太田川アユ漁復活か!
〜アユの掛鉤会社社長 太田博文さんに聞く〜
2005年7月号

 太田川のアユ漁は、今年は快調の滑り出しで、解禁後6月中は連日一人30〜40尾の釣果が太田川漁協の情報コーナーに寄せられています。ここ数年来、不振続きで川から釣り人の影も消えていたのだが、一昨年から始められた天然遡上を狙った親魚の放流の効果もあってか、去年はアユ復活の兆しが見え始めました。去年は高知市で行われる第7回利き鮎大会で太田川のアユが準グランプリを獲得したこともうれしいニュースでした。
 そこで、この「利き鮎大会」に出品し太田川のアユに詳しい、広島市西区三篠町の鮎掛鉤製造「株式会社マルト」の太田博文社長(52)をお訪ねし、太田川のアユ復活には今なにが必要なのか、お話をうかがいました。(篠原一郎)

「太田川漁協では去年から冷水病の多い琵琶湖産稚魚の放流をやめて海産の稚魚に切り替えたり、秋には天然遡上を増やす親魚の放流をするなど新しい取り組みをしていますが、その効果は?」

太田川のアユ完全復活か!


 去年は鮎も大分多くなって釣り人も喜んだんですが、下流はよくなかった。それは放流魚を海産に切り替えたので、海産のアユは水が出れば上へ上がります。去年は台風などで水が多かったので上流に上がったのです。今年は、6月に雨が降らず水が少ないので、放流したところに居ついています。だから高瀬堰の下流でも釣れています。今年はアユも多いですが渇水のために縄張りが取れないので友釣りはよくない。これで雨が降って水が高くなればかなりの釣果が上がるでしょう。完全復活とまでは言えるか?でもそれに近いと思いますよ。

「昨年太田川のアユが『利き鮎大会』で準グランプリをとったり、TVでは太田川の天然アユは高級魚だといわれるなど、大分評判が良いようですが?」

利き鮎大会で準グランプリ

 確かに天然アユはきれいで格好がいいです。味からいえば最近美味しくなった。びっくりするくらい変わりました。それは水がきれいになったからですね。一昨年、その前から比べると随分きれいになりました。上流の加計や中流の可部でも下水道の処理が進んできたからでしょう。まだできていない西宗川の豊平方面がまだ悪いかなという感じです。しかし最近の洗剤は悪いですね。「手に優しい」なんていいますが自然には優しくない。濃度が濃いのでしょう。これが家庭排水マスや川にいる糸ミミズのような小動物や微生物を殺すしコケも生えなくなる。それと鮎のヌルヌルまで取ってしまうんです。昔は、鮎はもっとヌルヌルしていたんです。あれはアユにとっては着物なんです。
 
「高知市で毎年開かれている『利き鮎大会』というのはどういう会なんですか?」

アユの味で河川環境は分かる


 「高知県友釣り連盟」が主催して行っていますが、去年で7回目、9月に高知市のホテル城西館で開かれました。青森から九州熊本まで全国の著名な50河川から約3000尾のアユが集まって味利きをするのです。参加者は約300人、全国の釣りの同好者が主ですが、8つのテーブルに6〜7河川からの焼いたアユを参加者全員が味見をして投票します。
 評価は@姿、A香り、B味、C内臓の味、D総合評価ということで、各テーブルから1位のものを投票するのです。そこで選ばれた8箇所のアユが壇上に登場して、5〜6人の審査員がその中からグランプリを選び、残りの7個所が準グランプリになります。審査員は高知県の橋本知事などの名士や料理の専門家、釣り関係の役員が当たります。私も審査員に選ばれたこともあります。

 一昨年は太田川支流の水内川のアユを出品して、準グランプリを獲得。昨年は、太田川中流の津伏の堰の下でとったアユを出しました。投票終了後、太田川の出品テーブルをみると皿は空っぽでこれは期待できると思いましたが「準グランプリを、広島県太田川」のアナウンスで歓喜の声を上げました。広島に帰ってから漁協に報告したら、皆信じられないという反応でした。

 もともとこの大会は「河川環境を考えるのにはアユの味見をしてみればわかる」という考え方からアユの味見を通して河川環境を良くしていこうという意図で開かれているものです。

 上流に人のいない、山は広葉樹の多い川、大きな石がごろごろしていて表面がツルツルしている、そんなところでコケを食んでいるアユは絶品です。内臓も苦くなく丁度カニのミソの味がします。太田川のアユはちょっと苦い。太田川のアユは良くなったとはいえ全体としては、まだランクはB級の下です。太田川でもダムのない支流の水内川はA級の下です。あとこの近くでは高津川上流の匹見川と錦川上流の宇佐川がA級の中というところです。去年グランプリをとったのは高知県の新荘川で、高知は開発が進んでいないことや人々が河川環境に強い関心を持っているので、さすがに良い川が多いですが、有名な四万十川は最近、太田川と同じB級の下まで落ちています。
 
「河川環境がアユの味や漁獲量を決めているというお話ですが、その意味でこれから太田川のアユをよくしていくための決め手はどこにあるのでしょう?」

放水路の水門を開けて


 冷水病などで全国的に漁獲が激減しました。この病気の対策はワクチンなどが出来ているが決め手にはならない。私は太田川の漁獲が最低になった平成13年ごろに太田川漁協の増殖委員会に呼ばれて「放流魚を病気に強い海産に変えよう」そして更にできれば「太田川を天然遡上してきたアユを育てて放流できれば…」と提案しました。それは、これまで放流していた琵琶湖産は冷水病にかかると90%以上死滅するが海産は60%が助かるということ、また天然遡上のアユは病菌に耐えて育ったアユだから抵抗力がついている…ということなのです。そして「最後には天然遡上を目指しましょう」と言いました、当時でも天然遡上がかなりあったと思っています。それが途中の堰で上流に上がりきっていないんです。それが翌年平成15年から、呉市の黒瀬川アユを基にして親魚を育てて放流する天然遡上を目的にした取り組みが始まったのです。また去年からは琵琶湖産の稚魚の放流はなくなりました。


シジミ漁との調整が必要


 その頃でも、春先に太田川放水路の祇園水門の下には鳥が群れているんです。鳥がいるということはその下に魚がいるということです。遡上してきた稚魚が鳥の餌になっている。
 それで、漁協の増殖委員会に出席した後、国土交通省の太田川事務所に行き、「アユの遡上を邪魔している堰を開けてもらいたい」とお願いしました。所長さんは「分かりました。ただし、広島市内でシジミ漁をしている太田川内水面漁協と話し合ってください。シジミ漁の方からは太田川本流の方に水を流すように要請されているんです」ということで、その話を太田川漁協の栗栖組合長に伝えて市内の漁協と話し合いの結果、それまで常時底からセンチしか開けていなかった3つの水門のうち、右岸の一つだけを常時30センチにだけ開けるようになりました。それから春先の鳥の姿が見えなくなったんです。なぜ放水路の水門にこだわるかというと、冬の間広島湾で育つ場所が五日市や草津などの漁港周辺、広島湾西部に多い、つまり放水路を遡上するアユが多いということからです。

 これは遡上の時のことですが、一方下る時、安芸大橋上流辺りで孵化した稚魚が海に下る時のことを考えると、まだ現状では不十分です。卵から孵った稚魚は海に下るには、まだ泳げず、水面近くを浮かんで流れていきます。3つある水門の内、一つに集まって流れることはない。また、30センチの隙間があっても水位が高ければ稚魚が潜ってまでくぐれません。秋の稚魚が下る時期だけでも放水路は全部開けてほしいのです。孵化した稚魚はお腹に抱えた栄養では3日しか生きられない。3日間のうちに餌になるプランクトンに出会わなければ死にます。


水内川の水を本流に


 私は中国電力にも行って太田川本流の水量をもっと上げるようにお願いをしています。津伏の堰から発電用の水を取っているので極端に本流の水が少ないのです(注1)。だからゴミも溜まっています。水量があればゴミも流してくれるのです。今の倍ぐらいは欲しいですね。
 私は特に、津伏の上流、本流との出会いの場所で取っている水内川の水を本流に流してくれるよう要求しているんです。水内川のアユが一昨年の「利きアユ大会」で準ブランプリをとったように、水内川の水はダムがないから水にパワーがあって、きれいですすし水に栄養があります。ダムの水は「死に水」といわれて、冷たくて特に底には酸素がないんです。だから水内川のきれいな水が本流に流れて、加計からの水を薄めてくれればかなり良くなるのです。ところが水内川の水は津伏の水とは別に使うのか?(注2)「それはできない」といわれるのです。

 また、発電所を結ぶ導水管を通って太田川発電所で一度に放水される水は水温が低いために、アユの産卵を早めてしまう点も指摘して、水温を高める処置をしてほしいともいっています。中国電力の発電用の水の取水は、平成元年ごろに中電に30年契約で水利権を売っており、その水利権が切れるのが平成30年以降になります。まだ数十年ありますが、今からよく考えて、環境を改善していかなければ…と思います。中国電力もこれだけ環境に影響を与えていながら、水力発電は電力全体の7〜8%の供給量しかないわけですから、よく考えてほしいと思いますね。
 
 
「最近は国土交通省の河川整備のやり方も『多自然型河川整備』という方法で川を自然に戻していく考え方がとられていますが、それについては?」

自然の川に学べ!


 確かに魚がすめる環境、ということで石を並べるなど色々工夫をしておられますが、私たちから言わせればただ石を並べて、浅瀬を作って鳥の餌場を作っているだけということですね。
 自然の川の基本を言えば、水が少なくなっても最後まで水が流れる深みがあります。これが「魚の道」なんです。そこは魚が安心して行き来する道です。今の河川工事は底が平らなんです。だから鳥の餌場になっているんです。深みがあれば、そこは水が狭まって流れに勢いが出てくる、そうすればゴミも流される。川はそういう深みがあって、その下には魚の休憩場になる淵もある、そしてまた瀬になる。水にはパワーも安らぎも必要なんです。そういう川の自然浄化の構造を考えずに、ただ水をダラーと流すだけでは駄目なんです。
 一昨年までは太田川を見ていても石が汚くなってどうしようもない。コケも青ゴケまで出て、これをとるのは容易じゃない、ワイヤーブラシでとらにゃどうしようもないと思いよったんですが、去年の大水で石が転がってきれいになったんです。今年のアユが元気だというのもそれがあるからですね。だから水の量を増やすと同時に構造的に水に勢いをつける自然の川の構造を考えなければ駄目です。

「結局川を自然に戻せということになるんでしょうね?」

小さいものにやさしい川を!


 完全に自然に戻せといっても、災害対策や水の利用もありますから無理がありますから、できるだけそういう方向を考えてほしいということですね。そこで、今のポイントとしては小さなものにやさしい環境を考えるということですね。アユだけでなく、エビでも何でも、小さなものが育てば大きなものも育つということです。稚魚が沢山育って海に出てまた川に帰ってくる、その小さな魚が育つ環境を考えてやれば、大きい魚が育つことになります。

「最近は釣り人が少なくなって川に人影が見えなくなったといわれます。釣り人が増えることも川への関心を呼び起こす方法でもあると思われますが?」

 その通りです。今釣りを趣味として筆頭に挙げる人が約1000万人といわれますが、そのうち川釣りをする人は10分の1の約100万人です。それも今はお年寄りで、60〜70代の方が多く、今の団塊の世代の50代がもう最後で、これから20年先には約半分に減るのではないかといわれています。そこで今私達、日本釣振興会の中国支部では毎年、小学生を対象に「ハローフィッシング」というイベントをやって自然の中で釣りを体験し、魚の生態や生息環境を学習してもらっています。去年も佐伯町の所山で、渓流釣りをしました。なんとか若い人達に釣りの趣味を持ってもらいたいと思います。

(注1) 津伏では毎秒25トン、本流の水の約半分を発電所用に取水している。
(注2) 水内川の水は水量調整用の宇賀ダムに流している
 
 
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