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生態系・里山・里海 |
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太田川河川整備懇談会スタート
〜今後の太田川整備の方向は?〜
太田川河川事務所所長・水野雅光さんにきく |
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2007年 8月 第76号 |
7月23日、広島市中区の広島YMcAコンベンションホールで「太田川河川整備懇談会」の第1回会議が開催されました。
1997年の河川法改正で、これまでの「治水」「利水」に「河川環境の整備と保全」が法の目的に追加され、10年後の今年3月、長期的な河川整備の基本となる「太田川河川整備基本方針」が国交省の社会資本整備審議会で決定されました。今回スタートした「太田川河川整備懇談会」はこの基本方針に基づいて国交省中国地方整備局太田川河川事務所が今後20〜30年間の具体的な「河川整備計画」を策定するための学識経験者の意見を聞く場として設置されたものです。
各分野から選ばれた委員は12人(表参照)。座長には河川工学専門、中央大学の福岡捷二教授が委員の推薦により就任。会議は、先ず太田川河川事務所担当者から「太田川の現状」について説明があり、そのあと、各委員、夫々専門の立場から今後の議論のベースになる
意見が活発に交わされました。
本誌は、当日の会議で出された意見の要点をふまえて、太田川が抱える課題や今後の方向について太田川河川事務所長の水野雅光さんにお話をうかがいました。(取材・岩本有司、篠原一郎)
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◎治水対策に関して
「3月に決定した基本方針によると、現在、太田川本流筋、玖村における200年に1回の基本高水のピーク流量が毎秒12000立方m、その内、河道の整備によって毎秒8000立方mを、残りの毎秒4000立方mを上流のダム・堰等によって調整していくという計画がなされています。この4000立方mの具体的な対処策は現時点であるのですか?」
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ダム改修か穴あきダム新設か〜治水対策のポイント〜
基本方針の計画にも、「上流ダム群の有効利用等により」と明確に書いてあります以上、具体的な目星はつけてあります。その1つは温井ダムの余っている利水容量を活用する案ですが、平成17年9月の観測史上最大流量の洪水が発生したとき、温井ダムの筋ではあ
まり雨は降っておらず、本流の上流域で大雨が降っていましたので、やはり本線上流で水を止めるための何らかの施設が必要だと思っています。
例えば、本線上流に、今高津川水系の益田川にあるような河床に穴を開ける治水目的だけの「穴あきダム」を新たに建設するか、立岩ダムを改造、堰堤を高くして、そこに治水の機能も持たせるか、と言うことですね。また、柴木川の樽床ダムも改造、治水機能をも
たせるということもあります。いずれにしても、毎秒4000立方mの水量対策としては、既存施設の改造を中心にするか、洪水対策の新たな施設を造るか、どちらかになると思います。ただし、そこまで今後30年間にやるかどうかはこれからの議論になります。
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「下流の河道整備についてですが、安佐大橋殼下流の7mある堤防は過去の工事で積み上げられたため中がどうなっているかわからないので調査中、と説明されましたが、これは補修するのですか?
また中上流部の治水対策がほとんど進んでいない。これをどこまでやるのかということですが…」
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下流堤防は土で補強
下流の河道整備は、計画水量8000tに耐える堤防に壊れにくくする必要はあると思っていますが、中に鉄板を入れたり、コンクリートで固めることになると、本来の河の機能がなくなります。河を水路と見るか、河本来の姿を保つかですが、基本は土で造るということは変えない方がよいと思っています。8000tまでは耐えられる堤防を土で造るということです。それ以上は上流のダムなどで考えるということです。
中上流部の対策ですが、平成17年の洪水で床上浸水したところを、本年度から5年計画で140億円かけて輪中堤防を造ることが決まっていますので会議ではそれを追認していただく形になりますが、それから先はどこまでやるのか、は議論して決めていくことになります。洪水対策で流域全体を考えると高潮の危険ということがあります。
中上流部だけではなく、人が一番沢山住んでいるところの高潮対策をやれという雰囲気が感じられるので、予算との関係でいえば、そちらも考えなくてはならない。
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◎高潮対策に関して
「平成16年の18号台風によって、最高3.4mの高潮位が観測されたと言う報告がありました。このレベルであれば、今、全体の90%はすでにカバーできる状態であるが、実際の計画高潮位は4.4mで、計画堤防高が5〜6mです。この計画から言うと、現時点では全体の46%がカバーされているに過ぎないということですが、今後の計画として、どこまで対策を進めるのでしょうか?」
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平和公園堤防を1m高く
日本の代表的な湾である東京湾・伊勢湾・大阪湾では、5〜6mに対応する高潮堤防がすべて出来上かっていますが、広島湾における我々の管理区間ではどこまでやるべきなのか。そこは難しい課題です。と言うのも、例えば、平和公園の周辺に今より2〜3m高い堤防を全体的に造っても良いのかなど、景観に関する問題もあります。計画水位の4.4mにはしないといけないとは思っているのですが、それも平和公園の周りを今から1m高くすることに、皆さんの合意がないとできない。
今、我々が考えている事として、とりあえず3.4mをカバーしきれていない残りの10%を早急に行う事と、全体を4.4mにはしなければいけないとは我々は思っています。
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◎治水対策と環境問題
「河川法の改正で、環境保全という視点が加わり、今回の懇談会の委員もその面で多彩な顔ぶれで、今回の会議でも、治水対策として河川整備を行うことが、河に褄む生物相を衰退させているという指摘が、中越、河合両委員からありました。その中で特に『アユ』
の専門家、村上委員からは、河川整備で、アユの棲家になる浮石がなくなり、砂に埋まってしまっているという発言がありましたが、その点をどのように考えますか?」
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浮石対策は現場を見て
浮石のことを村上さんはよく言われるのですが、私にはよく理解できないのです。洪水の時に石の表面を砂が洗ってそこにアユの餌の珪藻が生えるということが大事。だから砂が流れて、動いているということは自然の状態だと思っているんです。
全部が浮石がなくなっているのかどうか。流れの速い瀬のところは砂が溜まることはないだろうし、砂が溜まる所と溜まらない所が出来るのは自然の状態で、太田川はそういう川だと思っていますので、村上さんの指摘は具体的に現場をみて考えていくことが必要だと思います。
ダムが出来ると浮石がなくなるといわれますが、ダムは細かい砂を止めているので、逆に浮石が増えていいと思っているんですが最近は石を洗う目的で温井ダムでもフラッシュ放流をしていますが、最近はこれに砂を混ぜて放流している所があります。
太田川には瀬と淵もある
もう一つの河川整備が生物相を衰退させているということですが、これは一般論としてのご意見だろうと思います。一般にはこれまでの川づくりで、河岸がコンクリートで固められて、水辺ではなく水際になってしまった結果、川に棲む動物が田んぼなどと行き来ができなくなったということ。もう一つは、県などの工事に多いのですが、河床を掘って川をまっ平らにしてしまうので、流れが薄く緩やかな流れにしてしまう。それで瀬と淵ができなくなる。
それが多分、浮石が減る原因でもあるんですが、太田川の場合そんなまっ平らにする工事はしていないし、水みちはできているし、瀬と淵もある。そんなにおかしくしていることはないと思っていますが、具体的な指摘があれば、ご意見をよく聞いて考えていかなければならないと思います
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「中国電力による発電用の取水の問題ですが、太田川全長103qの内、中上流の60qは維持水量が少なく、特に『津伏堰』では本流流量の3分の2を取水して、太田川本流は導水管を流れているといわれるほどで、この問題は広島市の『太田川再生プロジェクト委員会』でも終始取り上げられてきたわけですが、この減水区間の維持水量を増やすことが流域住民の大きな要望になっています。この点については?」
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具体数字の提示は微妙
基本方針でも「減水区間の流況改善について、関係機関の協力の下、努力をしていく…」と書いてありますが、具体的な数字が出せるかどうかは微妙ですね。中国電力の発電との問題と、エネルギー庁との関係もあり、全国に波及することなので、ここだけのこととして書きにくいのです。
実は基本方針でも具体的に、「津伏堰」の取水で、維持水量が、本来2tちょっとの所を漁業関係者との調整で4.5tにしている、こういう努力もしていると書いて、数字も出したのですが、他に影響するということで全部消されました。当然今回の整備計画でも、改善しなければならないし努力が必要、という姿勢は明確に書かなければいけないし書きますが、具体的なことは書けないかもしれません。そこは微妙です。うちで勝手に決められることではないから
江の川で水を返せコール
もう一つ大きな問題は、下流の太田川の水は、江の川の水があるんです。水利権上は日量30万t、可部発電所発電の発電をくわえると、実行上は倍の60万tぐらいは、土師ダムから来ているのです。それが、海に流れて、下流の派川のシジミ、広島湾の力キを養っているんです。一方では江の川ではアユが生活できていない。そこで、江の川水系から「江の川の水は江の川に返せ」という大コールが起きているんです。
それをどうするかが大きな課題になっています。私は太田川の味方だから、守りますが、もう少し大きな観点でいえば、江の川のアユか広島湾のカキか、という問題になる。自然環境からみれば、本来ならば江の川のアユの水です。人間が勝手に広島湾に流している
んだ、といわれた時にどうするか?というのは大きな問題です。それにはまだ答えが出ていないんです。
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「整備計画で取り上げる範囲の問題について、河川事務所としての守備範囲は行政の仕切りの中で決まっているわけですが、今回の会議でも、中越委員から荒廃している森林の問題、鳥類の専門の日比野委員から海辺の干潟がなくなっている問題などが出ましたが、物質の循環、生命の循環という観点からすれば、現在の縦割り行政をこえた形で、議論がでることは当然だと思われます。会議では所長は範囲をこえても、情報は集めて提供するし、議論しましようという姿勢を示されましたが。その辺のことは?」
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市プロジェクト委と役割分担
確かにむずかしいことですが、川だけのことで書いても面白くないし、川に影響あることについては書かざるを得ないということですが、問題はまだ縄張り意識を持つ方もおられることもあるし、我々が手を出せない所があります。
その点、広島市の「太田川再生プロジェクト委員会」が今年も継続して行われ、図らずも同時進行の状態になっだので、私も委員として参加して、あちらでは川以外の流域全体の海の話、山の話を大いに議論して、広島市として出来ることは沢山あるので、両方が補完しあって役割分担が出来れば、大変いいことになると太田川河川整備懇談会委員思っているんです。
「有難うございました。本誌も両方の会議の展開を注視し、委員の方々と一緒に太田川の理解を深め、今後の方向を考えていきたいと思います」
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