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アサリ漁業 現場はどうなっているの?
〜県内最大の生産地 廿日市市大野町を訪ねて〜 |
2008年 5月 第85号 |
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春先から初夏にかけて身が大きく、おいしくなるアサリ。現在ではアサリをエサとする魚類による食害、ヘテロカプサなど渦鞭毛藻が原因の貝毒、その他外敵の拡大によって、全国の漁獲量は昭和40〜50年の最盛期と比べ、およそ10分の1にまで減少しています。広島湾内では現在、年間約70〜80tのアサリが漁獲されていますが、その7〜8割、約50tは広島湾西部の廿日市市大野町のアサリです。
先月号では研究者からアサリの生態などについて聞きましたが、今回はアサリ採りの現場で働く方々のお話を伺ってきました。(岩本有司・宮林奈央、篠原一郎)
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珍しい干潟の「地割」管理
漁場の干潟(地元の人たちは「磯」と呼ぶ)は大野町地先の浜に5ヶ所、宮島側に3ヶ所、合計8ヶ所で51haあり、全国にも珍しい「地割」によって個人が漁業権を持ち管理する方法をとっています。
いつごろこのシステムが生まれたのか、地元で聞いても、分かる人はいませんが、昔から先祖代々その家の持分として伝わっています。半農半漁の土地柄で、陸の畑と同じように海の畑として竹などの杭で仕切った場所を管理しアサリを採ってきました。―つの地割りは大体100〜150u、形と大きさの違いがありますが、1軒が大体2〜4ヶ所持つています。
大野町にある3つの漁協全体でアサリの漁業権を持つ人はおよそ700〜800人ですが、漁協が個々人の地割りを統括し、組合員はそれぞれの地割りでの漁業権を持ち漁業権の行使料を漁協に支払うという仕組みです。
収穫は「手掘り」
大野町地先や宮島の磯では、全て手剔りでアサリを採集しています。それぞれの地割りで、大きいものだけを選別して収穫します。全国的には船でジョレンを曳くなど、量的な生産を高めるために機械化をするところがほとんどですが、大野はあえて機械化しない良さを売りにしています。手掘りで収穫する事によって、大きいものだけを選別して収穫できる事や、砂を噛んでいるアサリが少なくなる事などの利点があります
アサリの漁獲被害と対策
大野のアサリ漁業は色々な被害に遭ってきました。昭和50年代以降、赤潮やヘテロカプサなどの貝毒の発生。それに、干潟全体にセト貝やホトトギス貝などの二枚貝が大発生して、アサリを壊滅状態にさせてしまうような被害もありました。最近の最も大きな被害としては、ナルトビエイ、チヌ、フグなどによる食害です。特に最初の食害は約5年前の、ナルトビエイによるもので、軽く1mを越える大きさのエイが数匹干潟に入ってきて、アサリを貝ごと粉々に砕いて食べ、割れた貝殻が磯一面に散乱するという被害が出たのです。チヌやフグも同じように殻ごとアサリを食べるため、被害が大きくなり、何とかできないものかと考えました。そこに4年前ごろから登場したのが、農業で使う防鳥ネット。安価で干潟の表面に敷くだけで全ての食害から守れるので普及し、これによって食害は大幅に減少しました。
また、このネットには食害対策のほかにも、意外な良い効果があることが、ここ2年くらいで分かってきました。
ネットが稚貝を増殖する
ネットを敷く事によって、産卵孵化した幼生が水に流されずにネットに付着し、干潟に残りやすくなることが分かったのです。アサリは春と秋の年2回、海が白くなるくらい一斉に産卵するのですが、その浮遊する幼生がネットに付いて、そこから稚貝が発生し、干潟に着底するようになりました。以前は九州・熊本の有明海など稚から貝を購入して漁場に撒いていましたが、最近は、九州でも販売を抑える動きもあり、ごくわずかに個人的に入れる人はあっても、殆ど他から稚貝をいれることはなくなりました。
食害防止ネットは結果として魚類の食害防止と、稚貝の増加という思わぬ2つの効果を生んだのです。将来的に、今は地場の干潟でアサリの再生産が順調に維持される事を期待しています。
浜毛保漁協のアサリ販売
大野町では元々1つの漁協でしたが、現在では3つの漁協(大野町・大野・浜毛保)に分かれています。その中でも、浜毛保漁協は昭和26年、浜・毛保地域の漁民がアサリを専門に取り扱う漁協として分離・独立したもので、現在、正組合員は約130人、準組合員は約30人です。組合長の山本正博さんに最近の大野のアサリ採りの事情についてうかがいました。
浜毛保漁協では正組合員でも、漁協にアサリを卸す義務は無く、色々なルートで好きなように販売する事が許されています。大野には水産物を扱う色々な業者がいるので、漁民が直接業者に販売する事もあるし、漁協に卸してもらう事もある。漁協からは、ほとんどがレストランなど固定の取引先や個人に対して販売しています。採ってきたアサリは1日ほど水槽に入れ、砂を吐かせて出荷します。ちなみに、漁協では一度におよそ300kgのアサリを生かしたまま、水槽で10日〜14日は保存する事が可能です。
年間を通じた主な販売時期は4月〜10月。地元の人間は、大野では桜の咲く頃から、10月末の大野祭りまでがアサリの時期と言われており、その時期のアサリはとても美味しいです。時期を外れて、冬でも収穫できますが、味は落ちますし、需要も減るため、ほとんど取り扱っていません。
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漁獲減少に伴う就労者の減少
大野のアサリは広いシェアを誇っていますが、アサリを専門として生計を立てている人ほとんどいません。それに現在、貝採りの主体はお年寄りの女性です。毎日しゃがみ込んで、潮の引く2時間ほど働きますが、思った以上に重労働でしんどいんです。その他にも掃除したりとか、地割りの杭を打ち直したり。大変な仕事ですが、最盛期によく採れても一月5〜6万の収入しか見込めない。だから、本気でやる人は少ないのです。
赤潮などの大被害もあり、昔に比べてアサリが取れないものだから、「アサリが取れないのなら磯に行っても仕方がない」と言う人が増えてきています。一生懸命掘ってもちょっとしかとれない、最近はそれが習い性になってしまっています。現場ではそう言った、衰退しつつある部分もあるのですが、そういった問題点を、ネット対策での漁獲量減少抑制や、大野アサリの特産化など、色々な対策で今一度、大野のアサリ漁業を盛り上げようとしています。
大野町3漁協の中でも中心となる大野町漁協は、正組合員が約110人、準組合員が約900人。カキ養殖や他の漁船漁業者も抱える漁協ですが、現在は大野町のアサリを特産化するため、販売促進の中心となって積極的な活動を行っています。小野町漁協参事の廣畑裕一郎さんにお話を伺いました。
大野アサリは2つの産地仲買い会社などから全体の7〜8割が市場に出荷されています。また、濱本水産と椛蝟の2社は地産池消という事で、パック詰めして、大手スーパーに売り出す事もやっています。その他には浜毛保などの漁協からの直売り、漁業者が直接、仲買に販売するなどのルートもあり、それが全体のI〜2割くらいです。
大野アサリの特産化促進
漁協の取り組みとしては、贈答用のパッケージが無かったので、それを作ろうという事で始めました。今年で20年くらいになりますが、現在は、「大野アサリ特産化促進対策協議会」と言うのを立ち上げ、販売事務局を構えています。最近は、大野のアサリのブランド名が消費者にも知れ渡り、大野のアサリは大きくておいしい、と評判をいただいています。
出荷するアサリの大きさは、22mm以上のものを篩いにかけて選別し、中・大・特大の3種類で分けています。やはり大きなもののほうが値段は多少高く、特大だと1キロ1100〜1200円、中だと1kg900円くらいになります。以前と比べるとかなり上がった方です。市場価格で2〜3割は上かっています。原因は、食の安全性の問題で消費者も本物志向へと変わってきている。全国のあさり販売量約7・5万tの内半分以上、約4万tは中国、北朝鮮、韓国からの輸入品が占めている中、質のよい大野のアサリも見直されてきて、はっきりその影響が価格に出ている気がします。
アサリの漁獲量は全国的には10分の1に減少しています。大野の場合は4〜5年前に落ち込みましたが、現在では昭和40〜50年の漁獲最盛期と比べて、およそ2分の1は維持できています。敷きネットなどの対策で、他地域のアサリと比べて被害が最小限に抑えられているためでしょう。大野は他の地域とアサリの作り方が違うのです。昔から、それぞれの地割の中で貝を育て、収穫するから「大野は生け貝」なんていわれていたりもします。そのような経緯で干潟の管理を行うため、被害も最小限に抑えられています。
取材の最後に、浜毛保漁協地先の「前潟」に立ち寄りました。これからがアサリの最盛期と言う事もあり、多くの漁業者が手掘りでアサリを採集していました。他の漁業者から、アサリ掘りの名人と慕われている新田さん(71)から、いくつか現場のお話を伺いました。
干潟の管理について
昔は何も管理しなくても、素手で砂を巻き上げるだけでアサリが採れていました。しかし、今は砂にヘド囗が入って砂が黒く、固くなってしもうて、掘るのも大変。放っておくと土が固くなってアサリも住めなくなるので、時々、目の前の川からきれいな砂を運んできて、それを撒いて耕す。そうすると、土も柔らかくなって、アサリも住みやすくなるんです。
あとは表面に浮いてきたアサリの貝殼なんかのゴミを拾ってやります。網(敷きネット)も放っておくと海草の芝生みたいになって、アサリが地面に出て呼吸できなくなるので、定期的に掃除しています。
大きなアサリだけを選別
以前と比べてアサリの量は半分くらい。だから、大きなものだけ選んで、小さなものは放すようにしています。そうしないと今後取れなくなってしまう。大野のアサリは身が太く、大きいので、3cm以下のアサリは小さいほうに入る。3cmより大きなアサリをなるべく選んで出荷するようにしています。
以上大野のアサリの現場をみてきて、アサリといえば「潮干狩り」しか思い浮かばない私たちにはまだ「アサリは自然の砂浜が育ててくれるもの=自然の恵み」という感覚が一般的です。しかし大野町の現場をみると、新田さんの話のようにきれいな砂をいれて耕したり、食害と戦ってネットを張ったり、人が手をかけて育てなければならなくなっている現実を知りました。
そこまで瀬戸内海の環境は悪くなっています。今後アサリ資源の復活は海の栄養塩減少の問題と関連して、瀬戸内海の環境回復の指標となっていくことでしょう。いずれにしてもアサリの味噌汁がいつまでも食べられるよう、大野のアサリがいつまでも味わえることを、私たちの川と海の環境回復の目標にしなくてはと思います。
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