生態系・里山・里海


「太田川再生プロジェクト検討委員会」発足

 2006年 9月 第65号

 広島市に「ゼロエミッションシティ推進協議会」というものが設置されて5年余りになりますが、その委員の一人としてゼロエミの太田川版のようなものが出来ないかとかねがね思っていました。そんな中、広島市の秋葉市長が漁業関係者との話や太田川の現実をより深く認識される中で、海と森をつなぐ太田川を再生する為の市民参加型の公開形式の場を作ろうということで、「太田川再生プロジェクト検討委員会」が発足することになりました。その委員へ、環・太田川としての就任要請が私にあり、委員に就任することになりました。そして8月18日に第1回の会議が市役所本庁においてスタートしたのです。ここに第1回太田川再生プロジェクト検討委員会の報告をさせていただきます。 (取材・原 伸幸)

 

太田川再生プロジェクト検討委員会の
特色と構成


 太田川再生プロジェクト検討委員会(以下委員会)の最大の特色は、配席図からもわかるように、太田川関連の市民団体、NPO、一般公募市民、漁業関係者(広島市漁協、内水面漁協、太田川漁協、太田川上流漁協)が大半を占め、しかも学識経験者、行政との連携もとられた公開された委員会だということです。一つの大きな問題を解決しようという時、その問題(テーブル)を対等な関係で囲み議論する、そのような場として設定された極めて市民民主主義的な委員会です。
ただ残念なことは、行政などの枠を越えてこれだけの個人、団体の参加が実現された中で、太田川の水の最大の利水企業である中国電力の参加がなかったことです。しかしオブザーバーとしての参加はやぶさかではないということなのでこれからに期待しましょう。
 

委員長の選任と設置要綱


 委員会が開催されると各委員の紹介に次いで、秋葉市長の挨拶がありました。市長は太田川を平和宣言にも盛り込んでいるように平和の源としての太田川の大切さを話されました。そして議事に入る前に委員長の選出が行われ、佐々木健国際学院大学教授が委員長に選任されました。環・太田川の読者はご存じの方も多いと思いますが、創刊当初からお世話になっている「広島の水博士」の異名を取る名物先生です。

 委員長選任がされて議事に入り委員会設置要綱の説明が事務局(行政)からありました。

 「広島市は太田川の流域に発達した都市であり、太田川は市民生活や市民の経済活動などに恵みをもたらす市民共通の宝であるとともに、本市にとってその公共空間としての役割は大なるものがある。しかし、都市化に伴う生活排水の増加などにより悪化したその水質は、下水道や農業集落排水等整備により改善傾向がみられるものの、流域における森林の荒廃やダムの整備による影響のため、水環境に大きな変化が生じてきている。そしてこのことが広島湾の水質及び底質に影響を与え、カキの生育不良の原因になっているとの指摘もある。そこでこのような太田川の再生について、対策を検討していく必要がある。」以上は要綱前文です。
 
各委員の意見発表

 設置要綱の説明に続いて、厖大な検討資料の概要説明と今後のスケジュールについての説明があり、その後各委員からの意見発表に入りました。

「雁木組」の氏原さんからは、雁木タクシーの運行で2年間で約7000人の乗船があったとの報告がありました。

「環・太田川」の原は、創刊からの経緯などを説明した後、資料に導水管発電の記載がないことと、なぜ中電がこのプロジェクトに参加して来ないのか問い質しました。

「太田川みこし連」の小田さんは、行政区を越えた活動で太田川ファン作りをし、中・上流域の経済立て直しが必要と話されました。

「森の塾」塾長の山本さんは、太田川源流の森をフィールドとして活動してきたが、ここ10年位太田川では水量が少なくてカヌーができないので、現在は錦川でやっていると話されました。

「市民委員」としての柴崎さんは、し尿処理と水量を保てる施設の充実を訴えられました。

●同じく
「市民委員」の山根さんは、少年時代から太田川と親しんだ経験から次の5点を指摘されました。
 1、柳瀬での遊泳が不可になった
 2、全般的な水質悪化
 3、可部線の問題
 4、水量、流量の問題
 5、山の荒廃

「広島市漁協」の濱本さんは太田川との密接な関係で江戸時代から続いているカキ養殖も、現在は貧酸素水塊などの出現で苦境に立たされているとのことです。

「広島内水面漁協」の安達さんは陸からは見えない川底のゴミが深刻で特に梅雨時期の雨水、汚水の流出が問題と言われ、子供の目線で川を美化していく必要性を訴えられました。

「太田川漁協」の栗栖さんは、本来川は水量があって瀬もあるものだが、今の太田川は水不足であり魚が死をもって現実を知らしめていると言われました。

「広島市水道事業管理者」の江郷さんあ、水道の歴史は108年の歴史があり、98年(平成6年)の以上濁水時にもかろうじて乗り切った不断水の歴史があり、226万県民の6割に水を配給している。名水百選といわれるが、河川としては太田川と木曽川だけで他はすべて湧水である。安全安心な川を保障するために吉和地区で水涵養モデル事業に取り組んでいると話されました。

「国交省河川事務所長」の水野さんは、目指すべき方向性として「泳ぎ遊べる太田川」などの大きなキーワードが必要でそのために平常時の川をどうするかという議論が必要で、異常時は私たちが責任を持つと言われました。

「広島県広島地域事務所建設局長」の余川さんは、水野委員の意見は的が絞れていいが、一般的には太田川が身近にありすぎて関心が薄くなっているのではと言われました。

「新潟大学」の大熊教授は、「新潟から来て発言時間は3分ですか」と一言いわれ、物質循環の視点から行政とNPOの関連を明確にした取り組みが必要であり、太田川現地見学会を企画してほしいとの要望が出されました。

「広大」の上教授は、川と海の関連を解明しながら、天然アユの遡上が出来る川にする必要がある。そのためにも川の水を大量に使用している企業には説明責任があると言われました。

「広大」の中根教授は、30年前に太田川下流から三段峡の上流まで水質調査をしたが、その時すでに三段峡上流の汚れが目立った。崩壊した斜面の97%が人工林であることからも森林の樹種と役割を今一度見直す必要がある。国交省の水野さんは、市民は平時を考えて異常時は私たち(国交省)にまかせてというが、異常時が問題なのであってそのような問題に市民が参加していける潤いと親しみのある安全な川にしていきたいと話されました。


 限られた時間の制約があるので議論の深まりとまではいかなくとも、それぞれの立場から貴重な意見が出されました。市民参加型の委員会です。これから多くの市民の参加で回を重ねて議論が深まり、太田川が真に再生していける具体的な取り組みが出来ることを熱望しています。
 
 
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