写真・絵画で甦る太田川 

写真・絵画で甦る太田川 
(78)東野の浜 アユ取り船を見る

 

 太田川の下流、安佐南区東野、現在は川沿いに車の通る高い土手があるから、その土手の下の川辺になるが、十数般の船が係留されている場所がある。現在では船の使用目的は漁業に限られているから、ただ船と言えば通じるのだが、昭和初年頃迄、柴木などの運送用の船や町への買い物目的の船や、対岸への渡し舟や、いろいろあった時代には漁船のことを東野の人たちは「チャンコ」と呼んでいた。ところが可部の辺ではこれは「サイリ」と呼ぶ。可部の辺でも「チャンコ」と呼ぶ船はあるのだが、それは表が丸みをもっだ網漁専門の船のことを言う。何だかややこしくて混同しそうだが、東野より下流域には可部の「チャンコ」にあたるような船はなく、漁業用の船はこれ一種類だったから、同じ地域の中では混同のおそれはなかったわけだ。「チャンコ」とか「カンコ」とか言う呼び名は太田川以外にもかなり各地にある。江の川では「カンコ」の呼び名で通っているようだ。

 それよりも、この写真をここに出してみたのは、この東野浜に一般だけだが太田川の船でないのが混じっているので、それを見ていただこうと思ったのである。それは中央に係留されているもの。両側の船との違いがお判りいただけるだろうか? 長さや輻よりも基本的な違いは構造にある。太田川の船は簀板を敷いているから船底が見えないが。二枚棚構造であるのに対し、中央の船は船底の敷き板の幅が広く四枚接ぎになっている。反りも殆どない。これは四万十川の船なのである。

 どうして四万十川の船が東野に繋いであるのかということだが、この船の所有者、そろそろ今まで使っていたチャンコを買い替える時期になったが、新品となると50万余りもかかる(十年前頃の値段)。ところがたまたま四万十川を見に行った際に、示談のうえ安い中古を手に入れることができた。(筆者は値段までは聞かなかったが、太田川の船よりずっと安かったらしい。)しかし、トラックを雇ってこちらへ運搬するのに19万かかったそうで、それを併せるとあまり安くもあがらなかったらしい。

 しかしそれだけではない。実際に乗ってみるとこの船、敷き板がべたっと広いので二枚棚のチャンコよりも操船が重い。「やっぱり太田川には太田川の船が合うとるいうことじゃのう」とすこし後悔していたとか・・


 なお、可部の辺りでは「サイリ」と「チャンコ」があると初めに述べたが、サイリの名は魚のサヨリから付いた名で、細長い形から出たものである。一方のチャンコについて川口造船の川口悟さんの話しでは、今は注文もないし、もう二十年以上も造っていないとのこと。表の丸い変わった形だが操船は素人でもできるので、戦後相生橋の傍の貸ボート屋にこれを数艘置いて商売していたことがあると言う。
 
 
(幸田光温) 
 
当ホームページ上の情報・画像等を許可なく複製、転用、販売などの二次利用をすることを固く禁じます。