イシガメ(ニホンイシガメ)は本州・四国・九州・隠岐・壱岐・五島列島に分布する日本列島固有種です。数十年前は野外でも最もよく見かけるカメでしたが、2004年には広島県の準絶滅危惧種に指定されるほど、個体数が減少してきました。お隣の山口県萩市見島では日本列島成因の「生き証人」として国の天然記念物に指定されていますが、1997年の調査では指定地の「片くの池」では一個体も確認できていません。
雌がやや大きく、甲羅長は10〜20cm、背甲は黄褐色、腹甲は黒色ですが、大きな個体には藻類が着生し、緑褐色になっているので、擦ってみないと本当の色は解りません。また、背甲の後端がギザギザになっているのも特徴です。イシガメによく似たクサガメは後端が直線的で丸く、明瞭に区別できますが、太田川水系では「かめ」で総称され、区別されていません。ただ、イシガメの幼体は甲羅が丸いので「銭亀」の名称で販売されていましたが、個体数の減少とともにクサガメの幼体を「銭亀」の名称で販売するようになりました。もともとクサガメの和名は「臭亀」からつけられたもので、腋下腺や鼠蹊腺から臭いにおいを出すことから「銭亀」として販売はしていませんでした。しかし、爬虫類のペットブームに乗じて、クサガメの幼体を「金線亀」という名称で販売しているので、現在の両種の生息域(分布域)は、まったくあてになりません。
河川の中・上流域を主な生息域としていますが、前述したように人為的攪乱もあり、太田川水系では全流域に生息しています。雌は6〜7月頃、ナツメ大の卵を川土手や畦などの日当たりのよい場所に数個産みます。温度によって異なりますが、約50〜60日で孵化し、甲羅長4cmの銭亀となります。しかし、近年の河川改修により、川土手がコンクリート化され、産卵する場所がなくなってきています。北広島町では河川から100メートルも離れたビニールハウスの中に産卵した例があるほど、棲息環境は悪化するばかりです。また、帰化動物のミシシッピーアカミミガメ(通称ミドリガメ)がペットとして移入されたため、イシガメの生息域はますます少なくなっています。
「鶴は千年 亀は万年」 長寿のシンボルとして珍重してきた両種ですが、いずれも人間が良かれとして行った「河川改修」「基盤整備」「干拓」「植林」が、生物の存続を危ぶむことになってしまったことを知っておかねばなりません。
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