「たこ」(蛸)の四方山ばなし(上)  小松 邑司

2006年 6月 第62号

 私の生まれたのは五日市で、家の50m先は海岸でしたから小さい頃から海で遊んで育ちました。中学生の頃、友達に蛸取り名人いて、よく一緒に出掛けたものです。

 蛸が獲れるのは大潮の時です。その大潮の中でも午後8時から11時の間に、水位が最も下がり、月の出ない日となると、そう多くはありません。暦に○印をつけてチャンスを逃さず、雨天決行で出掛けました。

 目的の場所は大野浦西地区、いま瀬戸内海水産研究所がある少し先の海岸です。


 道具は幅5cm、長さ6cm3本矢のついた「ガンツキ」を細竹にセット、アセチレンガス燈を手に長手の長靴のいでたちです。明るい内に岩磯のきれいな場所を確認しておき、水位が低くなるのを見計らって、沖に向かって静かに水位が膝のところくらいまで進んだところで、いきなり陸の方向に向いてトウチランプの光源を最大にしてすばやく蛸を探します。蛸は水際の岩の上に数匹かたまっていますが、一番近い蛸の頭めがけてガンツキを突き刺します。

 最初に失敗すると、一斉に逃げてしまい、次のチャンスを見つけるのに50mは歩くことになります。

 今考えると岩がきれいだったのは、昭和21年の枕崎台風で広島が直撃を受け海岸線が土砂崩れで洗われた時期だったからだと思います。こんな蛸取りはそれから4〜5年続いたと思います。
もともとこの大野浦辺りは「たこつぼ漁」(蛸はきれい好きで、壺はきれいで新しいほどよく入る)の盛んな所でありましたが、蛸は元来夜行性ですが、なぜ月のない夜に水際の岩場の上にいるのか生物の先生に質問したこともありますが、問題にされませんでした。

 また夜行性とはいえ「イイダコ」が釣れるのは昼間のみの経験しかなく、これも不思議です。「イイダコ」は白い硝子に返しのない針のついた疑似餌で苦労なく簡単に釣れました。
ただ蛸釣りの共通の要領として、重くなった瞬間に速く上げるのではなく徐々にスピードを上げていくのがコツです。段々と早く動くものに対して餌を逃さない習性があるのでしょう。
昭和20年代は水の透明度も抜群で、夏でも5〜6m以上は海底が見えるのは当たり前、「スイガン」(手作りの「箱めがね」)で運が良ければ蛸が泳ぐのもお目にかかれるほどでした。今のようにデジカメがあれば証拠写真が撮れるのにと思います。
 
 
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