酔っ払いでごザル 2008年 6月 第86号


 よく晴れた日曜日、三篠川をクルマで遡上した。

 釣竿は持たないが、良さそうな場所を見つけては、川面を覗きこむ。雨後の川は濁っているが、それでも川に在ること、それ自体が喜びだ。

 やがて、小さな吊橋のたもとに、孫らしき子どもを連れたふたりの男性を見つけ、河原へ降りた。一歳になったばかりという子ザルも、そのパーティの一員である。

 男性たちは、あるいはビールを飲み、あるいは網を自作しながら(鹿角を柄に用いた本格的なもので、そのしっくりくる握りには感動した)、子ども達に釣りを教えている。一見、現代のサンカかと思うような風体の彼らだが、本格的な川の実力を備えた男たちであるのは、すぐに見てとれた。

 この辺りでは、鮎、鰻、ナマズ、スッポンのいいのが獲れるという。先日は、オオサンショウウオがごそごそと出てきたのだそうだ。

鱒はいませんか、とたずねると、「そこの流れ込みには、山女魚かおるよ。でもかわいそうで」獲らんという、その言い方に、川に生きる者の愛情を感じた。

 本流の傍に住んでいる旨を告げると、「サツキ(マス)がおるじやろ。あれを一度釣り上げるのが、男の一生の夢よ」と、はるか遠くのサツキマスを見つめる目をした。

 彼らの愛情を一身に受けて育ったのであろう子ども達は、歓声を上げながらギギ、カワムツといった魚を釣り上げる。時折、「くぉら、サー公!」と、まるで子どもを叱るように上げる声が、川面に響いた。いたずら好きの子ザルのことがかわいくてしかたないらしい。はじめはよそ者の登場に警戒していた子ザルも、かっぱらったビールに酔ったのか、やがて足に飛びついて来るまでになった。

 子どもの一人が「なんでカバン持ってるの?仕事の帰り?」と、私のセカンドバッグを指差す。まるで「この不心得者!」と叱られたような気分で、私は次こそ釣り支度・遊び支度で来ることを誓ったのだった。

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 ハヤカワ文庫から「ドイツでダ・ヴィンチーコードからベストセラー第一位の座を奪った驚異の小説、ついに日本上陸」という触れ込みで発売された『深海Yrr』を読んでいる。

 ノルウェーやカナダ、あるいは世界中の海で起こる異変について、多くの科学者が挑んでゆく設定は興味を惹くし、小説としてもなかなか面白いと思う。(専門家の方の意見をうかがいたいところ)

 もっとも、ここでその話をしたいわけではない。ただクジラが人間を襲いはじめるシーンを読みながら、先日話題になったグリーンピースの事件を思い出しただけだ。

 そう、あの環境団体グリーンピースが「調査捕鯨船からの鯨肉持ち出し疑惑がある」として、四月十六日に西濃運輸の事業所に不法侵入して宅配便を窃盗したとされる事件のことだ。

 グリーンピースは、これを「確保」とし、「私どもによる宅配物の確保は、その物的証拠なくしては不正行為を公表し正すことが非常に困難であると判断したため、他の選択肢がない中やむを得ず行った行為です」(グリーンピースージヤパンHP)と説明している。

 この件の法的な是非については、正直なところ分からない。しかし、少なくともそのやり方が「強引」ないしは「行き過ぎ」という印象を私に与えたことは間違いない。

 環境という大きなテーマのもとで、自身の真実を追究し活動する姿には頭が下がる一方で、自己の信念のためには少々の逸脱は許されるといった風潮が、グリーンピースに環境問題に携わる人間のどこかに芽生え始めているとした

 誰を批判するつもりもないけれども、「善意のおしつけ」はかえって本当に伝えたいことから人を遠ざけてしまうので、心配してしまう。
 
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