生態系・里山・里海


太田川を泳げる川に!

「昭和28年、原爆ドーム前 川で子どもが泳いでいた」

〜撮影者・上土井正行さんに聞く〜

 2007年12月 第80号


 先日開催のNPO法人「環・太田川」設立総会の佐々木健・太田川再生プロジェクト委員長の記念講演で、「原爆ドームの前で秋葉市長と泳ごう!」という計画が、今年の9月上旬に市長の日程にも組まれていた、という話が紹介されました。「本当に太田川で泳げるの?」と疑問に思っていた私たちは、新鮮な驚きと刺激を受けました。「太田川の水は皆の努力でかなりよくなり泳げるまでに回復している。特に今年は梅雨時に雨が多く8月の盆過ぎまでは例年にないよい水質を示していたので、今年は泳げると市長さんに伝えて実現する筈たった」ところが8月末に詳細に調査の結果、満潮時には海から汚れた水が上かってくることが分かり残念ながら断念した、ということ。しかし、佐々木さんの「川の水は今、きれいになりつつある。もう一息だ」という言葉に、私たちは大いに勇気づけられました。

 そんな折、昭和28年に撮影された、原爆ドーム前の元安川で子供達が川に飛び込む写真を見つけました。8年前に発行された写真集「ふるさと祇園とその周辺」の中の「よみがえれひろしま」の項に昭和28832年の頃の広島市内の写真が8点あり、そのうちの「夏のこどもたち」という作品です。早速、撮影者の上土井正行さんを西区大芝のご自宅を訪問、撮影当時のお話をうかがいました。(篠原一郎)

 

 子供の姿に復興を見る

 私は直接原爆にはあっていないのですが、妹が女学校1年生で建物疎開の仕事に出ていて被爆、翌日市内に入って妹を探し歩いたので被爆手帳は持っています。あの悲惨な状況を見ているし、しばらくは被爆の悲惨な姿をとどめよういう気にはなれなかったですね。
 だけど、次第に原爆を受けた広島の町が徐々に生き返ってくる姿を残さにゃいう気持ちになって、時々撮って歩くようになりました。あれを撮影した時も、ドームがああいう姿になっても、子供達は早く立ち直るもんでねえ。ただ川で泳いでいるっていうんではなくて、非常に溌刺としてね!。飛び込み台から飛び込んでいるのを見ると、うれしいような気持ちになって撮ったんです。ドームの下流で元安橋のちょっと上からの撮影です。橋が見えるのは相生橋です。すこし川の水に足をいれて撮ったような気がします。
 飛び込み台もちょっと傾いていて、新しいものじやなかったから、たぶん戦後すぐぐらいに近くの人が作ってずっと使っていたものじゃないですかねえ。

 
泳げたのは昭和33年ごろまで

 ああゆう飛び込み台はあそこだけじゃなく、あちこちにあったものですよ。昭和31年に長束1T目、今の大芝水門の上流にもありました。私も昔の祇園町西原の川の近くで育ったんでよく泳いだですよ。小学校4年くらいになったら、太田川を渡って泳げんかったら笑いものだったですよ。今より水が多くて流れもありましたからねえ。今は、川の様子は全くかわっていますからねえ。あの頃は川が曲かって流れていて、川べりには竹林がず1つとありました。それで筏が流れてくるし、泳いで筏に昇って怒られたり…。悪いこともしよったですよ。筏も昭和28〜29年ごろまで流れていました。

 川で泳ぐのは、あの写真から2、3年、昭和32〜33年くらいまでだったように思います。あれから農薬をどんどん使うようになるんで泳げなくなる。一番大きいのは農薬だったでしょう。その影響で魚がいなくなる、川が汚染される。だから学校が川で泳いだらいけんということを言い出す。というようなことでねえ。

 
シャッターに歴史をとどめる

 戦後すぐはカメラもそんなに普及していませんでした。私も初め頃は人から譲ってもらったオンボロのかろうじて写る位のもので撮っていました。昭和27〜28年ごろになってメーカーが35mのカメラー万円くらいで売り出して一気に普及しだしたんです。月給8千円くらいの時代ですから高価なものでした。私は三菱重工の祇園工場に勤めていて、職場で写真クラブをつくったのですが、撮影会をやってもフィルムが高くて、4〜5本も買うと日当がとぶようなことで、2〜3本くらいまででした。靴が買えなくて下駄はいて撮影会に行くようなことでした。

 当時「アサヒカメラ」などカメラ雑誌が復興して、土門拳とか木村伊兵衛、植田正治とかいう専門家の写真をお手本にして撮って歩いたもんです。戦後の混乱期が続いていましたから俗に「コジキ写真」とかいって、路頭にいる浮浪の人々を撮ったりしました。今でいうドキュメンタリー写真ですね。原爆ドームの近くにはバラックがまだありましたし、基町のマンション群のところも原爆スラムがずーっと続いていましたね。

 8年前に出版した写真集「ふるさと祇園とその周辺」も地元の祇園の人からの要望でまとめたものですが、太田川のそばで育ったことでどうしても川の写真が多く残っていますね。500部刷ったんですが、もうすぐ数ヶ月でなくなりました。

 
 
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