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●細見谷・大規模林道 |
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細見谷林道問題・監査請求へ
〜細見谷保全ネットワーク 金井塚務代表に聞く〜 |
2008年10月 第90号 |
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9月27日の中国新聞の報道によると、緑資源機構の幹線林道計画を広島県事業で継続するかどうかについて県は、判断時期を来年2月頃(当初は9月末)に先延ばしすることを明らかにしました。これは県農林水産局の冨永嘉文局長が新聞取材に応えて「来年度予算の編成時を目途に方向を出したい」と説明したもので、外部有識者の意見を聞くかどうかは「未定」と言うことです。これより先に「大規模林道問題全国ネットワーク」は6日に開いた広島集会で採択したアピールを基に要望書を県に提出しています。今、問題は大きな転機を向えています。これから、どのように運動を展開するのか? 細見谷保全ネットワークの金井塚務代表にお話をうかがいました。(取材・岩本、篠原) |
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「判断を2月に先送りした県の姿勢をどのように考えますか?」
判断資料もない!
8日に県に提出した要望書は、県が事業の継続可否を判断するに当って客観的、公正な環境アセスメントを改めて実施することと、厳正で客観的な費用対効果の再検討を行うことを求めています。この時点では、9月末までに判断するということでしたので、判断材料になる資料はどのようなものがあるのかを訊ねました。ところが担当課長は「資料はあちこちにあってまとめていない。リストも作っていない」というのです。
林野庁は、費用対効果を計算する基となる資料を廃棄しているのだから広島県は独自にその基礎資料を集めなければならいのですが、そうした作業の形跡もありません。環境アセスも実施しているわけではありません。どうも県は、事業継続を判断するための資料もなく、立ち往生している状態だったのではないかと思います。
また、26日の県議会でも民主県政会の芝清議員の質問に農林水産局長は「3市2町5区間の緑資源幹線林道事業については、地元の強い要望はあるが、しかし、広島県の厳しい財政事情を踏まえ、検討していきたい」と述べています。「検討していきたい」ということは、将来の話で、現在は検討していない(検討不能)ということだと思います。
来年2月までにそれを やろうというのか?
それよりも何よりも、これまでの各方面からの膨大な意見書や関連資料を精査してみれば事業継続などできるはずがないのは明白です。それと、最も優先しなければならないのは、すでに供用されている部分の実績の検証です。
また、農林水産局長のいう「地元の強い要望」とは、9月8日に廿日市市へ申し入れをした際、担当の参事は、6月頃、県から「廿日市市としてはどうしますか?」と電話で問い合わせがあり「よろしくお願いします」と答えたそうですが、その程度の要望に過ぎません。廿日市市でももちろん、検証や資料収集はしておらず、合併時の約束だけが推進の根拠となっています。自治体が何の調査も客観的資料に基づく検討もしていないような事業が「強い要望」となって、税金が無駄遣いされ、かけがえの無い細見谷の自然が反故にされる現状を放置するわけにはいきません。
「今回廿日市市の行政監査委員会に監査請求をだしたということですが、その内容はどういうものですか?」
受益者負担を市が肩代わり
緑資源機構の幹線林道計画の戸河内〜吉和区間で廿日市市の管掌する部分は、国有林と西山林業組合の山林なのですが、西山林業組合は、林道が敷設されることによる受益者負担の応分の金額を国に支払うことになっています。
その平成19年度の支払い額は、211万9458円です。この本来、西山林業が支払うべきものを、廿日市市が実際上、肩代わりをして支払っているのです。
書類上は西山林業が緑資源機構に支払い、その金額を廿日市市が西山林業に助成金を出すという形になっているのですが、それは、違法な支出ではないか、ということで市長に対して損害賠償を請求しているのです。
細かく言うと、これは地方自治法第23条の2項の寄付、補助に該当しますが、問題はそれが公益性を持つかどうかです。私達は「公益性を持たない。なぜならば、吉和には既に186号線、中国自動車道、県道296号線が通じているからこれ以上道を作る必要はない。まして、細見谷渓畔林という有用な生物多様性を保全している所を破壊するような工事を税金を使って行うことは、著しく公益性に反することで、廿日市市住民にとってなんら公益性はない道路である」と主張しています。
幹線林道計画の戸河内〜吉和区間で、西山林業は受益者負担分総額の5%を支払うことになっており、その総額は5456万9500円とされています。これを、1994(平成4)年に工事着工、5年間据え置きで20年償還で支払うのですが、着工から据え置き期間を経た、1998(平成8)年から当時の吉和村が支払いを肩代わりし、合併によって廿日市市が引き継いで支出をしているものです。監査請求は1年に限っての請求ということなので、去年の支出分の監査を請求しています。
受益がないのに負担金とは?
なぜ西山林業は負担金を払わないかといえば、負担金が受益を上回っていると言うことです。林道を作って本当に受益があり、負担金が受益額を下回っていれば、西山林業も支払うのに何の不都合もないはずです。実際には受益がないのに受益金額を計上する。そこに幹線林道の費用対便益が関係している。つまり受益がないと便益が出てこない。工事費に対して便益が出なければ、費用対効果の係数が1.0を割ることになってしまうからどうしても受益額を高く見積もるわけです。
林道を作ることでどれだけ経費が節減できるかということで計算するのですが、木材価格は低迷しているし、実際には手入れもしていない森林だから立木が売れるわけはない。伐っても赤字が出る所に、無理やり黒字を作るから、西山林業としてはもし補助がなければ、そんなの迷惑だからはやめろということになるわけです。それを行政が肩代わりすることで逆に推進要請をだしているのです。
廿日市市はありもしない受益を、あるかのごとく装って税金を使って工事を続行させる。これは納税者に対する詐欺行為です。
請求棄却なら住民訴訟へ
以上のような理由で行政監査を要求しているのですが、実はこういう監査請求はこれまで通った試しがないのです。私達は通ることを期待していない。むしろ正しく棄却してほしいのです。何故か? 棄却することで住民訴訟ができるんです。棄却されたらすぐ住民訴訟を起こします。これも勝てるとも思っていないのですが、裁判の中で、行政が頑なに拒んできた様々な資料類が公表されるのです。費用対効果の根拠となる計算式など、本当にそうなのかどうかと言うことが明らかになる。それを広く一般市民に伝えていく。市民の中でそんな無駄なことをやってきたのかと言うことになれば、そんなもの造ることはないという世論が盛り上がります。そのことが大切です。実際に裁判で行政が勝ったとしても、実際には工事を続けることはできなくなると思います。廿日市市民の方々に、この住民訴訟の原告になってくださるようお願いをしています。
細見谷の回復を!
これまでを振り返ると、はじめに細見谷渓畔林は壊すなという署名、特別保護区への指定を求める署名、林道建設の是非を問う条例制定の直接請求、そして今度の監査請求、さらに監査請求から住民訴訟ということになってきたわけです。細見谷渓畔林の問題は、道路だけの問題ではなく無条件にここを保全して多様性を回復させることがあらゆる面から要求されています。西中国山地の原生的ストックが奇跡的に残存している地域をいかに保全し、回復させるかということ、渓畔林をとりまく人工林を複層林化して天然林に近い形にもっていって河川生態系を回復させる。そのことで、今問題のツキノワグマも高密度棲息を可能にする。その一方では集落付近のクマを追い上げ、元に戻す。今、西中国山地のクマの生息域は、ドーナツ化して集落周辺にへばりついている状況ですから…。
環境問題をベースに考えよう
この原因はかつての皆伐→拡大造林政策による河川、森林生態系の破壊という背景がある。
もう一つの背景は、集落周辺の雑木林の一次生産を人間が薪炭林、堆肥などに利用していたためにクマやサルなどの野生生物の取り分がなかったのです。しかしその奥にはちゃんと野生生物が生息できる場所を残していた。それが60年代から逆転して、集落周辺の一次生産(植物の生産物)の利用はやめて野生生物の住処にしてしまった。
奥地は工業生産のためにエネルギー、資材などの材料として利用し、自然を破壊してしまった。こういう社会的構造がクマ、イノシシ、サルなど野生生物とのトラブルが発生する大きな要因になっています。その構造を変えない限り解決しないのですが、その中核となるのが細見谷渓畔林に残されている生物ストックなのです。そういう社会構造の変化の中で自然が改変され、非循環型の片寄った利用がなされてきたか、をみつめれば、今日起きている問題の背景は読めるはずで、その解決にはどうすればよいか、と言うことも見えてくると思いますね。
これだけ自然を破壊してきた、社会構造を変えてきた反省に立てば、これからなすべきことは環境問題の重視です。環境問題をベースにすれば、一次産業、農林水産業をどうすべきかが見えてくるし、脱石油社会、生物多様性の持つ意味も非常に大きな価値をもち始めます。
ですから、今は環境問題を意思決定のベースにしてそこから色々な政策立案をしていかないといけない時代になっています。
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