●自然保護運動

貴重な自生種と分かった!

美和のシンボル「サクラソウ」種の保存と盗掘防止へ

北広島町・美和東ふるさと振興協議会事務局長 下杉 孝さんに聞く
 
2006年 6月 第62号


 日本の北海道南部から九州、海外ではアジア北東部の湿った落葉樹林や草地に生育するサクラソウ。5月初旬から初夏にかけて花が咲き、花弁がサクラに似ているのでサクラソウの名がついたそうだが、最近は、生育地の開発や盗掘によって生育地が衰退して、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種U類に指定、広島県でも「絶滅のおそれある野生生物」で危急種になっている。県内では備北と芸北それぞれに2ヶ所あるが、芸北の北広島町枕地区にある群生地は他のものと違って、この地域、独自に自生した種類であることが筑波大学の本城正憲さんらの遺伝子調査でわかり、この貴重な自生種のサクラソウをどのように守っていくか、地元では色々な意見が交わされている。地元旧芸北町に美和東地区ふるさと振興協議会の下杉孝事務局長をお訪ねしてお話を聞いた。 (取材・篠原一郎)
 

 「こちら芸北ではこれまでもサクラソウを町の特産としてアピールしてきたそうですね」
 

 2ヶ所の群生地

 旧芸北町では八幡地区と枕地区の2ヶ所にサクラソウの群生地があります。八幡地区のものは児玉集(あつむ)さんという方が自分の庭で栽培されており、そのもとは木束原というところで自生していたものを30年前ごろ移植して増やしたものです。

 もうひとつの私の家の近くにある枕地区の群生地は、これも30年前ごろ川沿いの湿地に10aぐらいの広さで群生しているのを見つけていたのですが、これが後に道路の拡張筋になるというので、町に頼んで保護する為の作を作ってもらったんです。

 当時はその存在を「人には言いんさんなよ」といって秘密にしとったんですが、やはり採っていく人があってなくなるんですね。それで立て看板をしたりしてきたんですが…。また環境も変わって多少日陰になったので、今は当初よりかなり少なくなっています。
 

 サクラソウの里づくり


 そんなことも背景になって旧芸北町では、平成8年から植物バイオ研究室を作って、俵崎崇樹さんという専門の研究員が、児玉さんの株から組織培養して沢山の苗をつくる研究をしたのです。そして実際に、苗を増やして観光客に苗を売ることも始めたのです。

 そんな中で私の地区では4年前、農水省の田園空間整備事業取り入れて、地域の自然・文化をそのまま博物館にするという目的で、美和東小学校が廃校になってその後を美和東地区の集会所に整備するのに合わせて、地域のシンボルとして「サクラソウの里づくり」に取り組むことになり、組織培養した苗を5a程の休耕田に1000株くらい植えたのです。また、自生地の方も草刈りなどして保護してきたんですが、当初は各家でも沢山植えて、この地区ではどこへ行ってもサクラソウが見られるようにというようなことを考えていたのですが…。
 

 「そこで、平成15年から行っていた本城さんらの調査の結果が去年、発表になってこの枕のサクラソウは他の地区のものとは違う独自の自生種で貴重なものだということが分かった訳ですね。」

 高い自生種の可能性

 そうなんです。本城さんは全国で80ヶ所のサクラソウの遺伝子を分析した結果、芸北の木束原に由来する八幡の児玉さんのサクラソウのDNAは、埼玉県の野生集団や鳥取県の日南町の民家で栽培されているもの(野生種から増殖)と同じDNAであることが分かったのだそうです。


 そして、枕の群生地のサクラソウのDNAは、八幡のものとも他の地域、広島県の東部、備北地区のサクラソウとも違っていて、枕地区本来の自生種である可能性が高いということなのです。目で見ても、八幡のサクラソウと枕のものは、はっきり違います(写真参照)。また、枕の自生地でも、少しずつ違った形のものが14〜20種類あります。これは自生地の中で交配してできたものと思われています。

 サクラソウは江戸時代に観賞用として庭に植えられ、人の手によって庭に植えられ、人の手によって移動することもあるということです。児玉さんの栽培種は元は木束原にあったもの。そこで考えられることは、木束原は昔の「たたら製鉄」の跡があり、「たたら製鉄」に従事する人々が、他の地区から移植したものではないか、ということが推測されています。
 
 枕地区種の分離が必要

 そこで本城さんたちのご意見では、芸北町ではサクラソウ群生地の保全に当たっては、枕地区のサクラソウは他の地区と分けて管理保全する必要があるということなのです。サクラソウは、トラマルハナバチという蜂によって自然交配するといわれています。現在の枕の自生地は「サクラソウの里づくり」で造成した栽培地から2キロほど離れていますが、この程度の距離で大丈夫なのかどうかはまだはっきりしていません。

 専門家の中には、慎重に自生地の保護を第一にして「名誉ある撤退」を言われる方もいますが、4年近く育ててようやく花が見られるようになったのに撤収するのには抵抗もあります。交配の危険がなければ、自生地の保護と両方やっていきたいです。
 
 家での栽培を自主規制

 以前はどこの家に行ってもサクラソウがある地域にしようということでしたが、今は自生地を守るために各家で栽培するのはやめて、自主規制するようにお願いをしています。また、貴重な種類であることが分かったのは地元として大変うれしいことですが、ここで心配なのは、貴重であることから盗掘が増えるのではないかということです。

 増殖した苗を売ることも、「欲しい人には分けてあげます」といって盗掘を予防する手立てでもあったのですが、増殖するにも交配の心配のない離れた所で栽培する必要がありますし、町が合併してからはバイオの増殖はやっていません。現在はバイオ増殖したものを株分けして、苗を育てている人が4人ほど売っていますが…。
 
 自生地を公開して管理

 いずれにしても、地区のシンボルとして考えて進めてきたことを、今後どのように自生地の保護と調整しながら考えていくか?まだ色々な意見がだされて議論しているところです。今でも、盗掘を防ぐために、自生地は知らせない方がよいという意見もありますが、全体としては公開して管理をしながら守っていこうという方向に転換しています。看板も立てて、案内して説明する人もつけてということも考えますが、丁度花が咲く時期が田植えとぶつかるので、地元ではそういう体制を作るのには困難もあります。
 
 町の天然記念物に指定を

 ともかく、ここにしかない貴重な自生種ですから、当面北広島町の文化財保護審議会にお願いして、町の天然記念物に指定してもらおうと話しているところです。そうすれば、町条例によって保護されますし、盗掘にも罰則が加わります。今後とも貴重な自然資源を地元で守る責任を果たしていきたいと思っています。
 

「有難うございました。どうぞこれからもがんばってください」

参考HP:美和東文化センター
 
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