江の川・夏・散歩  2008年 8月 第88号
牧江 由太

 
 三次盆地の夏は暑い。7月には最高気温が35度以上の猛暑日が5日、30度以上の真夏日が28日にも上ったというから、考えるだけで汗のにおいがよみがえる。というか、8月もずっと暑いんだろうなあ。雨も平年の十数%としか降っていないのだという。梅雨以降雨がほとんど降っていないから農作物は大丈夫なのだろうか。積乱雲は見えるが、夕立すらこない。ひと雨来たら、涼しくなるのにと恨めしい。

 仕事をしていると、暑くて雨の少なさが鬱陶しくもあるが、仕事を離れると話しは別で、太陽がまぶしくきらめく夏がいい。涼を求めるのはやはり、水のある風景なのだ。

 休みの日には、まだ日の高い夕方に、江の川や馬洗川沿いを散歩する。河川敷のグラウンドでは、少年野球の球児たちがボールを追っている。広島カープの永川勝浩投手、梵英心内野手を輩出したチームだけあって、練習にもコーチたちの熱い声が飛ぶ。大柄の子どもはいないが、基本に忠実なプレーでうまい。きびきびとした動きにうれしくなる。外野の先を流れる川まで、ボールを飛ばす子は出てくるのだろうか。高校野球も始まったというのに、僕の所属する草野球チームは、暑い時期には練習、試合をやらない方針。なんだか不完全燃焼のような気がするが、いざプレーすると、まっさきに「あつ〜い。しぬぅ」と文句を言うのも僕である。少年たちのひたむきさを見習わなきゃ。

 川土手を進むと、ネムの花が見えてくる。三次のシンボル的な橋「巴橋」のアーチと赤の競演。以前はそれほど思い入れもなかったが、ここのところ好きな花になった。暑い盛りにシャープに咲いているようで、どことなくはかなさも感じる。川辺や峠道で見かけると、ほっとした気になる。

 さらに進むと、夏に鵜飼いが繰り広げられる馬洗川と西城川の合流点。430年もの歴史を誇る。ベテラン鵜匠さんが扱う鵜は、中国の四川省から贈られた白い鵜も含めて8羽。手縄(たなわ)の長さは全国でも一番長い6・75m。急流に対応するため底が浅く、細長い舟が使われる。見どころたっぷりの三次の鵜飼い。ぜひ一度は味わってもらいたい。

 舟から見るのももちろんいいが、土手や橋から、川面に揺れる提灯を見るのも風情がある。ビールスタンドみたいなのがあれば、夜、涼みがてらに散歩をする人も増えそうだが…。7月に限れば、昨年より200人ほど多い乗船のよう。ここ数年、じり貧状態が続いているので、ぜひぜひ好調をキープしてもらいたい。

 鵜飼いと並ぶ三次の夏の風物詩といえば、「みよし市民納涼花火大会」。7月末の金曜日に開かれた。県下でも最多規模の1万6000発。おそらく昨年までのPL式の数え方なんだろうけど、けっこう三次市民の自慢ではある。盆地全体を見下ろすように上がる大輪はさすがに迫力がある。

 今年も4万8000人もが訪れたという。土手に陣取る家族連れ、カップル、カップル。三次にこんなに若い人が集まるなんて、と感慨ひとしお。「来年も二人一緒においでよ」と、心の中で願ってあげるよ。という僕は、一人で写真を撮りに回っている場合じゃなくて、そろそろ彼女を見つけないとと思うのだが…。

 花火大会の実行委員会は「広島県で一番きれいな花火大会に」を合言葉に、ごみの持ち帰り袋を配っていた。若いスタッフがポリ袋1万枚にメッセージやイラストを一枚一枚手描きしたんだという。毎年、花火大会の翌日には2トントラック2台分ものごみが落ちているんだそうだ。ごみを落としていったあのカップル。さっきの言葉は撤回だ。とはいえ、今年は持ち帰り袋が功を奏したのか、若干ごみの量が減ったそうである。

 花火の前には、中州にステージを組んでミュージシャンTOSHIのコンサートが開かれた。人選には賛否両論があったようだが、しゃれた企画だなと思った。川に多くの人の視線が注がれるのは、ちょっとうれしい。

 夏は、川を満喫できる時期。三次市作木町の江の川カヌー公園さくぎでは、子どもたちがカヌーに興じている。ずいぶんと少なくなったようだが、川で泳ぐ親子連れもいる。将来、三次を巣立っていく子どもたちにとっても、川でも催しは思い出の風景になるんだろうな。僕もこのお盆休みは、古里の河原に行ってみよう。アユのつかみ取りをさせてくれた地域の子ども会。今になって楽しい行事に託した親心が、少し理解できるような気がする。

 
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