鳥類

太田川水系の生き物たち−鳥類−2007年 1月 第69号

 (23) イソシギ
〜多彩な婚姻形式を持つシギ類〜


 イソシギは全長約20cmの中型のシギで、背中が灰褐色で腹が白い地味な色をしています。雌雄同色で野外で雌雄を区別することは難しい鳥です。県内では一年を通して河川上流部から下流部にかけての河原、干潟、埋立地、農耕地などの水辺に広く見られます。冬季は主として干潟や海岸の磯などで見られますが、夏季には内陸部の河川上流地域でも見られます。夏場の餌はユスリカやトビゲラ、カゲロウなどの水生昆虫の幼虫で、たいてい一羽だけでせわしそうに歩いて食べています。他のシギのようにあまり大きな群れは作らず、単独かせいぜい2〜3羽くらいで生活しています。

イソシギ  国内で見られる多くのシギが北半球の亜寒帯から寒帯で繁殖しますが、イソシギは温帯域で繁殖する数少ないシギの一つです。日本では主として本州中部以北で繁殖していますが、少数のものは西日本でも繁殖しています、県内でも、尾道市や廿日市市吉和での繁殖が確認されています。県内で冬季に見られる個体の多くは北の地方で繁殖したものが越冬のために南下してきたものです。

 鳥類の多くは一夫一婦で繁殖します。イソシギも基本的には一夫一婦で繁殖しますが、長野県での調査によると13%の雄で一夫二妻になることが報告されています。その中には同時に一夫二妻になるものや、時間をずらして一夫二妻になるもの、一つの巣に1羽の雄と2羽の雌がかかわっていたものなどがあったそうです。

 シギの仲間の婚姻形態は様々で、有名なものには、タマシギがあります。一般の鳥類では雄が派手な色をしており、派手な雄が地味な雌に対してディスプレイをしてつがいが形成されます。ところが、タマシギでは雌の方が派手な色をしており、地味な雄に対してディスプレイをしてつがいを形成します。さらに、抱卵や育雛も地味な雄の仕事で、雌は卵を産むとさっさと次の雄を探して求愛し、結果的に一妻多夫になります。また、エリマキシギでは複数の雄が集まって派手なディスプレイをし、雌がその中の気に入った雄と交尾をし、そのあと抱卵から育雛までを雌のみで行います。雄はまた、次の雌を求めてディスプレイをします。このような繁殖様式をレックと呼んでいます。このようにシギ類の繁殖様式は多様性に富んでいます。その理由としては、シギ類は地上の開けた場所で繁殖するので、ヘビ類やイタチなどに捕食されることが多く、このような多様な繁殖様式は高い捕食圧に対抗するための手段として進化したと考えられます。変わった繁殖様式のイソシギがいつまでも太田川水系で繁殖できるよう、河川改修の方法などについて考える必要があるでしょう。
 上野 吉雄 (写真・保井浩)
 
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