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生態系・里山・里海
環KAN学GAKU |
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−環KAN学GAKU− エネルギー その2 |
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奇々怪々滝山川の巻
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太田川は支流もパイプの中? |
筆者のツレに山歩きの好きな男がいる。ちょっと変わった山歩きで、剣豪小説の読み過ぎによる「山ごもり」的なセンスで、この辺の山という山を這いまわっている。筆者は「ムサシ君」と呼んでいるが、先日「ムサシ君」と飲んだ際に、太田川の水力発電の話をした。「ムサシ君」曰く、「加計から滝山川のあたりを歩いてみいや、山ん中の小さな沢にも堰があって、なんのもんかと思やあ、そこに中国電力の看板がはってある。何するもんかはわしにはよう分らんけえ、見てこいや。
大体の場所を教えてもらって、筆者のような軟弱者でもいけるところへ行ってみた。確かに人里はなれた小川に堰があって、「水利使用標識」なる看板がある。看板から、その堰から水を取って発電に使っているように思われるが、どういうふうに使っているのかよく分からない。近くにお住まいのお年寄りに聞いてみたら、「ありゃああそこで水を取ってですの、地下を走っとるトンネルの中に水を落とすんですよ。」「そのトンネルはどこから来とるんですか。」「この辺じゃったら王泊のダムからじゃね。王泊から加計の滝山川発電所へ向けて水を送っとるんよ。ダムの真下で発電するより、その方が落差をつけれるけえ、ようけ電気が作れる。ついでにその途中にある小さい川からも水を取ってできるだけようけの水を送っとるんです。」
お話をもとに歩いてみると、堰がいたるところにあってトンネルが縦横に走り、水を出来るだけたくさん発電所に送れるよう「水も漏らさぬ」仕掛けを造っている様子が見えてきた(毎秒数リットルという、小さなポリタンクに入るほどの水を取っているところもあるらしい)。
それに、つい先日温井ダムが運用開始したおかげで、王泊ダムから滝山川の一番下流の取水堰までおよそ14キロの間に五つもダムがある。いい悪いはともかく、「ここまでやるか?」とはこのことだろう。滝山川は太田川水系の中でも特に急流で、その昔川を上る鮎はよそのものとは体型が違って、特に高値で取引きされたというが…。今は急流が遺した巨岩の下を、ちょろちょろ水が流れるだけだ。
そのあといろいろ歩いてみて、滝山川周辺に限らず、太田川では発電用の水路の上を通るほとんどの支流には堰が設けられていて、水路に水を落としていることが分かった。太田川は本流だけでなく支流もパイプの中だったのである。それにしても、こうまでして私たちが使いたい「電気」っていったいなんなのだろう。ちなみに「水利科学」という雑誌によれば、昭和61年当時で太田川の包蔵水力に対する開発率は89パーセントで、全国平均の62パーセントに比べて突出して高いという。どうやら太田川の水力発電は全国でも稀な徹底ぶりらしい。
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温井ダム???…
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ところで、今年から運用を開始した温井ダムは、堰堤の高さがあの北アルプスにある黒四ダムに次ぐ、日本で二番目に「高い」アーチ式の大ダムだ。しかし、温井ダムを迂回して二本の発電用送水管が走っている。榎平ダムより下流には小さな沢しかないし、その沢にも取水堰が作ってあるところがあるので、温井ダムにはそんなに水が流れこめない。温井ダムは多目的ダムというやつで、「太田川史」という本によれば、二百年に一度の洪水や、今まで経験したこともない大渇水に備えるためのものだという。
洪水のことはちょっと分からないが、渇水の時ただでさえ水が減るのに、上流のほとんどの水が温井ダムを迂回して流れていて、水がたまるのだろうか?それともそのときはトンネルを通して発電せず、川へ放水してダムに水を蓄えるのだろうか。そんなことができるのなら、お天気が続けば早めに節水・節電を呼びかけて、王泊・樽床・立岩の三つの発電ダムからの放水をできるだけ絞ればいいことではないだろうか。
それから、温井ダムは、特にアユ釣りのシーズンに、発電用に水を取られて水量が少ない川に水を戻す「流水の正常な機能の維持」という役目があるらしいが、温井ダムのすぐ下流には滝山川取水堰があって、そこからまた大量の水がトンネルに流れ込んでいる。川に水を戻したければそこの取水量を減らせばいいことであって、それで減る発電量など微々たるもののような気がするのだが…。
「太田川史」によれば加計の太田川本流の平水流量(注)は4.13トン/秒で、滝山川取水堰の許可取水量は25.15トン/秒、約六倍である。
三十年もの時間を費やし、集落や名勝滝山峡を水底に沈め、森をなぎ倒してまでして温井ダムを造る必要があったのかどうか、何が私たちにこうまでさせているのか、なんとも釈然としない気分である。
もっとも筆者のような理(利?)に疎い人間には想像もつかない深遠な理論があるのかも知れないが…。
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(続く)水本 清隆
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(注) 平水流量 一年を通じて185日はこれを下回らない流量のことで、見方をかえれば180日(うるう年は181日)はこの流量未満になる。
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参考文献:
「太田川史」
建設省(国土交通省)太田川工事事務所編 平成五年
「水利科学」 第30巻3号 15〜39ページ 水利科学研究所 昭和61年
中国地方電気事業史 昭和49年、中国電力 |
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