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連載 「水とはなあに?」
〜生命と環境の関わりで考える〜 C
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馬場 浩太 (広島修道大学名誉教授)
2007年 4月 第72号 |
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地球上に存在している水の姿
前回は水をミクロな眼で見る視点から、水の分子同士の結びつき合いや、水の分子と他の物質の原子・分子との関係性を通して、水の表面張力や他の物質との親和性などいろいろな性質を考えましたが、水の気化熱が大きいことや沸点温度が高いなど熱に関わる性質については話が残りました。
しかし、今回は話を先へ進めて私たちが普通に手に触れ眼で見る水が地球上を流れて循環している姿を見直しながら、私たちの生活との関わり合いをあらためて考えてみましょう。
図11で示されるように地球上に存在する水の総量は約14億立方キロメートルと推定されています。その大部分97.4%は海水として地球の表面積の7割にあたる海に存在しており塩分を溶かしています。
残りの2.6%の水は表面積が3割の陸に存在して陸水と呼ばれますが、その中の大きな部分は氷河として限られた地域で殆ど移動していない淡水の氷と、地中に隠れた帯水層に保持される形でゆっくりと流れる地下水です。
その他の全体の0.022%にあたるのが地表水と大気中に存在する天水です。地表水の大半である湖沼水と土壌水の中、湖沼水の半分は塩水です。私たちが最も身近に利用を依存しているのは地表を流れる淡水である河川水ですが、その河川水として存在する水の量は全体のわずか0.0001%でしかありません。
また、動植物の体内に保持されている水は河川水の量と同じ程度の0.0001%で、大気中に水蒸気・雲などとして存在している天水の量は全体のほぼ0.001%にあたっています。
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水の存在量と滞留時間−循環量=流れの量が大切−
大気中に存在する天水の量は図11により1.3万立方キロメートルですが、これは地球表面全体で25ミリメートルの雨量に相当することになります。これは1年間の総雨量からすると10日間の雨量に当っています。
表1で水蒸気の滞留時間が10日となっているのはこのことを表しています。つまり海面や湖沼、河川、また樹木の葉から蒸発散した水蒸気は、大気中に10日間滞留しながらまた海や陸に降り注ぐという循環のサイクルを1年に40回も繰り返しているということになります。
大気中の水の存在量だけを見ると地球上に存在する水の総量の僅か0.0001%でしかありませんが、滞留時間10日という速い入れ替わりによって年間48.3万立方キロメートルという循環量に注目することが大切でしょう。
海陸からの大気中への蒸発散と降水の収支は、単位面積からの蒸発量では海面の方が陸地より2倍多いので両者の間で差があり、海面では蒸発の方が多く、陸地では降水の方が多くなっていて、その分だけ河川水が海へ注がれている訳です。
河川を流れている水は降った雨が地表から直接に流れ込む量は少なく、大部分は一旦は土壌に滲み込んだ土壌水や地下水からの流入ですから、土壌・岩石からの塩分・養分を溶かしこんで海に運びます。そのために海水は塩分を蓄積し、ありとあらゆる元素を溶かしこんでいるのです。
海面から水蒸気が蒸発・気化するときは気化熱を運ぶとともに、塩分の溶け込んだ海水から水蒸気の形で純粋な水の流れを再生循環させています。この水循環の流れこそが地球上の生命活動の流れを支えてくれる大切なものであることは言う必要もないでしょう。
表1で海水の滞留時間3200年という数字は、循環量41.8万立方キロメートルつまり海面からの蒸発量(支)ないし降水量+河川からの流入量(収)で出入りが続けば海の全体で何年で入れ替わるだろうかというものです。
しかし、この出入りの話だけでは海水の全体が深層まで入れ替わっているということには必ずしもなりません。図12が示しているのは、北大西洋に低温で塩分濃度の濃い海水が沈みこむことによって駆動される深層海流が表層へ循環するコンベアベルトの説明です。この循環は1000年〜2000年かけて回っており、世界の気候の安定や変動にも影響を与えていると考えられています。
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速い流れと遅い流れ −水の貯留と流の調節−
一口に水が流れて循環するといっても、表1で見られるように水自体の姿や周りとの条件により速い流れとゆっくりとした流れがあります。水蒸気が大気中で10日間の滞留で入れ替わる速い流れの循環は、重力と風の影響の中での自由な動きです。河川水の流れは滞留時間が13日という速い循環ですが、河川の水も岩や砂・泥の河床の上を重力に従って流れ下る比較的に単純な表面流です。
次に土壌水と地下水については滞留時間はそれぞれ、0.3年と830年となっていますが、図11の本によるとそれぞれ320日ほど、600年ほどとなっています。河川水の滞留時間についても26日となっており、このような数値については、地域によって多様複雑なことを単純化したもので、この程度のオーダー(桁)の話という受け取り方をしておくのが正解でしょう。
地面に降った雨は地中に滲み込み、しばらく土壌を潤して再び地表を通して大気中へ蒸発する流れと、一方で地下に深く浸透していく流れもあります。土壌水というのは地表面から地下水面に達するまでの間にある土壌の大中小の隙間(孔隙)にしみこんで滞留している水のことです。
土壌の孔隙というのは土壌の粒子、砂や粘土が結合してできた団粒構造の間の隙間のことです。大きい孔隙は水が重力により下へ浸透するのに役立ち、ミクロン程度の小さな孔隙は重力よりも毛管現象で緩やかに水を浸透させて貯留させる役目をします。
多孔質の物質は孔のもつ総内面積が大きいことで、活性炭の例のように吸着力が大きいのですが、水が多くのものに滲み込み易いという性質についてもここであらためて注目しておくことには意味があると思います。
ここで見たように土壌水は川の上流で大雨が降ってもすぐに下流の水位が上がらず、干天が続いても川の流れが涸れないような、流の急激な変化を緩やかにする役目を果たしているのです。
水源涵養林では林内が明るく下草が生えているような健全な森林であることが大切だといわれるのは、まず降った雨が土壌に滲み込んで貯留されることから機能が始まるからです。
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地下水とは
先に「土壌水というのは地表面から地下水に達するまでの間にある…」と書きましたが、地表の降水が土壌中を浸透して下に落ちてきて、地層中の砂礫や多孔質の層に行き当ると、水はその層の中で動きやすく、その下の層が粘土質などの水を通しにくい不透層であれば、水はその層の隙間を満たして溜まるか低い方へ流れることができます。このような層を帯水層といいます。地下水面というのは帯水層まで井戸を掘った時に水が溜まっている水面です。
一般に地層中にはこのように水を通しにくい不透層の間に大小の帯水層が挟まれている構造があって、深さ数十メートルから、数百メートル、それ以上まで、由来も色々な帯水層があり、井戸を掘って水が利用されています。
帯水層の中で地下水の流れる速度が非常に遅いことは滞留時間が長いことから解りますが、年に数cm〜数百mとされています。
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湧水はなぜおいしい
各地で名水といわれる水の多くは湧水・地下水だということです。特別に有名でなくても、山道を歩いて出会った湧水を飲んだときのおいしさは何ともいえないものです。湧水・泉は山や丘陵のふもとなどの地表に帯水層が顔を出しているところで湧きだしている地下水です。
上で見てきたように地下水は山で地表に降った雨が腐食質などをとおして土壌にしみ込んで無数の細かい隙間をゆっくりと時間をかけて通りながら浸透する過程で、水に含まれていた不純物の有機物は土壌中の小動物・微生物がすべて食べて分解し、その他の不純物もろ過されてきれいな水になって帯水槽まで到達します。
また帯水層の中でもゆっくりと流れながら鉱物中のミネラルが溶け込むのです。市販されているミネラルウォーターは日本やヨーロッパのきれいな山の湧水を採取したものだとされています。
年の上水道の水もかつては湧水や地下水を水源としていたところが多く、その地域の水道水はおいしいと知られていました。
水道水のおいしさ・まずさを決めるもう一つの要因は浄水の方法です。かつては浄水池では緩速ろ過法が普通でした(図12)。東京では現在新宿副都心になっている一帯はかつて広大な淀橋浄水場でした。緩速ろ過法は基本的に生物のはたらきを利用するもので、藻などの植物・微小動物、好気性および嫌気性微生物が全て処理できるゆっくりな速度で水が流れて砂の層でろ過されます。
しかし、緩速ろ過法では滞留時間が長くなり、広い面積が必要であるために現在では化学薬品で強制的に凝集・沈殿させて塩素消毒を加える急速ろ過法が一般的になってしまっています。
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