Chim↑Pom
プロフィール


2005年に東京で結成したアーティスト集団。

時代のリアルに反射神経で反応し、現代社会に全力で介入した強い社会的メッセージを持つ作品を次々と発表。
映像作品を中心に、インスタレーション、パフォーマンスなど、メディアを自在に横断しながら表現している。
東京をベースに活動しながら、世界中の展覧会に参加、海外でもさまざまなプロジェクトを展開。
近年はさらに活動の幅を広げ、美術専門誌監修や展覧会キュレーションなども行う。

著作に『Chim↑Pom作品集』(河出書房新社、2010年)、『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』(阿部謙一との共編著、無人島プロダクション、2009年)、『芸術 実行犯』(朝日出版社、2012年)、『SUPER RAT』(パルコ出版、2012年)がある。
http://chimpom.jp/

Chim↑Pom「広島!!!!!」展開催に向けて
準備展トークショー「アートでつなぐ平和」
(2013.7.21)


 ヒロシマは核兵器の廃絶を、そして平和の大切さを発信する重要な役割を担っているが、一部でヒロシマ教と揶揄されるような、従来の枠から外れたものに対する不寛容さもあるように感じる。

 2008年の秋、原爆ドーム上空に「ピカッ」という飛行機雲が描かれた。それを見て被爆者団体のみならず広島市民からも不快・不気味だと拒否反応が起こり、それを実行した若手アーティスト集団ChimPomは批判に晒され、被爆者団体と面会して謝罪を行い、広島市現代美術館で開催予定だった彼らの個展が中止となることでこの騒動は取り敢えず収束した。

 当時メディアやネット上で見られた意見は、「ピカッ」については概ね批判的で、感情的な拒否反応が多くみられ、肯定的反応は少数で、「アートなら何をしてもいいのか!」という意見も多かった。ただ、新聞上で掲載されたのは作品の素材の一部でしかなく、それをどのように表現するのかが分からない段階での批判・批評は正しいとは思えず、事前の根回しが足りない点はあったが、一方的なバッシングは疑問であった。

 
広島での発表の機会を失ったChim↑Pomであったが、その後、東京で「広島!」展を開くなどその活動を継続。およそ5年の歳月を経て、被爆建物である旧日本銀行広島支店で5回目の「広島!!!!!展」(開催ごとに「!」が増える)を開催するための準備展が開かれ、その関連イベントとして広島県立美術館講堂にて、Chim↑Pomのリーダー卯城さん他2名により「アートでつなぐ平和」と題されたトークショーが開催されたので、筆者のメモを元にまとめてご紹介したい。なお、筆者の聞き違いや微妙なニュアンスの取り違い、理解不足があり得ること、発言を分かりやすく編集しているので、発言そのままではないことをご留意願いたい。(文・大成卓司)

広島県立美術館
「ピカッ」騒動により広島での個展は中止になったが、作品を観てもらう為これまで原宿、恵比寿、ソウル、埼玉の原爆の図丸木美術館と4回「広島!」展を開催してきた。今回ギャラリーGから広島で開催しようという熱意を受け、開催することになった。
広島とアメリカでの開催が目標である。
トークショーの様子 《気合い100連発》を上映…瓦礫の中で若者たちが円陣を組み、「福島がんばれ」「漁師最高」「友達欲しい」「放射能最高」など気合いを入れて叫ぶ作映像作品。

 東日本大震災後から2ヶ月後の5月、アーティストである自分達に何か出来ることはないかと福島に行くと、そこでポジティブな気持ちを持った若者たちと出会い、その生きるエネルギー、「当事者」としてここで生きていくしかない若者たちに気合いの声を発してもらった。

 マザー・テレサの「愛の反対は憎しみではなく、無関心である。」という言葉があるが、人々の無関心をベースとしてフクシマがあるのではないか。自分たちとは無関係とは言えない。
 

《REAL TIMES》を上映…防護服を着たメンバーが、立ち入り禁止となっている福島第一原発が見える展望台まで行き、旗を立ててペイントしていく映像作品。

 今という意味のリアルタイム、今というリアルな時代、ニューヨークタイムズなどのタイムズ(新聞)という三つの意味が含まれている。

 月や極地など、なかなか行けないところに人は旗を立てるが、なかなか行くことが出来ない、事故を起こした福島第一原発が見える展望台で旗を立てた。最初は白旗。降伏・お手上げという意味。次に日の丸、次に放射能のマークをスプレーで描いた。

 この国はどうして繰り返したのか。原爆を二度落とされ、第五福竜丸が被曝し、そして今回の福島第一原発事故が起こった。岡本太郎の壁画《明日の神話》に福島第一原発事故の絵を付け足して、俯瞰した視点を示したかった。
 

《平和の火》を上映…広島で見つけたものを選んでロープや石膏で描き、それらを現代の風景を表すものとして位置づけ、平和公園の慰霊碑、原爆ドームを繋いだ軸線の先にある中央公園で、原爆の残り火を使ってそれを一気に燃やす映像作品。

※準備展は主催のギャラリーG(NPO法人アートプラットホームG)を含めてホットスポットと表現された市内11箇所のギャラリーなどで7月16日〜21日まで開かれ、準備展に向けて制作された「平和の火」を用いた絵画シリーズ約300点を各所で展示し、それを販売してその売り上げをもとに「広島!!!!!」展開催を目指すとのこと。

 平和公園の慰霊碑の火は、原爆の火ではなく、広島ガスが無償提供しているガスの炎で、「核兵器が地上から姿を消す日まで燃やし続けよう」ということで燃えているもので、50年前に消しておくべき火であった。

 「平和の軸線」は、原爆ドームのところで途切れ、語るべき物語がそこで終わってしまっている。広島をアトミックランドといった平和のテーマパークにしてはならない。

 トークショーはさらに盛り上がる気配であったが、時間切れとなって終了した。
 


ギャラリーG外観



(以下、筆者の感想)

 おもしろいトークショーであったが、このトークを本当に聞くべき人たちはおそらくここにはいない。会場の座席は全体的に埋まっており、関心は一見高いように見える。ただ、現代アートを好きなのは女性が多いが、観客を観ると若い女性が多く、男性は少なめ。年配者はちらほらおられるが少ない。広島市現代美術館の入館者の年齢構成と同じくらいかなというのが個人的印象である。現代アートに関心がある人達が集まっているに過ぎないと思われる。


 これからの課題は、無関心な人々をいかに惹き付けるかである。

 ちょうどこの日は参院選の投票日だった。自民党が圧勝すると予想されて諦めムードが漂い、投票率は50%程度と低迷。参院選では過去3番目の低さだという。「どうせ変わらないから投票しない」という無関心が国民の半数近くに上っていることは大きな問題である。

ギャラリーGでの
展示の様子

 「ピカッ」は確かに不快感を与えはしたが、「関心」を与えることはできた。配慮が足りない面はあったが、Chim↑Pomの作品は、「こんなことでいいの?もっと関心を持とう」と言っているのだろう。彼らの思いはしかし、広くは届かず誤解され、「アートなら何をしてもよいのか!」と批判された。しかし、彼らは問題意識を持ってまず行動したし、今も行動し続けている。被爆者たちとも直に会って対話を続けた。当時批判されたように、おふざけだったり、売名行為だったりするのなら、こんなに継続して活動はできないだろう。

 12月に予定しているという「広島!!!!!」展を実現してもらいたいが、無関心な人々を惹きつける工夫も必要であろう。アート好きな人々を集めているだけでは多くの人が無関心のままである。今回のトークショーの内容に関し、約200名の参加者がいたのに、ネット上においては盛り上がりがなかったというのが寂しい。現代アートの世界独特の、分かる人にだけ分かればよいというスタンスでは意味を為さないであろう。Chm↑Pom作品に触れた我々自身が発信する姿勢が必要ではないだろうか。
 
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