もう20年余りも前のことになるが、時代と共に忘れられてゆく地元の食生活を若い人たちにも知ってもらって、古里を見つめる目を持ってもらおう、という趣旨で企画された「芸北町ふるさと運動」という行事があった。酷しい暮らしの中で先人達が如何に知恵を働かせ生きてきたかを考えさせる多くの材料を提供してくれた。その中の一部として、「芸北の餅いろいろ」を紹介しておこう。種類は次のように多い。
()内は材料。
(糯−もちごめ。粳−うるち米)
▽よもぎ餅(糯、よもぎ、木灰)
▽うらじろ餅(糯、オヤマボクチ)
▽ほうこ餅(糯、母子草の若葉)
▽こうぼう餅(糯、弘法稗の粉)
▽あらかね餅(糯、粳)
▽だんご餅(糯、粳の粉)
▽てんこ餅(糯、屑米の粉、よもぎ)
▽うのはな餅(糯、うのはな、粳の粉)
▽粟餅(糯、粟)
▽栃餅(糯、栃の実、木灰)
▽そばのはご餅(糯、屑米、蕎麦のはご)
これらは全て量の多少はあっても糯が入っていることに違いはないが、それを節約して量を増やすことを考え、同時にその季節に応じた自然の素材を組み込んでいるところが評価できる。「よもぎ餅」は今もどこにでもあるけれど、蓬の採取から加工に関しては伝統の手法があったようである。雪解けの頃に小さい蓬を摘んで搗いた餅は色鮮やかで柔らかい。しかしそればかりでなく、初夏まで待って一年分を採集しておき、大鍋で煮て杓子灰をして柔らかくし、天日干しして叺に入れ、屋根裏で保存する。(杓子灰というのは杓子を湯で濡らして灰に突っ込み、細かい灰をつけて鍋の中の蓬を混ぜること)
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