『水辺の小わざ』 山口県土木建築部


 今回の総会(2008.6.8)では各地で講演されて、今評判になっている水産大学校准教授の浜野龍夫さんをお招きします。この欄では、浜野さんのお考えの一端を、昨年3月に山口県土木建築部が発行した「水辺の小わざ」から紹介します。(編集部)



 
生物学者と河川土木専門家の協働

 去年の3月、山口県・土木建築部が発行した「水辺の小わざ」という本が今、注目を集めています。この本の生まれるきっかけを作ったのが浜野さんです。

 「水辺の小わざ」とは?

 流域全体の生態系をより豊かにするために、川の中のいろいろな生きものの一生や川全体の特性を把握し、小規模でありながらもその水辺にふさわしい効率的な改善策を様々な視点で工夫する山口独自の取り組み(本書、水辺の小わざの定義より)だといいます。浜野さんは、あとがきで本書が生まれるきっかけを次のように書いておられます。

 生物学者としての研究成果が河川土木の現場になかなか反映されない現状から「思いきって土木学会のシンポで発表したところ意外に反響があり…」2000年の6月、大学の土木工学専攻の特別講座で「河川のエビーカニ類と人とのかかわり〜土木技師の小わざへの期待」と題して講義をしたのがこの本の基本構想になりました。そして山口県の土木建築部の人々との出会いから、生き物や環境の専門家や土木の専門家など異なる専門化が協働するプロジェクトチームが結成され「水辺の小わざ」の検討が進められたとのことです。

 
「多自然型川づくり」から「多自然川づくり」ヘ!

 1990年に、当時の建設省から「多自然型川づくり」の通達がでました。これは水辺が多様な生物の生息空間であることを認識し、自然と調和した川づくりを推進するものでした。そして、一昨年、2006年に「多自然川づくりの基本方針」が発表されました。
 そのポイントは・・・
 @モデル事業であるかのような「多自然型川づくり」から「多自然川づくり」へ…つまり実際に機能していなくても「型」だけ取り入れていればOKというような川の「型」づくりをやめようということ(註・本誌編集部)
 A「多自然川づくり」をすべての川づくりの基本とすること
 B川づくりのあらゆるプロセスを通じて「多自然川づくり」を実現することが挙げられています。

 また、それまでの多自然「型」川づくりから脱却するために個別箇所ではなく河川全体の自然の営みを視野に入れた自然川づくりを行うことに加えてこれまでの事業で、課題の残る川づくりを解消することが推奨されています。「水辺の小わざ」プロジェクトはこの基本方針が伝えられる前から作業を進めていました。

 
「川づくりは人づくりから、人づくりは魚とりから」

 本書のあとがきで浜野さんはこんな呼びかけをされています。そして「今、川を何とかしたいと活動している皆さんは、昔のよい川を知っていることが原動力になっています。皆さんがそうであったように、川で魚をとって遊んだ子供達なら、大人になったときには、川を守ってくれるのではないでしょうか。未来の川への投資は、子供達の魚とりから。豊かな川を再生するため、明日も私たちはこの本を片手に現場をまわります」と書いておられます。

 今回の記念講演では「生物の生態や山口県下で試みた生態系回復目標の決定方法、生物学者であった浜野さんが「水辺の小わざ」という本を出すまでのプロセスなど、話してくださるということです。

 「水辺の小わざ」は山口県土木建築部発行(2500円)。
 注文先は山口県刊行物普及協会(083・933・2583)です。

 
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