●若者放談(5)

 海教育のきっかけづくり 藤井直紀 2006年 2月 第58号


 自然から離れた生活をしている者にとって、”自然に近づく”にはイベント等のきっかけが必要なのだが、なかなか趣旨に沿ったイベントには出会わないものだ。主催者側からしてみると、堅苦しい内容にしてしまえば参加者が付いてこないし、かといって楽しさ満載あるいは身近なことからこつこつと・・・なんて内容をやっていると趣旨から徐々に外れてきて自然から遠くなってしまう。いわゆる「ジレンマ」というべき状態に陥ってしまう。若者放談4で登場した太田川の清掃ボランティアもそのジレンマのまっただ中にあるのかもしれない。

 きっかけづくりといえば、現在我々海の研究者の有志が行っている事例が面白いので(自分が関わっているから面白いのかもしれないが…)少し紹介しよう。
日本が「海洋大国」と言われたのは昔の話なのか、今は意外と「海」のことを知らない住民になってしまったといってよい。多くの研究者がその問題の起点は何かと探して出した答えは、小・中・高校の教育に驚くほど海に関する記述が少ない事だった。詳しい事情は海洋政策研究財団のホームページにあるニュースレター・バックナンバーを検索していただきたいが、例えば角皆北海道大学名誉教授の記載によると、教科書作成・授業の基本となる学習指導要領に「海」という言葉がない…らしい。文部科学省のある役人が日本沿岸域学会に寄稿した文によると、「水産業、国民の休日(海の日)、領海を学習する際には海洋についても指導されることがあるものと考える、総合学習の時間に取り上げられることがある」と述べているが、果たしでどこまで教えられているか疑問である。確かに私自身海に関する知識は水産大学校で殆ど得たような気もする。ちなみに「川」という言葉は学習指導要領のなかにしばしば登場する。

 
 批判してばかりで、手をこまねいている訳にもいかないので、研究者は様々な試みを実施・計画している。例えば、「フジテレビの人気テレビ番組「トリビアの泉」をまねて、
「海のトリビア」(ISBN:4890552758)という本を昨年発刊した。
少し内容を紹介すると、「イルカを売っているスーパーがある」、「大西洋は太平洋より塩辛い」、「地球上でもっとも長い生き物はクラゲである」、「黒潮はイアン・ソープよりも速い」、「クジラとは4メートルを超えるイルカのことだ」などなど。
へぇ〜〜〜と思われる方は、是非一読を!。私もこの本のかなりの部分を、へぇ〜〜〜〜と思った(苦笑)。

 今年(2006年)7月31日から8月5日には、日本科学協会(主催)と東海大学、日本海洋学会(共催)によって、高校生向け研修会「研究船で海を学ぼう!」が計画されている。これは全国の高校生60名、海洋教育を広めてくれそうな教員、教員志望の大学生、海洋教育に関わる研究者、そして報道陣若干名を招待して、海に興味を持ってもらう、出来れば海洋研究の世界に足を踏み入れてもらえる人材育成の入り口になればという目的がある。

 研修期間のうち3日間は東海大学所有の海洋調査研修船「望星丸」(2174トン)に乗船し、駿河湾の縦横断、黒潮を横切る航路を航行し、所々で海洋調査を実施する。流れの測定方法、化学分析、生物採集など洋上で研究者が行っている作業を身近に見る、あるいは体験することができる。もし洋上でやってみたいこと、疑問に思っていることがあるなら、可能な限り相談に乗ってもらえるはずだ。招待と言うからには、高校生参加者の参加費(交通費、宿泊費、食費)は不要、主催者側で用意する。その他の方は交通費のみ自費である。但し、海をテーマにした作文(600字程度)を書いていただき、その中で審査されて研修生が決定される。申し込みは5月15日まで。詳しくは日本海洋学会ホームページ、あるいは日本科学協会ホームページ(おそらく情報が掲載されるのは4月からだと思われる)をご覧いただきたい。お近くに興味のありそうな方がいらっしゃったらご紹介していただければと思う。

 ちょっと宣伝混じりになってしまったが、海洋研究者もいろいろと考えてはいる。まだ走り始めではあるが、果たして最終的にはどんな結果が得られるか。しばらく見守っていただきたい。なお、高校生向け研修会の様子は可能であればまた後日報告する。
 
参考HP:海洋政策研究財団のホームページ日本科学協会日本海洋学会
 
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