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【準備ニュース9号】

太田川の木を使おう ―林業の現場を見学して―


 さる十一月十一日、「太田川流域の木で家をつくる会」主催の「森林ツアー」に参加した。

 
「太田川流域の木で家をつくる会」(下田 卓夫代表、昨年発足、以下「つくる会」)では、太田川森林組合・太田川流域森林整備センターと協力して、都市(川下)の方々に川上の太田川材をより多く使って頂けるようさまざまな取り組みを続けておられる(太田川森林組合は、平成二年に筒賀村、戸河内町、加計町、芸北町の各森林組合が合併して発足した、地域の林業の中心的な担い手である)。

 
川下の人が川上の木を使って家をつくること(昔はそれが当たり前だった)で林業が元気を取り戻し、荒廃した山や川も甦って欲しい、そんな思いが「つくる会」の活動を支えている。今回の「森林ツアー」は、家を建てたい人や上流の山の問題に関心のある人が山を訪れて林業の現場の空気を肌で感じることで、「太田川材」をより身近なものにして欲しい、と企画された。(原 哲之)
 


 午前十時に戸河内町の林業センターに集合。道中、色付いた山々が時雨に煙ってえもいわれぬ眺めだが、山に入るには少し心配な天気だ。ツアーは太田川森林組合さんのご案内で、間伐体験、炭焼きの見学、大径木の伐採の見学と続く予定だ。

 最初に、棚田で有名な筒賀村井仁地区に向う県道のわきの人工林で、間伐(択伐)を体験する。

 「体験」ということで、今回は鋸を使う。直径が二十〜三十センチのスギだが、なまった体にはとてもこたえる。時雨もやんで晴れ間が広がり汗をかく。間伐の場合、木と木の間に上手く倒さないと、かかり木といって、残したい木に傷をつけてしまって商品価値を下げてしまう。鋸を挽く角度や強さを微妙に変えて倒れる角度を微調整するのだという。木を一本倒すのもとてもデリケートな作業だ。
 

 
木を倒す基本を学ぶ

右側の三角の伐り口を
「受け口」

これから幹に垂直に挽くところを「追い口」という       
 
伐採した木の年輪

間伐が進んでないので十才ごろから急に成長が悪くなっている(年輪の幅が小さくなっている)。


 森林組合参事の佐々木さんのお話では、大体一町歩(1ヘクタール)当たり三千本ほど植林して、除伐や間伐を経て六百から八百本まで減らすそうだ。

 現在行なう間伐の多くは、間伐といっても三十〜四十年生のもので、材として充分利用価値がある。

 家を建てたい方や設計される方に現地に足を運んで頂ければ、伐採する木を選んで頂くこともできるし、輪切りにするとき長さを細かく指定することもできる。市場で規格の決まった素材を選ぶより、より希望に沿った素材の提供が出来る。さらに山元の製材所さんを利用すれば、材の切りだし方の細かいところまで要望できる。

 ただ、道路に近いところは伐った木を出しやすいのでいいが、奥の山で間伐する場合は、予めかなりの量の需要があってまとめて列状に間伐する場合以外は、間伐しても放置せざるを得ないのが現状だそうだ。
 

 
間伐の出来てない斜面

下に何も生えていない、もやしのような林
 
ある程度間伐されたところ

潅木(低木)が生えている、これが土壌をよくするという

 間伐は木の成長だけでなく地力や防災の面からも重要だといわれているが、太田川流域では、採算があわないので間伐が進んでいない人工林が少なくないという。

 「つくる会」の下田さんは、「これから伐採される間伐材は、材としても充分に利用価値があります。川下で最大限利用することで間伐が経済的に見合うようになり、その結果間伐が促されるようになればと思います。それが少しでも山や川の環境保全のお手伝いになればとてもうれしいです。」とおっしゃる。

 午後は、筒賀村井仁地区で七十年生のスギ・ヒノキの伐採現場を見学する。七十年といえば、昭和の始めに植林されたということだ。森林組合の課長さんのひいおじいさんが植林されたという。そう考えると、木の一生に比べて、人の世の変化はあまりに早い。人間という動物は、興味があるとやりすぎるまでとことんやるが、いらないとなると見向きもしなくなる。

 山で稼げた時代はどんどん自然林を伐採して植林(するように指導)し、外材が入ってくると木を使う者は地元の山のことなどすっかり忘れてしまう。結果として当時植林した木が不健康な形で大きくなってしまい、現在いろんな形で問題になっている。植えられた木にしても自然に生えてきた木にしても、ほんの一時の人間の欲望に振り回され続けてきたわけだ。
 
 
大径木が倒れる瞬間

伐り口の右に点のように見えるのが仕事師さん
 
画面左上にうっすら見えるのが井仁の棚田

七反弱の伐採地


 それにしても機械の力はすさまじい。背の高い杉や檜があっという間に伐り倒される。伐採地にはわずか二、三人の仕事師さんしかいない。それに、今はラジキャリ(一人で操縦できる無線で動く搬出用の機械)やグラップル(木をつかんで運ぶ機械)などがあるから、木出しの作業も随分省力化が進んでいるという。それでも、初めて大径木の伐採現場を見学させて頂いたが、やはり、かなり危険な命がけの作業だと思う。

 確かに広い範囲を植林して最後に一挙に皆伐するやり方は、土壌や下流の川の水質、防災、動物などにとっては決していい方法ではないだろう。しかし、素人なりに考えて、大きな木を伐採する時には広いスペースを考えてやらないと、伐るのも出すのもやりにくいし、作業がとても危険な気がする。

 大径木の択伐は、技術的にとても難しいのではないか。それに今の国産材の状況では、おそらく経費の面からみても、皆伐せずに少しづつ間伐(択伐)していく(自然林と人工林の混交林を造っていく)やり方は、多くの林業家さんにとっては理想論の域を出ていないような気がする。

 混交林での林業経営を可能にするには、木を大量に利用するわれわれ都市住民が川上の木を積極的に使い、山(林業の現場)を身近に感じることから始める必要があるような気がした。

 参事さんのお話では、せっかく伐採しても、その木を活用してもらうには、ただ伐って出すだけでは大手の住宅メーカーには到底太刀打ちできないという。そこで、太田川森林組合では、伐採現場に施主さんや設計士さんに足を運んでもらって希望する材の種類や大きさを指定してもらうことに加え、現在「葉枯らし」という方法でスギ材に付加価値をつけていこうとしておられる。

 「葉枯らし」とは、伐採したスギをその場で枝葉を付けたまま一定期間放置すること。スギの場合、春から夏に伐採して葉を付けたまま置いておくと、水分の抜けがよく、材の色もよくなる(渋が抜ける)という。これからは、「葉枯らし杉」を太田川材の「売り」にしたいとのことである。

 ところで、自分が住んでいる川の流域の木材を使って家を建てるとどんないいことがあるのだろうか。外材は安く買えるが、どんな問題があるのだろう。まず、木の家は、最後に壊しても土に戻せる部分が多く、ごみの問題が比較的少ない。

 そして、地元で育った木というのは地元の気候・風土が育んだものなのだから、当然その家に住んだ方が健やかに暮らせそうな気がするし、また、長持ちするような気もする。

 実際、家を建てる職人さんたちに言わせても、流域材の家の方が外材を使った家よりはるかに長持ちするそうだ。外材は二、三十年ぐらいでだめになるという。外材を輸入して寿命の短い家を建てて住み、それを壊してまた建てるというのは一種の使い捨てだ。

 外材をたくさん輸入するということは、それだけ外国の木を大量に伐採するということだ。ある森林ボランティアさんのお話では、熱帯雨林はとても微妙なバランスで出来ていて、一度伐採されると(伐採の方法も根こそぎらしい)、薄い表土が流されて、二度と再生しないという。

 簡単にいってしまえば、地域の木を使うことが地域の山や山村を元気にするだけでなく、地球規模の環境問題にも貢献することになるようだ。太田川流域の人工林の多くはこれから主伐期をむかえるという。そのときにどんな伐採やその後の跡地の利用がなされるのか。これは、川上の林業の問題というより、むしろ、需要を創る川下の都市住民の生活のあり方や山との関わり方の問題の方が大きいのかもしれない。

 ツアーから帰って、部屋の柱や家具など木で出来たものに「これはどこで伐った木なんだろう。」と考えるようになった。どんなものでもそれを作っている現場を訪ねて、現場でお仕事しておられる方のお話を聞く事はとても大事だ。「森林ツアー」をお世話して下さった、「太田川流域の木で家をつくる会」と太田川森林組合の皆様に心より感謝致します。
 


(山の厳しい現状として、別の機会に流域の林業家さんたちからお聞きしたお話をご紹介します。)


 「五年前に神戸で震災がありました。そのとき私は、被害に遭われた方には大変申し訳ないんですが、倒壊した家を見て、これで少しは国産材の需要が増えて、値段が上がるかな、と思いました。ところが現実は逆でした。ずいぶん材価が下がったんです。木材の輸入業者も震災を見て、即座に輸入の注文をしたんです。だから、かえって材がだぶついてしまいました。」

 「私は先のことを出来るだけ考えないようにしてやっています。上手に間伐して、自然林(広葉樹林)と人工林のバランスが取れた林地を造りたいのですが、間伐をするお金も出ません。補助が出ているからかろうじてやっていけている状況です。五年先のことを考えると、従業員の方が高齢なので、定年になって、人件費が浮いて少し楽になる、ということぐらでしょうか。林業だけではとてもやっていけません。」

 「湯来で親の代から育ててきた林地を伐採しようと思ったんですが、自分の山の木を出すためだけのために、架線を張って仕事師さんを雇おうとするととても採算が合いません。周りの山持ちの方と相談して一緒に出すことにして、架線を張る費用、仕事師さんの日当(一人三万円程度という)、運搬代を分担しないとできない。でも、それぞれ事情があってみんなの木を伐りたい時期が一致することはありませんから、できないんです。結局、県が近くに砂防ダムを造るために作業道を開設するときに、うちの山も一部伐採することになったので、その木を使いました。」
 

 
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