太田川水系の生き物たち−植物− 2001年9月 垂穂号

藤袴(フジバカマ)

昔の姿いまいずこ

 万葉集巻八に山上憶良によって、秋の七草が詠まれている。

 
萩が花 花葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴 朝豹の花

 ハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウこの7種の植物を、具体的に思い浮かべることができる人は、かなり自然に親しんだ生活をしていると言えるであろう。
 また、秋の野辺を散策していて、身近にこれらの植物を見つけることができるようであれば、その地は、万葉の時代の自然が保たれていると言えるであろう。
 この7種の植物の中で、思い浮かべにくい、または、見つけにくいのはどれであろうか。野生のフジバカマを見たことがあるだろうか。

 
何人か 来てぬぎかけし藤袴 来る秋ごとに 野べをにほはす 
藤原敏行
 「来る秋ごと」どころか、ここ数年間、太田川流域でフジバカマは、注意して探しているが、見つからなくなった。1992年に建設省が行った「河川の国勢調査」で発見されたが、次の1993年に調査したときには消失していた。
藤袴(フジバカマ)
撮影:渡辺 泰邦
 最近の記録では1996年に加計町でフジバカマ発見とマスコミをにぎわしたが、そのとき撮影した写真、これが最後の記録になる。

 8月より10月、淡紫色の花を咲かせるヒヨドリバナに似た植物で、生乾きのときよい香りがする。その香りの成分クマリンは、桜餅の香りで、古くより香草として身につけたり、風呂に入れたりして、人々に親しまれていた。
 そのフジバカマが忽然と姿を消したのは、なぜだろうか。それは、自然堤防などの平野部の草地に生えるフジバカマにとって、生育に適した自然草地が開発されてほとんどなくなったためである。
 川が年に何度かは氾濫し、肥沃な氾濫原ができる、その自然の営みが、ダムや人工堤防の建設などにより、川が氾濫しなくなったとき、フジバカマは生育適地を失い、消えていたのである。

   
渡辺泰邦 二〇〇一・八・二九逝去
 
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