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連載 海 中 展 望 |
川上 清 |
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2.えちぜんくらげ |
2007年 7月 第75号 |
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◇◇神話の怪物は甦る?××
前回の初めに触れた怪物の話にもう一度帰るが、ペルセウスに斬首されて果てたメドゥーサの頭はアテネに贈られ、肩の切れ口から天馬ペガサスが生まれ、後に天に翔昇ってペガサス座になったと言われ、ローマ時代には不死のシンボルでもあった。また、海と地震の神ポセイドンはペガサスの父親だったようで、アテナに贈られたメドゥーサの頭はポセイドンに返され、その蛇髪の頭はやがて生き返り、そのポリプは無性生殖を続け現代にいたっている・・と想像をたくましくして新ギリシヤ神話を作ってもまるで虚構ではないと思えるではないか。いつの日か、胴体のペガサスと頭のえちぜんくらげが合体して蛇髪を振り乱したメドゥーサが甦るかも知れない。その時、大神ゼウスの頭から生まれたというギリシヤ神話最大の女神アテナはどんな顔をするであろうか・・
アテナはオリンポス十二神の一つで、アテネの守護神。知恵と戦争、技術工芸を司り、戦時には勝利の女神と共に軍を率いてオデュセウスやペルセウスなどの英雄を守り援け、平時には人々の技術や工芸などを教えた。ローマ神話のミネルパと同じ女神で伝説や逸話も多く残されている。アテナと親交の厚かったポセイドン、白馬にまたがり三叉の戟を持ったポセイドンが海の神であったことも、何か皮肉な因縁で結ばれていたとしか言いようがない。ある夜、夢枕に立った大神ゼウスは「メドゥーサは甦り『核』に化身したーー」
最近まで日本列島周辺のみ浮遊していたものが、有明海、瀬戸内海に姿を見せ始め、さらに虎視眈々と日本各地に狙いを定め、隙あらば忍び込もうとしているような気がしてならない。
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▼鯛やズワイガニのえさ▼
仄聞するところでは、えちぜんくらげの語源になっている越前福井県の人たちは、悪玉くらげの親玉のような奴に「えちぜん」と冠することに強く反撥し、「巨大くらげ」とネーミングを変更してくれと真摯に訴えていると聞く。考えてみると当然の理で、昔から大岡越前守などの名称は誇り高い県民性を象徴したもので、悪徳商人のシンボル「越後屋」と一緒にされたくないのだろう。「ずわいがに」の中でも美味このうえない「えちぜんがに」に冠した越前は福井県民当然の要望としているわけだ。果たして訴えはどうなるか。
少し余談となったが最初からボロクソに言い続けてきた「メドゥーサクラゲ」にも、ほんのちょっぴりだが人間様のお役に立つことがあるのも書かねばなるまい。彼女らの通り道で最初に流れ寄る「日本領土の対馬」ではかなり以前から漁師の間で「鯛はえ縄漁」のえさに使っているという。5〜6月、径30~40pの傘の部分を細かく刻んで鉤にさして流すと、かなりの大物をゲット出来るそうである。おそらく日本海沿岸部各地域の漁師たちの間でも、同じ漁法で大鯛と相まみえているのではないかと推測している。また、えちぜんくらげが大発生し始めた平成7年頃から、島根県沖などで「ずわいがに」の稚蟹が増え始め、漁獲量も11年頃から増加しているとの調査結果が出ているそうである。これは成長期間が5年から10年であることを考えると、えちぜんくらげの大発生が稚蟹の増殖に寄与している可能性が大であると「環・太田川」誌に『海から陸を眺めれば』を寄稿された、京都大学舞鶴水産実験所の上野正博先生の研究チームがその研究結果を発表されている。
同じように、兵庫県但馬水産技術センターでは平成17年秋、「ずわいがに」が実際に「えちぜんくらげ」を餌にして食べることを実証。同センターの大谷徹也主任研究員も「他のえさなどの環境条件や自然保護の影響があるので一概には言えないが・・」と、兵庫県沖の日本海で稚蟹が増殖していることを示唆されている。
一方、同じ兵庫県の機船底曳網漁協会ではえちぜんくらげを排出する底曳網を開発している。網にゴムチューブの窓をつけた「ゴムスリット網」で、くらげが網の入り口付近にぶつかり後網の奥に向かう性質に注目、網の入口付近に排出口をつくり、その周囲にゴムチューブを取り付けたものである。従来の網ではせっかく捕らえた魚介類の多くも外に逃げていたが、新開発の網では魚介類への影響はほとんどないと実証されている。蟹漁での効果は未知数だが、多くの漁業者に使ってもらうため特許申請はしてすることと大である。
最近「もったいない」というワンフレーズが世界語となって広がっている。この「もったいない」精神は、厄介この上ないえちぜんくらげを何とか有効に利用できないかと、えちぜんくらげの肥料化プロジェクトを立ち上げ、その研究に愛媛大学が地元企業と共同で実験を重ね、かなり実用化に近づいているという。えちぜんくらげには「リン酸」などの成分も含まれており、水分を抜いて乾燥させ細かく砕くことで肥料として生かすことができ、保水力が高いことから雨水を含んで植物に潤いを与え、その後栄養分が無駄なく作用するという二段構えで効果が期待できる。
ブナ科の「アラカシ」の苗に与えて育成状況を比べた結果、くらげを蒔いた鉢では15センチを超えるまでに成長したが、そうでない鉢では10センチに満たなかったという。4〜5年以内の製品化を視野に入れているそうであるが、ゆくゆくはその高い保水力を活かしてアフリカなど砂漠化が進む地域で活用したいと江崎教授は意欲満々、鼻息は荒い。
但し、東京農大の牛久保教授は「日本の農業は化学肥料に頼る面が大きく、有機肥料消費がなかなか進まない。頑張って作っても使ってもらえなければゴミになってしまい、それこそ「もったいない」話。今後はどう消費していくか議論と研究を進めるべきだ」と、やんわり一本くぎを刺しておられる。
どちらにせよ、中国の近代化にともなう沿岸域の水質富栄養化で常態化しているえちぜんくらげの大発生は年に数百億体レベルに達しており、この想像を絶する数値は漁業者にとって肥料化ぐらいでは解決できない未曾有の災難であることに変わりない。これらの「越境汚染」は中国の100%責任といって過言ではない。
中国政府は環境基準や法整備を進めてはいるが、生産現場の環境意識は極めて薄く、知益追求まっしぐらで、如何ともしがたい現実は厄介な隣人の身勝手のツケを払わされている我々の上に重くのしかかっている。
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**では食い尽くしてやろう!
いかの塩辛のような色をしている此奴、コラーゲンをたっぷり持っているので、美容と健康には頗る良いと言われているのだが、刻んで鯛の餌にすると言ってもかなりの水分、おそらく90%以上含んでいるのをどのようにして可能になるまでに水分を抜くかが大問題である。対馬生まれの友人に訊いても、対馬では漁師をはじめとして自分で処理して、食ったことはないと、取り付く島もない。高級魚がふんだんに取れる此の島で、あのグロテスクな奴にまで手を出すことはないと仰るのも、もっともなことだと思う。
しかし、この水抜きは案外簡単なのである。昔から塩とミョウバンでしばらく漬け込んで水を抜き、それを細かく刻んで「刻み塩くらげ」にする手法が伝えられている。格好の保存食品であるが、料理するためには塩抜きをしなくてはならない。大量の水に約3〜40分漬け込んだ後、ぬるま湯に移して、もみ洗いする。
これで用意万端ととのったことになるのだが、近頃の若い奥様方にはちょっと向かない代物かも知れない。
料理はほとんど前菜か酒のお供で、メインディッシュとして中央に「でえん」と置かれているものはない。面白いのは大方に胡瓜が入っていることで、酢の物でも、炒め物でも不思議と青味として付き合わされる。
一般的には胡瓜、若布、竹の子など季節物と混ぜ、三杯酢で調味するが、むき海老、胡瓜、トマトとマヨネーズドレッシング(マヨネーズ100グラム、練乳大匙1、レモン汁大匙4分の1、砂糖10グラム、塩少々)で和える洋風だが、その他和風、中国料理法など次回に述べよう。
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