私たちが普段目にする植物の多くは、根から水と養分を吸収し、光合成をして生活しています。そのため、植物連鎖の中では植物を「生産者」と呼び、植物を食べる昆虫を「消費者」と呼びます。ところが、食虫植物と呼ばれる植物は、虫を捕らえて消化・吸収することができるように進化しました。虫の捕らえ方には、ツボの中に落とし込んだり、蓋のある籠に閉じ込めたり、粘着質の粘液で捕らえたりと、まるでハエやゴキブリを捕る商品のように様々な種類があります。
日本には20種類以上の食虫植物が自生しています。その中で、最も有名なものがモウセンゴケではないでしょうか。モウセンゴケの葉には一面に赤くて長い毛があり、その先端から粘液を出します。虫が粘液にくっつくと、モウセンゴケの葉はゆっくりと虫を包み込んで、消化吸収してしまいます。モウセンゴケ属の学名Droseraは、この粘液の付いている様子を表していて、ギリシャ語の「露を帯びた」という言葉に由来します。日本語のモウセンゴケは、葉を広げて群生すると緋毛氈のように見えることから付けられました。ただし、名前にコケと付いても、いわゆるコケの仲間ではなく、花を付け、種で増える種子植物です。モウセンゴケは。蕾がついた花序が渦巻のようになっていて、下の方の蕾から、一つずつ開花します。花序は花が咲くにつれて解けていき、解ける時にちょうど真上になっている蕾が開きます。そうして、すべての実が熟す頃には花茎は直立します。このような咲き方は巻散花序と呼ばれます。
モウセンゴケは、ミズゴケがカーペットをつくるような貧栄養な湿原に見られます。虫から栄養を得ることができるので、栄養分の少ない場所にも生育できるのです。貧栄養な場所に大きな植物は定着できないので、光をめぐる競争もありません。逆に、モウセンゴケは体を大きくしないことで、多くの栄養を必要とせずに、細々と生きていけるのです。このため、湿原の他にも、水が湧きだすような法面にパイオニア(先駆植物)として定着することもあります。山を歩くとき、植物の生えていないようなところにも目を凝らしてみてください。意外な所でモウセンゴケに出会えるかもしれませんよ。
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