魚類

太田川水系の生き物たち 太田川の魚(11)

寒鮠(オイカワ)
〜酒の肴として珍重

 
 県北の河川では、厳しい寒さの続くこの季節、早朝に川面より湯気が立ちこめることがあります。大気の冷え込みに比べて、水温の方が暖かいため、水蒸気が発生するのです。このような日は必ずと言っていいほど好天に恵まれます。太公望たちは防寒着で身を包み、川岸や流れの中に入って早朝より釣り糸を垂れます。寒ばえ釣りはこの頃から始まり、3月中句まで続く、県北の風物詩です。

 寒ばえはオイカワが主です。方言では「はや・はえ」が一般的ですが、夏季には婚姻色の発現した雄を「あかもち・あかまつ」と呼び、雌を「しらはえ」と呼んで区別しています。また、主に瀬に生息することから「瀬ばえ」と呼ぶ地域もあります。

 この時期のオイカワは川魚特有の臭みもほとんどないので、酒のさかなに珍重されています。冬季はアユがいないので、瀬はオイカワの天下なのです。同じ「はえ」の仲間であるカワムツは、オイカワと比較してやや骨が硬く、食べるには敬遠されています。流れの少し緩やかな場所に生息するため、方言では「淵ばえ 柳ばえ」と呼んでいます。繁殖期の雄は赤や黄色の婚姻色をしているため、「入道」と呼ばれることが多いようです。オイカワやカワムツは同じような方言を持ちながら、雌雄では細かく区別されています。このことは二種が私達の生活の中で大変馴染み深い淡水魚であることを物語っています。

 両種とも繁殖期は六〜八月です。川底が砂礫である場所に多くの個体が集まり、熟卵を持った個体から順次産卵をしていくようです。雄は口の周りや尻鰭にたくさんの突起物(追星
おいぼし)を発現し、それで雌の体を刺激し、産卵を促します。雌が産卵場所を決めると、雄は雌に寄り添い、体をくねらせ、全ての鰭を高速度で震わせながら精子を放出します。その瞬間、砂は流れに巻き上げられ、雌の体は川底の砂の中に埋りこみ、同時に産卵するのです。周りの雌たちは産卵床に頭部を突っ込み、今産卵された卵を一斉に食べ始めます。自然界の厳しい掟の一コマです。ひとたび、産卵が始まりだすと、あちらでもこちらでもこのような光景を観察することが出来ます。しかし、今は真冬、凍りつく水面には、あの躍動感はまったく感じとることができません。

      (写真・文 川野守生)

 
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