秋の草原では、夏の間に貯めた栄養を種にするために、さまざまな植物が花を咲かせます。センブリもそんな秋の草花で、草地の中でも特に明るい場所、つまり登山道の脇やのり面沿いにも見られます。
背丈は大きくてもせいぜい30センチ程度ですが、たった5センチほどの小さな体に沢山花をつけている個体も見られます。花も直径2センチ程度と小さいのですが、日の当たり間だけ開き、暗くなると閉じることや、蕾がらせん状にねじれることなど、リンドウ科の特徴をいくつも持っています。
「千回振っても苦味がなくならない」と言われるほど苦味のある健胃薬ですが、成分はリンドウとは異なり、リンドウのゲンチオピクリンに対してセンブリではスウェルチアマリンが主成分です。分類上でも、リンドウ属Gentianaではなく、センブリ属(Swerita)として区別されます。薬効成分については古くから知られていたようですが、江戸時代後期まではノミやシラミを避けるために利用されていたようで、苦味健胃薬として使われるようになったのは明治以降のことだそうです。
同じセンブリ属として、環境省・広島県ともに絶滅危惧U類のムラサキセンブリがありますが、こちらは薬用にはされません。また、環境省で絶滅危惧U類、広島県では準絶滅危惧種のイヌセンブリや、1メートルを越えるアケボノソウ、お同じセンブリ属の植物です。アケボノソウはレッドデータブックにこそ載っていませんが、やはり盗掘の対象になりやすい植物です。こうしてみると、センブリ属の将来が心配になります。健胃薬の将来を憂いて胃痛になるというのも寂しいので、野花が安全に生息できる環境を造っていきたいものです。 |