ウナギやサツキマスのように、河川を一往復して寿命を終える魚類にとって、ダムや堰はとんでもない大きな障害物です。堰には魚道(バイパス)が付いているものもありますが、魚種によっては、ほとんど遡上することができません。むしろ、「魚道を付けた」ということが免罪符になって、堰が乱立されてきたようにも思います。
アユもウナギやサツキマスのように河川を一往復して寿命を終える魚類です。しかも、一年間という短い時間の中で行われます。早春には約4回、ほぼ透明に近い稚アユが広島湾から遡上します。最初にぶち当たるのは大芝水門や高瀬堰です。塩害防止や生活用水確保のためには欠くことのできない構造物ですが、稚アユにとってはなかなかのり越えることが難しい構造物です。その結果、中流・上流域でアユが釣れなくなったため、琵琶湖産の稚アユを放流することで不足分を補おうとしました。しかし、アユを放流するといっても、アユだけを放流しているのではありません。
各漁業組合で放流されている稚アユを調べてみると、琵琶湖から送られて来た稚アユの中には、ビワマスの稚魚、カジカ(ウツセミカジカ)、ホンモロコ、スゴモロコ、スナヤツメ、ビワヒガイ、ヨシノボリ橙色型(トウヨシノボリ)、ゼゼラ が混ざっていました。私の調査でも、ハス、ワタカ、ニゴイなどを採集しましたので、10種以上の琵琶湖の固有種が太田川に棲息していることになります。また、近年では皮肉なことに、冷水病の病原体が魚類を介して移入され、アユ漁の不漁の原因とまで言われています。また、琵琶湖産稚アユの放流を中止し、海産稚アユに切り替えた漁協では、チチブやボラやメナダが河川で採集されるようになったところもあります。
ほとんどの魚がわずか数センチという稚魚の状態で移入されるので区別がつかず、琵琶湖で稚アユと同じ環境に棲んでいる魚は、全国各地にばら撒かれているのが現状です。琵琶湖産稚アユの放流は、まさに魚族の大移動になっているのです。
(文・川野守生、写真・ハス=川野守生、ホンモロコ=田村龍弘)
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