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 連載 「水とはなあに?」
〜生命と環境の関わりで考える〜
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 馬場 浩太 (広島修道大学名誉教授) 
2007年 5月 第72号

地球温暖化と世界の水不足

 4月6日にIPPC(気候変動に関する政府間パネル)は、平均気温の上昇を3度までに抑えることができれば、深刻な水不足に直面する人口が2020年ごろに数億人増えると予測している、ということが報道されました。

 「水不足」と言われることは、単に自然科学的に見た気候変動の問題だけではなく、社会・経済・政治の構造の問題で、この「水とはなあに」のシリーズで私が扱える範囲を超えています。とはいえ、人間・生命系の流れと環境・水との関係を視る視点から、そもそも水不足とはどんな問題か、どこに問題があるのかを考えておきたいと思います。

 しかし、水不足の本題の前に、話題のきっかけとした「地球温暖化」と言われている問題はどういうことなのか、できるだけ簡潔に整理してみておきましょう。
 
地球温暖化とはどんなことか−CO2との関係は?−

 「地球温暖化」として今や世界では常識となってしまっている考え方は、地球表面の気温は上がり続けており、その原因は大気中の二酸化炭素CO
2の濃度が増え続けていることにある。そして大気中のCO2濃度の増加は人間の化石燃料消費の増加によって起きている、だから温暖化を防ぐためにCO2の排出を減らさなければならない、ということです。

 しかし、このあまりにも単純化された一見分かりやすいシナリオには、データを素直に見て物事を少しまじめに考えようとすると疑問点がいくつも出てきます。いかにはできるだけ簡略に私なりの整理を記しておきます。

 地球表面の平均気温が1980年頃から上昇し続けている傾向は観測事実です。

 大気中のCO
2濃度が19世紀以来増加し続け、20世紀後半からはさらに急激に増加していることも観測事実です。

 CO
2の分子が温室効果の性質を持つことはよく知られています。

 温室効果の性質を持つ気体分子は他にもメタンCH
4など多くあり、地球の大気中で温室効果の働きをしている機体の第1は水蒸気H2Oの分子です。

 地球表面の気温を決める要因はたくさんあり複雑ですが、その第1は当然ながら太陽光=日射で、次に大気の存在による温室効果と海水の存在、等です。
 
 図14で示されているのは南極の氷の試料から測定された過去16万年間大気中のCO2とメタンの濃度、気温の変動および、地球の公転軌道や自転軸の傾き等の変化の周期から計算される日射量の変動です。

図の上3つのグラフからは大気中のCO
2濃度(およびメタン濃度)の変化と気温の変化との間に著しい相関が読み取れます。

 しかしこの相関関係が即、CO
2の像かは気温上昇の原因となっているという因果関係を示しているという事にはなりません。

 CO
2の変化が気温変化の原因と考えるならば、ではそのCO2の変化の原因はそもそも何かが説明されなければなりません。

 大気中のCO
2濃度の変化には多くの要因がありますが、その中でも気温は大きな要因の一つで、気温の上昇がCO2濃度を増加させる結果を招くという、温室効果と逆の因果関係の正のフィードバックも存在します。

 この逆の関係を実際に示しているとみられる気象学者キーリングの観測データの図は『CO
2温暖化論は間違っている』槌田敦著(ほたる出版)の中に見ることができます。

 ここであえて温暖化とCO
2のことに触れたのは、CO2と気温のどちらが原因か結果かという議論の為ではありません。化石燃料の消費を増大させてCO2と廃熱の排出する流れを増大し続けることが持続可能ではないということは初めから明らかでしょう。

 それよりも考えておきたいのは、温暖化は悪いことだ、温暖化の原因はCO
2であり、CO2を出すことが悪いのだ、という一見分かりやすそうな単純な図式で分かったつもりになってしまうことにより、複雑な全体を一面だけでとらえて他の深刻な問題やより本質的な要因を見えなくしてしまうことです。

 CO
2を直接には出さないとして高レベル放射性廃棄物を出し続ける原発がクリーンだとされたり、バイオエタノールにしても、CO2の正味の排出がない点のみに注目されて、生産する作物に必要な水資源の議論は聞かれません。

 温暖化のせいで水不足になるという話も、深刻な水不足を作り出す人間社会の構造の問題から、ともすれば目をそらせる効果があるのかも知れないという気がします。
 
「水」戦争の時代―水は資源か環境か―

 20世紀は石油の利権を奪い合う戦争が続いたのに対して、21世紀は世界の人口の増加に対して、水の需要の増加が人口の増加以上となり、水資源を奪い合う「水」戦争の時代になるだろうといわれています。

 水資源をめぐる争いには一つの河川が複数の国にまたがって流れる国際河川で、上流側の国での過剰な取水または汚染にかかわる下流側の国との争いや、一つの河川からの農業用・工業用・都市用など用途目的別の取水権の争い、などがあります(図15)。

 そして、ヨーロッパや南米・米国では水道事業の民営化が進められ、多国籍大企業による水支配をめぐる市民の抵抗が広がっているということです。そこで水は収益や投機目的の対象となる商品なのかコモンズ(共有財産)か、ニーズなのか権利かが争われています。私たちは今やこの問題を十分に考えておく必要があるでしょう。

 水は商品かコモンズかという対比の問いを、水は資源か環境かと言い換えて考えてみましょう。地球上の生命が最初に発生したのは海の中で、膜で囲んだ自己の系を取り巻く周りの環境は水でした。その後進化した生物が陸上に出て以来、水は体内の細胞にとって体内を流れる環境として、外の環境から常に取り入れなければならない水資源となっています。

 しかし、水資源は石油資源と同様に考えて、油田を探索し採掘すると同じように化石帯水層を探して大量に汲み上げ、グローバル経済の市場で商品とすることになじむものでしょうか。
 
人間の水の使い方―家の中を通る水の流れ―

 一軒の家に上水道から水が入った水は、いろいろな使い道を経て一部は蒸発したり庭の土にしみ込む外は下水道を通して、結局はすべと外の環境中の流れに戻っています。

 人間は環境中で循環している水の流れの中から一部の水を借りて自分の体内や家など活動空間の系内を迂回させる水の流れの中に生活があり、水は再び環境中で循環する水の流れの中に返していると見ることができるでしょう。

 返す水の姿は前よりも様々の物を溶かして汚れたり熱を含んだり、あるいは気化熱を背負って水蒸気になったり、しかし水という物質は変わらずに流れに変えります。

 石油などエネルギー資源については、利用は即ち消費で燃やせば熱とCO
2等の別のものに変わってしまいます。その点で水だけは利用しても水と言う物質は変わらず、生活空間の中を毛細血管のようにながれる環境ともいえるでしょう。

 一つの水系で上流側の住民が流れの環境に戻した下水は流れの中で浄化されて繰り返し下流側の住民の生活に使われるというように水系は全体が一つにつながっています。河川水系の上流が汚染されると渡良瀬川の谷中村、神通川、阿賀野川のような公害となりますし、地下水系の汚染はされに厄介なことになります。

生活に必要な水の量は・・

 人が1日に摂取する水の量は食物からの水も含めて2.5g、生活用水の使用量は250gとしましょう。家庭外の農業用水・工業用水・都市用水の一人1日当たりの使用量は、図16のように(少し古いですが)国によって大きく違います。

 生活用水は人が生きるために基本的に必要な命の水として、近代社会では上水道は公共事業で営まれ、地域の河川や地下水系からコモンズとしての水が採取されて比較的に安く供給されてきました。

 ところが水道事業が民営化されて水が商品として多国籍大企業の利益追求の対象とされるようなことになると、水は高く買う客の方へ流れ、途上国や払うお金のない人には生活に最小限必要な水さえ得られないということになりかねないでしょう。

 ウォーターハンターと呼ばれる企業がアフリカの沙漠の化石帯水層から大量に汲み上げた水がタンカーで運ばれるという図を想像すると、水の流れの循環する中にどうはまるのか、どこかがおかしいという気がします。

水はだれのものか

 温暖化で水不足になるという問題を最初に触れましたが、問題は誰にとって水不足になるのかです。気温が上がれば海面からの蒸発量は増えて地球全体では降水量は増えるはずです。しかし、地域による降水量の偏り、季節的な変動はいつでもあります。

 乾燥地帯はもともと蒸発量よりも降水量がずっと少ない地域ですが、沙漠のような乾燥地帯でも深い地下の帯水層があれば僅かずつでも地表からの蒸発があります。温暖化すると蒸発量がさらに増えて一層乾燥がひどくなるということでしょうか。

 サハラ砂漠の地価の帯水層は1万年以上前の降水が蓄えられているものだと言われていますが、それがリビアなどで大量に汲み上げられて灌漑に使われており、地下水面は急速に低下しつつあるということです。

 同様の持続不可能な地下水汲み上げは現在世界の各地で進められ、深い地下の帯水層で地下水資源が急速に減少していますが、このような化石帯水層の地下水資源は本来は「未来の子孫からの預かりもの」と考えることが人類の智慧なのではないでしょうか。
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「水は心にもいいんだよ・・・・」

「沙漠がきれいなのは」と王子さまは言った、「どこかに井戸を一つ隠しているからだよ」

−『星の王子さま』−サンテグジュペリ(池澤夏樹訳)


 
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