「日本野鳥の会」の広島支部初代会長の著者が、自宅近くの太田川、高瀬堰から安芸大橋(河口から10km〜13q)の川筋の主に左岸を調査範囲に、一昨年と去年、2年間にわたり毎日のように歩かれ、鳥類を中心に生き物の日常を観察された記録である。
普段見慣れた単色の太田川の景色が、この著作を読むと一変する。「こんなに豊かな生き物の世界がここにはあったのだ…」と。「鳥たちには夫々の行動時間帯があり、空間の持ち場があって、目には見えない仕切りが見えてくる・・・中略、生き物には他者が入るのを拒否する自分だけの「ひだまり」が必要なのだ…」と著者はいう。その「ひだまりの静寂」の中に夫々の生き物たちの野生の世界が構築されている。人間社会との折り合いの中で日々ゆがみを生じながら、命をまもる生き物の生態は感動的だ。巣を造る場所を失ったホオジロが法面のセイタカアワダチソウに巣をつくり、抱卵を始めた直後に刈り払われてしまったという悲しい顛末・:また清流にしかいないと思っていたカジカがこんな身近な所に棲息していたとは?また挿絵がすばらしいことも読み手のイメージを広げ確実にしてくれる。
(発行・「メディクス」〜1800円十税)
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