太田川の流れが生まれる吉和や芸北は気候的には冷温帯にあたり、ブナをはじめとする落葉広葉樹の森林が発達しています。木々が葉を落とす冬季に山を歩くと、鳥の巣のような大きな丸いものが付いている木を見つけることがあります。この丸いものがヤドリギです。
ヤドリギは高さ80センチ程度になる常緑小低木です。樹高といっても木の上に生えるので、樹形はきれいな球形になります。雌雄別株で、冬が終わるころに小さな目立たない花をつけ、半年以上もかけて種子が成熟してゆき、11月頃には柔らかい果肉を持った液果となります。ヤドリギは、この液果が曲者で、ヤドリギの生活史の中で重要な役割をはたしています。
液果は緑色で、人間が食べてもおいしいのですが、種子を包む果肉には強い粘着性があり、吐き出そうとしても上手く吐き出せずに口から糸を引く程です。この強力な粘着質は鳥に食べられても消化されないので、ヤドリギの種は鳥のくちばしに着いて運ばれたり、糞と一緒に排泄されたときに樹木に付着できるのです。運良く落葉広葉樹に付着したヤドリギは、木の上で芽生えて、主根を宿主の樹皮から組織へと穿入させ、ついには宿主の通道組織へとたどり着き、半寄生生活をはじめます。
ススキに寄生するナンバンキセルやシイノキに寄生するヤッコソウなどは、生育に必要な全ての栄養を宿主から得ていますが、ヤドリギは緑色の葉を持ち、自分で光合成を行います。このように、宿主に寄生しながらも自分で栄養をつくる植物を半寄生植物と呼びます。ママコナ、シオガマギク、コゴメグサなども半寄生植物として知られています。
ヤドリギ科の植物は世界で1300種ほどが知られている大きな科です。いずれも緑色の葉を持ち、自分で栄養をつくることができますが、水分は完全に宿主に依存しています。広島県でも6種類ほど観察することができますが、ヤドリギ属のものはヤドリギとアカミヤドリギの2種類です、前者は実が淡黄色に熟しますが、樹形や宿主に違いは見られません。時には、写真のように1本の木に10〜20もの個体が寄生することもあります。
秋の紅葉を過ぎると、木々が葉を落としてしまいますが、ヤドリギを探すには絶好のシーズンです。たわわに実った実を食べる冬鳥も見られるかも知れません。少しだけ厚着をしてでかけてみませんか。
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