情報を吟味する   藤井直紀 2007年 7月 第75号


 「○○をすると地球温暖化防止に役立つ」、「××することは地球を守るためには当然の行為だ」。さて、○○や××が本当に意味ある行為だろうか。「地球温暖化が起きると★★のような現象が起こる」。果たしてそれは正しいのか。皆さんは、新聞やテレビ、周りの人々の言動に左右されることなく、行為の意義や情報の真意についてじっくり考えたことがあるだろうか?

 数か月前になるだろうか。日本テレビ系列(でも関東地方では放映されていない)の日曜日昼に放映されている「たかじんのそこまで言って委員会」に武田邦彦さん(番組放映当時は名古屋大学大学院教授だったが、現在は中部大学総合工学研究所教授)が登場した。そのテーマはなんと「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」というもの。同様のタイトルで本も出版され、この番組以降バカ売れした。私も読んでみようとネット予約したのだが、売り切れでなかなか手に入らない。結局自分の手元に届いたのは最近である。番組内容と本を要約すれば「国民がよかれと思ってしている行為の多くが地球環境を保全する上で意味がない、或いは逆に問題を広げている」という。これはいったいどういうことだろうか。

 本の中で取り上げられている例は、「リサイクル問題」、「ダイオキシン問題」、そして「地球温暖化問題」。どれも今の環境問題の主役といえる題材である。これらすべてを紹介していると環・太田川の誌面すべてを埋めてしまいそうなので、「地球温暖化」を中心に取り上げてみたいと思う。

 広島市が出している地球温暖化対策地域推進計画にこんなことが書いてある。「気温の上昇は、海水の膨張、極地や高山の氷の融解を引き起こし海面が上昇する」。この記載はこの計画だけでなく環境省の資料などいくつかの文献がある。果たしてこれは正しいだろうか?検証してみよう。水が温まれば膨張する(但し0~4℃までは縮む)、なので海水の膨張は正しい。次に、極地、まずは北極の氷が溶けて海面が上がるか。これは上がらない。「水に浮いている氷が溶けても水面は上がらない」のである。試しにコップに氷を浮かせて溶かしてみるとよい。その現象は再現されるはずだ。極地でも南極、高山の方は少し複雑である。当然、大陸の上にある氷が溶ければ海面は上がることになる。しかし、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」つまり国際的な常識としては、氷が溶けて海面があがるとは考えられていない。こちらの方は北極の事情と違ってすごくややこしい。実は南極付近の平均気温は低下しているし、たとえ南極周辺の気温が数度上がったとしても、それぐらいだと逆に氷は出来やすくなるらしい。また、風向き等によりそれが降り積もるかもしれないようだ。したがって、IPCCは「(極地の現象だけで)温暖化をみると、海面は下がる」と言っている。つまり、温暖化で海面が上がるのは「海水の膨張」のせいなのである。

 実際、地球温暖化という現象を理解するのはかなり難しい。太陽の活動、地球自身の活動、そして大気・海洋の熱収支、それに関わる物質循環。それらが理解できなければこの現象を解明することはできない。IPCCなどはかなりの部分が解ってきたというが、単に今解っていることだけを並べて解明しつつあると思っているのではないかなぁという気がしてならない。話を戻すが、地球温暖化情報ってこのように意外とウソが流れている。温暖化の原因である二酸化炭素は森林があれば吸収されるかと言われるとそうでもない。若い木であれば体に蓄える炭素量が放出する炭素量を上回るだろうが、成長しきってしまえば・・・・・。水素は無限にあってクリーンな燃料だというが、「エネルギーになる水素」は作らなければならない。それを作るのに化石燃料を使ったら元も子もない。等々。

 武田さんの本には地球温暖化のことよりリサイクル問題のことに関してもっとすごいことが書いてある。実際に再利用して使われた量ではなく、分別回収した量(つまり、分別して回収した後に燃やしてもリサイクルとなる)だとか、再利用するのにどれだけエネルギーが必要か、分別収集の問題、あるいは「リサイクル」を取り巻く社会的構造の問題(利権問題)などなど。ゴミの分別をしている我々にとっては非常に苦い話が満載である。

 以上、一例を書いたが、この内容にも勿論反論を唱える人もいる。

 こう書いてしまうと、「環境問題」に対する活動が悪いことなのかと非難浴びそうだ。でも、私が伝えたいのはそういうことではない。「なぜ、情報が正確に伝わらないのか」ということだ。その原因はいろいろあるだろうが、ここでは2点挙げてみる。その一つは、情報を伝える側の能力不足だろう。研究者・行政・マスコミは受け取り側に分かりやすく伝えようと努力はするのだが、あまりに要約しすぎて伝えなければならない情報が抜けてしまった、或いは意味不明になってしまったなんてことがあるような気がする。武田さんの本では、IPCCの英文を要約したら、「気温の上昇は、海水の膨張、極地や高山の氷の融解を引き起こして海面が上昇する」になってと環境省の役人が答えたというエピソードが載っている。

 もう一つは、日本国民全体が「環境」というラベルを見ると、すぐにそれを鵜のみにしてしまう姿勢になっていないかということである。理不尽だと思うことでも「環境のためだ」という説得にすぐに納得しているようなことがないだろうか。そんなことを調べる暇なんてない!って言われそうだが、でも情報を精査しなければ自分が想定している環境問題解決にはつながらない気がする。

 このようなことを書いたのは、どんな分野の「情報」でも注意が必要だからだ。例えば、1999年に「買ってはいけない」という本が出版され話題となった。でもしばらくすると「「買ってはいけない」は買ってはいけない」といったような検証本が出てきた。結局どうすればいいの・・・・という感じだ。おそらくこのようなことは今後も起こり得るだろう。もちろん、武田さんの本にも検証本が出てくるかもしれない。そういった中で我々は何を信じて、何を無視するのか。結局のところ、我々自身の「情報を吟味する」能力が必要となる。

 それで、再び冒頭の質問に戻る。「行為の意義や情報の真意についてじっくる考えたことがあるだろうか」

PS 武田邦彦さんのホームページには番組や本で紹介していない事柄も掲載されている。こちらの方もご覧あれ。

【引用文献】
買ってはいけない 船瀬俊介・三好基晴・渡辺雄二・山中登志子(1999)ISBN 4906605036
「買ってはいけない」は買ってはいけない 夏目書房編集部編(1999)ISBN 4931391656
環境問題はなぜウソがまかり通るのか 武田邦彦(2007)ISBN 9784862481221


 
 
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