒い方が人工林で、目盛りは対数です。
 

 
 土石流は、雨量がピークにいくまえに発生しているんですが、この間、河川の流出量には人工林と広葉樹林で10倍近い開きがあることになります。人工林の方がはるかに多い。土壌の浸透能が悪い人工林は非常に多くの水が出て、土石流を発生しやすい、ということになるわけです。

 この例から見ても、大雨の時に広葉樹林が洪水や土石流を防いでくれる力が非常に大きいことは明らかです。

 もう一つ、土石流の発生については、根の問題があります。根が土をおさえる、その力はバカになりません。

 この根が、人工林は、特に若い、手入れの悪い人工林だと非常に弱い、もやしになっている。根が大きな力を持たない。

 広葉樹林は根をよく張っていて、土をしっかりおさえている。

 昨年の土石流でも、極楽寺山で崩れてるんですけど、山頂は国立公園でアンタッチャブルなんですね、ですから太い広葉樹林が残っている。

 そのまわりをよけて、広葉樹林をよけて人工林のところから崩れています。この問題についてはあとでお話します。

上へ ☆太田川の場合、最上流域を広葉樹林にすることで、立岩ダム並みの規模の「緑のダム」を造ることができる

 今までお話してきたことを頭に入れながら、太田川のことを考えてみましょう。


 太田川流域は、可部より上流は、9割近くは森林なんです。

 ところが、よくみていくと、森林のタイプがかなり色々あって、とくに中流域は、人工林が多い。西中国山地にある最上流域でも、三割・四割は人工林です。

 これは、かつての一斉拡大造林で、最上流のブナ帯まで、地形や標高を無視して行政が植林するよう指導した結果で、生態学的にみて決してリーズナブルなことではありません。

 
 
 結論から申しますと、最上流域の人工林を広葉樹林に変えることで、立岩ダム一個分に相当する貯水量を得ることが可能になります。

 (注:なぜそうなるのか、計算の方法について最後に解説をのせておきました。興味のある方はご覧下さい

 これは、今までお話してきたように、人工林より広葉樹林のほうが、土壌の浸透能が高く、降った雨水を、地中より深くまで速やかに蓄えることができるためです。

 6年前の異常渇水のときでも、あんなひどい渇水でも、太田川では、かなりの水の量を確保できていた。


 でも、それはダムから流しているんじゃなくて、森林の土壌に蓄えられた水の量、基底流出のおかげなんです。


 さらに、広葉樹林の割合を増やしていくだけで、太田川は、自然の森林から流れ出てくる水だけで充分大丈夫ですよ、ということになる。

 大事に水を使えば、渇水に関すると全然問題ない、ダムが一つもいらない、そういうことにもなり得るわけです。

 ここで断っておかなければいけませんが、私は林業をやめろ、と主張しているわけではありません。

 たとえば、地形や気候の問題を無視して造林した最上流域の人工林を広葉樹林主体に戻すとか、これからお話するように、中流域では、防災面も考慮に入れて、針葉樹と広葉樹の複相林化を進めて林業を維持するといった、自然の特徴に沿った森林の管理をしたほうが得ですよ、ということなんです。

 では、洪水の問題はどうか。

 実は、洪水を防ぐことと渇水を防ぐこととはよく似たところがあって、流域の土壌の中にいかに多く雨水を貯め込むか、ということが、大事になってきます。

 ダムの場合、水が貯められる湖水面の面積というのは、集水域の面積からみたら百分の一から数百分の一なんです。だから、ダムの容積を集水域の総面積で割れば、せいぜい数十センチ分の深さにしかならない。

 集水域というのは非常に広いから、かりに、その土壌に数十センチ水を貯めるだけでも、ダムいっぱいに水を貯めるのに劣らない。堰堤を作って狭いところに水を貯めるか、森林を保水力の高い広葉樹林にして、広い集水域で水を蓄えるか、どっちを選ぶか、という問題になるわけです。
 


☆ダムを造るより、森林を守る方がはるかにお金がかからない

 お金の問題でみたら、どうでしょうか。


 森林を保全するのにかかる費用は、ダムを建設するのに必要な費用から考えたら、比べ物にならないくらい少なくてすみます。ほとんどお金がかからない。

 ただ、問題は民有林で、林業を営んでおられる場合、広葉樹林に転換するということは、商売を中止して頂かなければならない。そのための補償や、相続税の問題などがでてきます。

 でも、どう見積もっても、今ダムを作るよりも、十分の一ですむ、しかも自然を破壊しない。

 かりに民有林を、人工林のようにお金にはならないけど、水源の森として保全していくような、そういう財政システムや、税制面で補助していくことを上手くやっていけば、十分の一のお金で、一つのダムの機能を維持できるということが、簡単な計算で出てくる。

 ダムが本当に洪水を防いでくれるかという問題は、実はよく分かっていないんですが、逆に、貯めた水を短時間にどっと流すことが多いので、これがかなり被害を出している。

 そして問題は、流域が開発されきってしまったところで、たとえば利根川とか、こういうところではいくらダムを作っても間に合わない、いくら堤防を高くしても間に合わないという計算になってしまう。

 それは、河川というものを、河川の中だけでみているからであって、流域全体で土地利用形態というのを見ていかないと、ダムや堤防だけで、洪水をカバーするということは、いくらお金を使っても、不可能なんです。
 

上へ ☆林業経営の方向性の転換を

 たまたま太田川流域は森林が多く、そういう点では、恵まれているわけです。ですが、治水ということを考えると、やはり、森林の内容についてよく考えていかなければならない。もう少し現実的に考えてみましょう。

 人工林は絶対だめかというと、決してそういうことじゃなくて、浸透能でみると、同じ人工林でも、手入れの悪い若齢林は、浸透能がものすごく低い。壮齢林になって、間伐してある程度すき間があって、広葉樹の下ばえがあるような場合は、だいぶ違うわけです。

 針葉樹でも天然林になると、広葉樹林とそんなに変わらない。人工林でもきちんと手入れして、強間伐をして、広葉樹林と人工林が半々になるようにしたら、充分保水機能もあるわけです。

 ですから、中流域の林業のためには、かなり強間伐する、そして、スギの生産をしながら、ある意味では複相林のような形で林業をやっていけば、採算的には合うと思います。

 そういう林業をやっておられる方は、先進的な方の中には少なからずいらっしゃいます。それで、ちゃんと林業が成り立っている。


 ですから、太田川の中流域では林業を維持しながら、しかしきちんと手入れをして、混交林的な発想でやる。

 現在、日本の林業は壊滅状態で、お金にならない。植えてしまった人工林がほとんど放置されて、非常に困っている。

 これをきちっと間伐して、複相林、混交林にしていくということが、大事じゃないか。

 最上流域は、野生動物の保護ということもありますし、なるべく自然の広葉樹林を保全していく、そのために、下流域、全流域からいろんな財政的・人的な援助をしていく。

 これらの作業には多少、お金はかかりますが、ダムを作るよりは遥かに安いんです。

 この辺について、いろんな金銭的な問題をきちんと比較出来ると、行政の方も動かざるを得ない、ということになると思います。

 そのためにも、森林の生態系が水循環に果たしている役割について、詳しい客観的なデータをとり続けることが大事だと思います。

 今の段階では、ダムを作る関係の先生方も、林業サイドの水文学の先生方も、ほとんど人工林も広葉樹林も同じだという発想でやっています。

 だから、どんな流域でも、ダムを作るときの計算の方法がみな同じなんです。これはとても恐ろしいことだと思います。

 森林の機能をフルに生かすことで、現在計画されているダムというのはいらなくなってしまうんです。

 そういう点で、公共事業は減る。国家予算が助かる、ということになるんです。

 太田川の抱える環境的な問題についても、かなりの部分について見通しが出てくるんじゃないかと思います。
 


上へ ☆解説

 太田川上流の立岩・王泊・樽床の三つのダムの貯水量を合計すると5990万トン、集水域は294ku


・現状(上流域の約30〜40%が人工林)での、梅雨期(6〜7月)の降水の行方は、


  降水量を500mmとすると、直接流出が 60%(300mm)、 8820万トン

                   基底流出が 20%(100mm)、 2940万トン

ダムに貯留されるのは、総貯水量5990万トン×20〜30%=1198=1797万トン

                                        =直接流出の14〜20%
 

・上流域の人工林を広葉樹林に変えると、土壌の浸透能が全体として30〜40パーセント増大する

 その場合(計画)、

 降水量が500mmのとき、    直接流出が 55〜45%(約250mm)

                  基底流出が 30%(約150ミリ)、4410万トンになり、

                  基底流出が 1470万トン増える 

 これは立岩ダムの貯水量に相当する
 

 太田川の上流域には王泊・立岩・樽床の三つのダムがあります。最近温井ダムも出来ましたが、これらが広島の「水がめ」ということになっています。

 三つのダムの最大貯水量を合わせると、約6000万トンで、集水域を合わせると、約294平方キロです。

 日本のように、梅雨にばっと降って、七・八月は、夏はそんなには降らない、そういうパターンの中で、これらのダムはどのくらい機能しているのでしょうか。

 たとえば、梅雨時に500ミリの雨が降った時に、ダムに貯められる水の量はどれくらいか、ということなんですが、計算してみると、ダムに貯留できるのは、大体、6000万トンの二割から三割なんです。

 なぜかというと、一応梅雨前に、大雨を用心してダムの水位を落とすんですが、本当に梅雨によく雨が降ってくれるかどうか分からなくて、全部空にはしないわけです。半分から六割七割まで落とすんです。

 そして、梅雨の様子をみては、水位を調整するわけですが、結果的に、梅雨時に、ダムで受けられる水の量というのは、約1200万トンから1800万トンということになるんです。あとは流してしまう。

 たとえば500ミリ雨が降った時に、直接すぐに河川に出てきてしまう(直接流出)のは大体60パーセントです。

 直接流出とは、雨が降ったときに、川の水かさがどっと増える、土壌の表層とか浅いところを伝わって河川に出てくる水のことです。

 この水は、雨が降って二、三日で瀬戸内へ流れ出てしまうような水です。

 集水域に降った雨の総量は、500ミリ(0.5メートル)×294平方キロ(×1000メートル×1000メートル)=14、700万トン。

 その六割だから、この場合の直接流出は約8820万トンです。

 ところが、土壌に到達した雨水には、直接流出とはもう一つ別のタイプの河川への流れ方があります。

 それは基底流出と呼ばれるもので、地中深く浸透して、地下水となってじっくりと時間をかけて流れ出るものです。

 雨がやんでしばらくすると、川がだんだん元の水量に戻って安定していきます。この安定した流れが基底流出に相当します。

 基底流出は、梅雨が明けてからだと一ヶ月ぐらいかけてじわじわと流れ出てきます。これが、「緑のダム」の中に貯められる、集水域の森林に蓄えられる水になります。

 基底流出の量は、土壌の浸透能が高くなると、それだけ大きくなりますが、人工林が多い現在の太田川最上流域の状態だと、基底流出量は雨量のおよそ20パーセント、この場合だとおよそ3000万トンです。

 降った雨水のうち、基底流出と直接流出以外の部分は、蒸発して空に戻ります。

 直接流出のうち、実際にダムに貯められるのは多く見積もって2000万トンだから、残りのおよそ7000万トンは、そのまま流してしまわざるを得ない。渇水期の予備としては、使えない。

 しかし、渇水期にもじわじわ流れてくれる基底流出を増やしてやれば、無駄になる水の量を減らすことができる。

 そのためにどうしたらいいか。かりに最上流域の人工林を全部広葉樹林にしてしまうとします。

 今、三割、四割は人工林なんですが、人工林を全部広葉樹林に変えたとするとどうなるか。流域全体としては数割、浸透能がアップする。

 そうすると、今直接流出量が60パーセントなのを、55から45パーセントに減らせる。逆に基底流量は30パーセントに増えるわけです。

 そうしますと、30パーセントということは、約4410万トン、「緑のダム」に蓄えることのできる量は、約1500万トン増えることになる。1500万トンというと、立岩ダムの総貯水量と遜色ない。

 

上へ

 人工林を広葉樹林に変えるだけで、ダムを一つ造る効果を期待できることになります。

 

■ 治水・利水を山(森林)から考え直そう
■ 6.29の土石流災害が教えてくれるもの
■ 広葉樹林が与えてくれる海への栄養
■ フリートーク(抜粋)
 
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