標高が1000mを越える太田川の源流域では、4月になってから雪が降る事も珍しくありません。脊梁部では日本海側の影響も受けるため、冷涼で多雨・多雪な気候となります。このような気候のもとでは、先の氷河期に分布を拡大した生き物が飛び石的に分布しています。夏が暑い低地では生きられない生き物が、島のように突き出た高地に暮らしていると想像すると分かりやすいかと思います。
そんな「氷河期の生き残り生物」のひとつがリュウキンカです。リュウキンカは日本では本州中部以北に分布の中心があり、それより北に行くと、体が大きなエゾノリュウキンカに置き換わります、南に向けては飛び石状に分布しており、九州にも3県において自生地が知られています。
前年の枯れ草の方が目立つ湿原で、4月の終わり頃から黄色い花を咲かせます。丸い株状に増えていきますが、浅い水路の中だけに咲くので、大きな群落では、まるで水の流れのように水路を黄色に彩ります。姿が似ているエンコウソウの茎が横に這っていくのに対し、茎が立ち上がるので「立金花」の花がついたと言われています。
5〜6枚の花弁のように見えるものは萼片で、花弁はありません。花の真ん中にたくさんお雄しべ雌しべがあります。キンポウゲ科の仲間には、花の色や形が同じ種の中で多様に変化するものが多いようですが、リュウキンカも同様で、同じ所に生えている個体でも、株によって萼片の数や形、雄しべや雌しべの数が違っているようです。こんな違いを探す事も、花を見る愉しみだと思います。
ただ、リュウキンカが生活しているような場所は、土が不安定な湿地です。近くで見ようとして足を踏み込むと、湿原はかき回され、貴重な植物を失ってしまうことになりかねないので、観察には簡単な双眼鏡などがあると便利かもしれません。湿原の消失や盗掘、もっと大きなスケールでは地球温暖化による気温の上昇は、氷河期の生き残りの生物には厳しい環境になりつつあると言えるでしょう。事実、隣の島根県や岡山県では絶滅危惧種として既にレッドリストに登録されています。花の季節の到来をいち早く湿原に伝えるこの花をいつまでも大切にしたいものです。
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