はじめに
この数年だけをとっても、気象変動が激しくなる傾向を体感しています。大雪が降った翌年に猛暑となったり、河川もひどく水涸れしたと思えば、局所的な大雨で洪水が頻繁に起きています、確実に温暖化は進んでいるので、川の水温は上昇し、極端な流量変化が繰り返され、生物相は人きく変わって行くでしょう。不安定な環境では、海から遡上してくる通し回遊性の生物が優勢となって来るはずです。
水産生物は変温生物ですので、環境温度の影響を強く受けます。研究や技術開発もスピードを上げないと、成果を現場に適用する頃には、すでに現場は違う局面になっているケースが増えるでしょう。
近自然工法が広く認識されるようになり、そのような工法が普通になってきたのに、一方で公共工事予算の縮減で予算獲得は難しくなりました。おまけに、今後は、洪水発生の碓率が鳥まるので、治水対策や災害復旧で予算が優先的に使われるようになるでしょう。そうすると、生物を保全し増殖させるために必要な工事は、工法として費用対効果に優れた安価なものが必要で、さらに言えば、私たち自身で施工できるなら、こんな安上がりなことはありません。魚道にしても、1ヵ所のみに予算を贅沢に注ぎ込んで立派な物を作るよりも、予算を小分けして流域の各所で応急の修復を行い、とりあえず海と川をとりあえずつないだ方が、生態系の保全や復元には役立ちます。
水辺の小わざ
「水辺の小わざ」とは、流域全体の生態系をより豊かにするために、川の中のいろいろな生きものの一生や川全体の特性を把握し、小規模でありながらもその水辺にふさわしい効率的な改善策を様々な視点で工夫する山口独自の取り組みをいいます。
予算が無い中で体裁を気にしてると処置が遅れ、どんどん川から生物が減ってしまいます、そこで、山口県上木建築部では、水辺の小わざの普及を促すために「水辺の小わざプロジェクト|を立ち上げました。水産増殖の専門家である演者をリーダーとし、水産大学校、山口大学工学部、山口県内水面漁連の他に、山口県農林水産部、環境生活部、土木建築部、さらに山口県環境保健研究センター、同水産研究センター、同建設技術センターからも、皆の川ガキたち(今も一部は成長せずに川ガキのまま)が集いました。分担を決めて情報を集め1年目に素原稿で簡単に製本し、さらに1年かけて不足のデータを補い、平成19年3月に最終成果を「水辺の小わざ」として出版しました 県土木技術者全員と漁協には無償で配布されています。高校生が理解できる程度の内容で、教えすぎないように配慮しました。レイアウト・印刷を請け負った担当者も川ガキだったので力が入り、フルカラーの大変読みやすいガイドブックになり、各方面からのご要望により販売もすることになり、お陰様で初版は売り切れ、現在、二版が出回っています。
演者はこの本の後書きに『川の中の工作物を調査していると、生物の分布や生態を知らずに施工されたと思われる事例がいくつもあって、私たち生物学者が、現場への研究成果の発信を怠っていた責任を痛感させられました』と記しました。うまく河川改修が行われなかった原因を施工担当者になすりつけるのではなく、その担当者に生物や環境や漁業の情報を伝える努力を怠ってきた自分たちにも責任があるとの意識を持つことで、本書は、熱い厚い本になりました、魚種毎に施工時の注意が書かれた生態図鑑であり、川毎の水質の経年変化が掲載されており、土木・水産
・環境関係の基本用語の説明や簡単な生物調査方法も学べます。そして、小わざを使って保全あるいは復元しうる生態系を河川流域別に図示しています。(この部分は独立行政法人水産大学校と山口県十木建築部との官学共同研究の成果)。こうした情報を広く共有することで川を良くするテンポを速めたいとの願いが込められています。
すでに演者自身、「水辺の小わざ」を手にして、現場で『ここにはこのような生物がいます。このような工法事例があります』と説明する機会が何度もあり、大変便利に使っています。
新たな発想でチャレンジ
「水辺の小わざ」の工法事例には、水際の草を刈るときに管理道路側だけを刈って水際は刈らずに残した事例や、ヒューム竹を据え付けるときには口径の大きいものを使って常に中にプールができるようにした事例などが紹介されています。それらは「水辺の小わざ」をご覧になってください。この資料では演者自身が技術開発を行ったり試したことのある事例を紹介しますが、その中には演者が魚道や河川工学の専門家では無いゆえに、河川土木工事には珍しい素材(廃棄漁具や金属)を使ったものがあります。しかしそれは、私たちが自分で魚道の設置や改修を行うことを可能にする素材でもあります。
水辺の小わざ魚道
ここ数年、山口県の生物に適した安価な魚道を、県の土木技術者と検討して来ました。その結果、中小河川であれば、連統した水際線を大切にすることで、多様な生物が遡上できる魚道を天然石を使って安価に作れることがわかりました。「水辺の小わざ」の理念にも一致していますので、そのまま魚道名にしました。
堰堤の天端のレベルよりちょっとだけ下げて下流側に1m四方の減勢プールを突き出し、そこから1/5(可能であれば1/7にしたい)の斜面を作り、現場で1日だけ関係者らが協働して、完成後の水の流れをイメージしながら。2つあるいは3つの小水路を作りますが、それは粗石の問に小さな石を埋めて階段式プールでつないだ水路です、「みんなで責任を担う」との意識で作業をすることは、閥題解決には重要なステップです。
また、堰堤の天端周囲で剥離流が生じないようにハツリを入れるなど、各所に小さな工夫がしてあります。完成後に水を流した後、もう 一度水を止め、ハツリとモルタルで流れを修正したこともありました。埋めた石を跳ばしたり、石を埋め足して修正しても良いでしょう。どんな魚道でも1回の工事でうまくやるのは無理で、工事後に調整できるようにする工夫が必要だと思います。
この魚道は、既設魚道の改修にも応用されています。
木杭ウェツジダム
平坦な河床に木杭を埋設して川自身に瀬淵を作らせるためのウェッジダムが、各地で施工されています。ダムといっても、河川を横断するように木杭を「八」の字型に設置するだけのもので、落差は小さく、生物の往来を妨げることはありません、増水で斜めになったり抜けてしまう杭もありましたが、それはそれで流れに変化をもたらし、悪いものではありません。この方法を使えば、橋の下など、川面に影を落とせる所に、ピンポイントで淵を作ることができそうです。鋼製杭を何本か打ちこんで竹をわたしても良いのではないかと思います。
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