森林・水源

第1回
山を守り儲ける林業への道

●生態系・里山・里海−森林

林業の将来は暗くない!
〜自給率40%を目指して…〜
林業家 安田 孝さんに聞く(第2回)
(2006年 4月) 


 太田川の源流、吉和で180haの山林経営をすすめる安田孝さん。先月号につづいて今回の取材リポートは「これからの林業の展望」についてです。安田さんも4〜5年までは「これからの林業はどうなるか心配だったが、去年くらいからこれからは面白いぞ、という気持ちになってきた」と言います。ではその気持ちの転換とはどういうことなのか?また広島県のこれからの林業は?以下、安田さんの話を要約、ご紹介します。 (取材 篠原一郎)
 

■広島県の林業地帯は備北と西中国山地

 先ず、広島県の森林の状況とこれからについて…広島県は松林が全国1位、花崗岩質のやせた土地で、山の利用といえば薪炭と農業に直結した里山利用だったわけで、これが今松枯れでどうにもならない。安田さんも「瀬戸内沿岸地域の林業を経営という面から見た場合、可能性が乏しく、正直言ってどうすればよいかわからない」という。広島県で林業地域といえば備北地方と太田川上流の西中国山地。そこでこれからの樹種の選定についてどんな点に留意しなければならないか?話をうかがった。
 
■スギとヒノキの比較

 戦後の拡大造林で昭和40〜50年代は、植林の樹種としてはスギが主流だったが、スギの価格が下がり出してからヒノキに変わり今はほとんど、ヒノキが植えられている。価格が高いからということで一般に、ヒノキを選ぶわけだが、以前は3〜4倍でヒノキが高かったが、最近はスギが1万円(1立方m)くらいで、ヒノキが1万8〜9千円で、2倍弱に縮まってきている。安田さんの所有山林は7:3の割合で八郎杉が多い。安田さんはスギとヒノキの特徴を、自然環境と経営の2つの面について、、比較し次のように指摘する。

○ヒノキは充分手入れをしないと災害を起こしやすい

 広島県の土質は花崗岩質で土砂崩れを起こしやすく、最近のような集中豪雨では樹種に関係なく山が崩れるが、なかでもヒノキは手入れが充分でないと災害を起こしやすい。スギの葉は落葉する時、小さな枝状で落ちるが、ヒノキの葉は、細かい鱗片になって落葉する。木の下に植生がない場合、雨が降るとこれが流されてしまい、表土を保護してくれない。間伐しないで光が入らないヒノキ林に入ると、よく根が剥き出しになっているのが見られるが、雨が表土を流してエロ−ジョンを引き起こすことになる。スギの場合は、小さな枝状でらくようするのでそれが堆積して土を守り、肥料になる。スギ林は林床ふかふかしているが、手入れが悪いヒノキ林の林床は固い。ヒノキの場合間伐して下層に豊かな植生を育てないと災害の危険が多くなる。その点同じ手入れをしない場合でもスギの方が自然に優しい特徴がある。

○スギの方が生産コストが低い

 スギとヒノキを比べるとまず成長の速度に差がある。同じ45年生で比べると、スギは胸高直径が平均30cm以上になるが、ヒノキは20cmで、それに比例して高さも高い。一本あたりの材積にすると約2倍以上違ってくる。伐り倒して造材する時、ヒノキは硬いから枝も枯れていないのでそれを全部落とさなければならない。その労力も掛かるし、スギだと先の方を払うだけで、4mの丸太が4本とれるが、ヒノキは4mが1本、3mが1本しか採れない。同じ1立方mとるのにヒノキの方がはるかにコストがかかる。1立方mのコストがスギは5千円、ヒノキは一万5〜6千円、3倍の開きができる。ということで、一般的にはヒノキが高く売れて、儲かるといわれるが、安田さんは「太田川王流、吉和は八郎杉の伝統もあるし、適地なのでスギをメインに考えた方がよいのではないか」と語る。
 
■外材とのすみ分けの時代へ

 次に木材自給率わずか18%という外材主流の現状をどうしていくのか? 特に広島県は外材輸入が全国1位ということで、木材業界は外材主体になっている。最近は生協でも、講習会を開くなど、木材の地産地消を森林組合などと提携して進めているが、この点についての安田さんの意見をうかがった。安田さんはこれからは外材と国産材のすみ分けの時代になるという。「今、外材が無くなって木材の家が建たなくなったら困る。外材が全部悪いわけではない。せめて今の自給率18%を40%ぐらいまであげる努力が必要だ」というのが安田さんの考えだ。

 生協などが提唱する全部、地元産の木材で家を建てる「こだわりの家」、それはそういう考えで建てるのはいいのだが、一般には、そこまでコストがかけられない。その場合、外材を使いやすい所は外材を使えば良い。外材も、特に米マツ(アメリカ産のマツ)は強度が強い。家を建てるのに柱を立ててそこに梁(ハリ)や桁(ケタ)を横にかける、これを「横架材」というが、これには「たわみ」の強度が要求される。これにはマツが良いが国産では数量的に限度があり、米マツが使われている。スギ、ヒノキでもよいが、「曲がり」の強度に耐えるにはかなり大きいものが必要になる。
 
■これからが「せめぎあい」

 また柱材に使われる北欧からの「ホワイトウッド」の輸入が多くなっているが、これには国産のスギが十分対抗していけるという。国産のスギについては、以前乾燥の仕方で建築後変形するという問題があって、平成12年に「品確法」=住宅の品質管理に関する法律=ができて規制が厳しくなり、建築業界から嫌われてそれがきっかけで国産のスギの需要が減ったという経緯がある。今は、技術的に改善されて「品確法」にかかるような問題は、全く無くなっているのだが、その点、北欧からのホワイトウッドなどの需要が伸びたのは、細かく切った材木を接着剤で貼り合わせた「集成材」で、欠点をなくしているので強度も精度もあり狂いがないので、使うのに無難、という理由がある。

 家を建てる消費者の方は、集成材より1本の木をそのまま使うのがよいという価値観があるが、工務店の方は「国産材でも狂いが出ても責任が持てない、集成材なら問題がないので安全性をとる」ということから外材に傾斜していったという事情がある。安田さんは「この辺がこれからのせめぎあいだ」という。

 工務店も建築会社も林業家も連携して国産材を消費者に理解してもらうよう働き掛けていけば国産材の需要も充分高めていける。その考え方はもう木材業界全体としてもいきわたっているし、行政にその姿勢は伝わっており、林野庁もその方向で来年度からは予算をつけて踏み出すことになっているということである。市場での需要が高まれば、木を供給する林業にも力になる。木材価格の面でもモノによっては外材の方が高っくなってきている、4〜5年前が転換点で、その傾向ははっきりしてきて、米マツなどは国産より高いという。こういうことから見ても関係者全体が、今のような外材主流の状況から国産材とのすみ分けの方向に歩み出していることは確かだと安田さんは語る。
 
 
■日本は自然と調和して
  木を生産できる唯一の国

 また、長期的に見ても戦後の拡大造林による山が生長して、50〜60年生の高齢林になると品質も安定してきて、外材に対抗できるものを安定して供給できるようになる。そうなると、国内に木が豊富にあるにもかかわらず、木材輸入世界一というのは、環境問題から、許されなくなる。ロシアなどで木を伐って永久凍土をつぶして、塩分が上がって来て何の植物も育たなくなるようなところから輸入するなどということはどう考えても尋常ではない。世界の環境団体からたたかれるようなことになる。

 日本は木の生えていない山は無いし、木を切っても砂漠化するようなことは考えられない。自然を破壊せずに、自然と調和して木材生産ができる唯一の国といってもいい。長期的に見て日本の林業のこれからの問題は、今までの価格低迷のために植林が進まず、小さな木の山林が極端に少なくなっていることだ。面積が少ないのは将来にわたって少なくなるからその点は危惧する所だ。
 
■アドバイスをしていきたい!

 結論として、一般の山林所有者は今何をしていいか分からないというのが実状だが、林業の基本は「植えて育てて伐る」までの仕事で、これが一度手を入れた山というのは伐るまで面倒を見なければダメになる。経済的に見ても、自然環境からいっても人間が管理しなければならないと言うのが自分の考えの基本だから、そういう意味でこれからも相談を受けたら個々のケースを考えて、出来るだけアドバイスをしていし、そういう機械もつくっていきたい。と語る。

 ところで、安田さんは7年前から木工家具の製作を吉和の作業所で始めた。「山で放置していた曲がりヒノキの根元を見て板材に加工したら売れるかもと思い付き、イベントに出したら売れたのがきっかけで、自分が加工する楽しさを知ったという。「注文を受けて作るが。儲けにならなくても雨や雪の日に楽しみながらやっている」という話。ここにも木の世界に生きる多彩な安田さんの人柄が表れている。

 また、安田さんは独自のHP「森からの宅配便」を開設。ここでも林業の現状などを伝えている。「都会の人から見ると農山村は憩いの場かもしれないが、住んでいる者にとっては過酷な現実があること、田舎の人間も努力して頑張っているよということを知ってほしい」。安田さんは都会人にそう呼び掛けている。
 
 
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