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●生態系・里山・里海−森林 |
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◇4月開始◇ 森林環境税「ひろしまの森づくり県民税」 |
〜広島県農林整備室 原和生室長に聞く〜 |
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12月の広島県議会で、森林環境税「ひろしまの森づくり県民税」が可決され、新年度の4月から県民税均等割額1000円に500円(法人〜均等割額の5%)が加算される形で実施されます。
荒廃する森林を広く県民も参加し、保全に努力しようという趣旨ですが、集められる税の総額は8億1千万円、これを誰がどのように使っていくのか、これまでの林業施策との関係など新しく税を納める住民はほとんど知らないのが実情ではないでしょうか?
県庁ではこの事業を担当する農林整備管理室の原和生室長に話を伺いました。(取材・篠原一郎)
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取材の内容に入る前に、県土の72%をしめる広島県の森林の特徴をあげると
@森林面積61万haの内、国有林はわずかで民有林が92%を占め、中でも松林が全国一多い(30%)。したがってマツタケの生産量も全国一多い。
Aその反面、人間が植林した人工林は少なく人工林率は29%、全国でも43位。つまり大部分はマツや広葉樹の天然林。
B山林を所有する林家数は約5万戸で全国1位、その内農家林家が多く全国で3位。
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荒廃する森林
所有者だけでは守れない
5万戸の林家の内73%が5ha以下の小規模所有で、農家林家が多いのは昔から、下草、落ち葉の堆肥や燃料としての薪炭材など日常的に森林を利用する中で自然の持続的な循環が保たれてきたことを表しています。最近各所で話題になる里山文化そのものです。
戦後、全国的に取り組まれた拡大造林は全国では約1000万ha(人工林率46%)に上りますが、人工林率29%の広島県では約17万haになります。
昭和30年代以降の経済の高度成長に伴って、里山は生活の変化で人が山に入らなくなり、一方の人工林は、輸入木材の増加=木材価格の低迷で、折角植えた木も間伐などの手入れが出来ないまま、放置されるところが多くなっています。このように人の手が入らなくなり放置された山林が、台風などの大雨で災害をもたらし、松食い虫の被害を増大し、鳥獣の被害も大きくしているのが最近の実状です。
本来、民有地である山林は林業経営など所有者の手で保全されるものですが、現状では所有者の努力では守りきれない。そこで、森林から恩恵を受ける全ての住民が参加をして新たな森林整備の取り組みを始めて、森林の公益機能を増進させていこう。というのが今回の「ひろしまの森づくり」県民税の目的です。
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周知不十分
このような森林環境税は、3年前に高知県が最初に実施、その後現在までに全国16県、中国地方では広島を除くと4県とも既に実施しています。今年4月からは8県が導入予定。広島県では昨年までは、全く議論の対象にもならなかったのが、せく年夏ごろから急に実施が検討され始め、新税を納める県民の間でも殆ど議論されないまま、議会に上程され決定されたことへの手続き上の批判も多いのですが、その点について原室長は「県では環境税という形での全国的な取り組みに期待してきたが、環境省の取り組みも今の段階で、実現に不透明な状況にあり、そうした中、去年三原市で開かれた全国植樹祭などで、森林ボランティアの方々などから森林を守るという意識が高まっていることを認識し、実施に踏み切ることになった。実施までの時間が短く、県民への周知も十分でない点もあるが、これから税の使い方などを説明する中で理解を得ていきたい」と話します。
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使い方は?〜既存事業とのすみわけ
では、その使い方の内容ですが(図参照〜県のHP掲載資料より作成)
まず、県の森林施策の既存の事業とは別に「ひろしまの森づくり事業」として、森林所有者だけでは維持管理できない森林を県民全体で維持していくということを前提に事業の仕組みを考えています。その考え方は…
@民有林56万haの内、スギ、ヒノキの人工林は14万haで、手入れされている森林が8万ha、手入れされていない森林が6万ha。このうち手入れされ、林業の成り立つ面積、8万haは既存の施策で効率的な林業経営を推進する。
A手入れされていない6万haと、里山林35万ha(広葉樹の人工林3万ha、天然林の38万ha)合計41万haが森林所有者だけでは維持管理できない森林として県民全体で維持していく対象の森林です。
B具体的な事業の内容は5つの項目に分かれています。
T 人口林の再生〜環境貢献林整備としての間伐推進〜未整備6万ha対象
U 里山対策〜土砂災害防止、生物多様性保全、鳥獣害防止のための整備。
V 間伐材利用拡大〜公共施設などへの県産間伐材利用促進
W うるおいの町づくり〜県民生活に身近な緑化推進
X 県民意識の醸成〜県民の森、林業に関する意識啓発、情報提供
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手入れの内人工林再生に約半額を…
5項目のうち(T)の人工林の再生(X)の県民意識の醸成は県が計画を立てて推進し、(U)〜(W)の里山対策、間伐材利用拡大、うるおいの町づくりについては市町が主体で取り組み、財源として8億1千万円の約半分が市町に一括交付される形になります。残りの半分が県が実施する「人工林の再生」に支出されます。
原室長の話では、「これは放置林の間伐が主体になるが、林業経営として可能性のある所は30%程度間伐し、急傾斜林など林業としては無理な所では40%以上の強度間伐をして広葉樹との混交林にしていく方針。また風雪害で倒れた木の整理などもこれでやっていく」ということです。土砂災害の起きやすさなど、緊急性の高いところから実施していき、5年間に5000haを目標に実施するということです。「整備をする」といっても私有地ですから所有者の同意を得なければなりません。実施に当たっては、森林所有者と地元市町の間で20年間の皆伐制限などの協定を結ぶ必要があります。
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自己負担は1ha1万円程度に
この面では森林関係者の現状に対する深刻な危機感があります。原さんは「今でも、山林の相続で所有者が分散し、不在地主が増えている。このまま放置したら手がつけられなくなる。今ならなんとかなるのではないか、所有者の理解を得て進めたい」と語ります。その点、実施についての所有者の自己負担も1ha当り1万円程度にする。他県の制度では全額公費負担にしているところもあるが、所有者もこの程度の負担をしてもらい、その後の管理も続けてもらう必要もある。ということです。
通常、間伐にかかる標準的な経費は、1ha当り約30万円。国の補助の基準は68%なので、自己負担に10万円近くかかるので、通常の施工からすれば出費はかなり少なくなります。
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掘り起こしは市町村で…
しかし、何と言っても所有者がその気になることが前提で、その点、市町の森林担当者が対象になる森林の所有者への働きかけが必要になり、県が計画推進するといっても市町の仕事が中心になります。
県では今、行政の広域化・道州制の中核県としての県の仕事を整理し、合併した市町への事務移譲を進めていますが、これもそういう方向での考え方なのか?原さんにうかがうと、「市町は地元のことを把握しているし、これからの地元をどうしていくか?考えることが、これから特に必要になってくると思う。我々は市町を基礎的自治体という位置づけで、住民に近い部分の事務は市町でやった方がいいという発想だ」ということです。
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里山対策は協定を結んで…
「人工林の再生」以外は、市町が地域の創意工夫によって、3つの項目の中から内容を選択して行うことになっていますが。そのための財源は、8億1千万円の半分を一括市町に交付します。その配分の基準は「基本額+森林面積に応じた額」ということで、基本額は200万円程度を考えているということです。
この面では、里山対策として、土砂災害防止、生物多様性保全、鳥獣害防止のための整備事業がありますが、これも森林所有者と市町の間で伐採制限、利用計画、転用制限などの協定を締結することが必要です。また里山を保全に関する住民団体やNPOの取り組みへの支援ということも考えられています。
以上ご紹介したようにこの事業は県が企画したとはいえ、実際に動くのは市町の仕事になるわけで、その点現場の市町担当者はどう受け止めているのか?安芸太田町役場と広島市役所の担当者に聞いてみました。
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市町担当者の受け止めは?
安芸太田町産業振興課森林担当談=確かに県の企画が唐突に出てきた感じはありましたが、決まったからには積極的に取り組みたいと思っています。県から1月初めに最初の説明を受け、2月に再度細かい説明があるのでその後、町としての取り組みを検討したいと思っています。「人工林再生」は不在地主を重点に、15年以上間伐されていない所を対象に、ということですが、なかなか難しいと思います。我々だけでは十分ではないので、森林組合の応援もお願いしてやっていこうと思っています。
広島市役所森林担当者談=もともと中国5県ですすめていないのは広島だけという状況で、市町段階では、広島もやるべきだという声もあげてきたので、努力していきたいです。まだ詳細が分からない部分も多いので、色々検討して取り組みたいと思っています。
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初年度は5億9千万円
以上、4月から実施される森林環境税「ひろしまの森づくり事業」の概要をご紹介しましたが、初年度の予算は5億9千万円で、これは、住民税が6月からの課税で、年間10カ月徴収になるのと、法人の場合が08年度の実績に課税されるということでゼロになるためです。町村の担当者も忙しい中でどれだけの事業ができるのか?今後とも注視していきたいと思います。
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最後に…
広島県の森林・林業を巡る特徴として、輸入材の入荷が全国1位(全国シェア17.5%)で、木材の需給では、外材の依存率が90.1%(平成16年度)という実態があります。県の木材業界は外材一色、森林組合が「地元産材で家を建てよう!」というスローガンを掲げ、「生協ひろしま」では、建築士と提携して講習会を開いて、木材の地産地消を進めていますが、外材中心の木材流通体制は一向に変わりません。県行政としては、木材流通の川下体制の改革に積極的に取り組んで欲しいと、原室長にも要望して取材を終えました。
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