写真・絵画で甦る太田川

写真・絵画で甦る太田川 
(67)多田村温泉 二百年前の湯来温泉

 昨年の本誌第51号で水内の湯ノ山温泉のことを書いたが、今回は水内筋のもう一つの温泉に着いて述べる。湯来温泉である。湯来の字は元は湯木であった。湯ノ山温泉は旧和田村。一方の湯来温泉は多田村に属している。

 寛政9年(1797)、広島藩の絵師岡岷山は温泉と滝を見る旅に出かけ、和田村の温泉に入り、岩田屋旅館でまず一泊して翌日に筒賀に抜ける途中で多田村を通っている。以下は岷山の記。

「多田村に至る。橋を渡りて温泉に至る。民家二、三十軒も有るべし。湯は谷川の上にあり方九尺と六尺ばかりの湯壺弐つあり。雨覆いハなし。茅の垣を結びて正面をふさぐ。後は石垣高く築いて其下に竹筒を二ツ出し、其筒より温泉を取る。手を以て試るに温なる事水内に増れり。清潔なる事鏡のごとく、内に小魚遊べり・・」


 上の彼の写生画と併せて見て、この頃の湯木の湯は湯ノ山とは対照的に素朴な感じに溢れている。前の川は打尾谷川で、この谷川はすぐ先で水内川に合流している。絵の中央よりやや右に二つの露天風呂があり、その背後の石垣の上に温泉大明神社と書いた建物も見える。この位置は現在の温泉旅館が建ち並ぶ所であろう。

 さらに岷山は云う、

「この湯壺の上の方、地高く田畑・人家もあり、その溝中に湧き出る水みな温にして湯壺の内と同じ、早朝にはこの流れに煙の如く湯の気立つといへり・・中略・・三、四十年入湯の人あまた群集して効験多く、第一眼病の治ること神の如く、また瘤を病める人自然に平癒せしと云う」

 とその効能を述べている。

 現在の湯来温泉の効能書を見ると、

 ・水温摂氏28℃の微温鉱泉。
 ・リュウマチ、痛風、高血圧症の治療に有効。
 ・昭和三十年厚生省より国民保養温泉の指定を受ける。

 などがある。広島県には熱い湯の湧く温泉が無いから、その中では少し温かい方なのだろう。しかし野天でも当時のような田畑の中にあって、清潔で小魚の泳ぐ野天風呂に入るのも楽しいのではないか。
(幸田光温) 
 
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