淡水産テナガエビのグループは日本で約10種が棲息していますが、そのほとんどは西南日本に分布している南方系のエビ類です。また、生活史の中で、河川に生息する期間のほうが長いのですが、繁殖は河口域で行われ、一時的に幼生は海で成長する両側回遊型がほとんどです。テナガエビ類はその名が示すように、第二胸脚(ハサミ)が著しく長いグループで、古くから食用として親しまれているエビ類でもあります。
テナガエビは体長8〜9cm、全身褐色で、頭部に10〜14個の歯があり、このうち2〜3個は眼窩より後方にあることで区別されます。成長すると第二胸脚の腕節は長節よりも長くなるのも特徴です。本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国にも棲息しています。日本では鹿児島県本土が南限にあたります。多くのテナガエビのグループが南方系であるのに対して、テナガエビは数少ない北方系であり、一生を淡水域で過ごす変り種といえます。
太田川にはテナガエビの他にミナミヌマエビ、スジエビという淡水エビが棲息しますが、ミナミヌマエビは南西囗本のみに分布し、南限は鹿児島県です。スジエビはサハリン以南に分布し、その南限は種子島、屋久島です。これら3種は氷河期に気温の低下とともに南方へ進出したと考えられているグループです。
約40年前、太田川の下流域では個体数も多く、可部あたりまで棲息していたと言われています。湯がくと真っ赤になるため、食べるというよりも、日本料理の「色どり」として利用されてきました。しかし、河川水位の低下や護岸工事により個体数が減少してきたため高価になり、利用されなくなりました。現在では、大芝水門から安佐大橋の間に生息しており、若干、個体数も増加したように思いますが、広島市のレッドデーターブックでは準絶滅危惧種に選定されています。
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