魚類

太田川水系の生き物たち−魚類−

太田川の魚(1) スナヤツメ
十五年前太田川水系で、日本で初めて繁殖が確認された

スナヤツメ
 スナヤツメは分類上では魚類ではありません。魚類の前段階の円口類に属する動物ですが、慣例として淡水魚類の中に含めて取り扱っています。

 国内では円口類の仲間は4種が知られていますが、太田川水系で確認されているのはスナヤツメのみです。全長10〜13p、茶褐色で、口は円形で下向きに付き、眼の後方に七対の鰓穴が並ぶため、八つ眼があるように見えることから「やつめうなぎ」と呼ばれています。ちょうど鉛筆くらいの大きさです。

 ↑スナヤツメの繁殖行動(太田川水系にて1997.5.5撮影)
 
 幼生をアンモシーテスと呼びます。眼は皮下に隠れ、盲目です。河川の中上流域の淀みや湖沼の泥中に棲み、有機物を濾過して餌にします。アンモシーテス幼生の状態で3年間を過ごし、4年目の秋から冬にかけて変態し、成体となって河床より泳ぎ出ます。幼生期間中は泥中で生活していることになりますから、川の中で泳いでいるところを見つけるということはほとんどありません。もし、見つけることがあったら、その時期は繁殖期にあたります。

 繁殖期は4〜6月、生息場所からやや上流の小川が繁殖場所です。砂礫底に数尾が群がって産卵床(くぼみ)を造り、卵を産み落とします。太田川水系で繁殖が確認されたのは15年前です、これは日本初記録です。しかし、徐々に個体数を減らし、現在では繁殖を確認することは困難になってきています。環境庁が1991年に出版した「絶滅のおそれのある野生生物 通称レッドデータブック」には希少種として、1995年に広島県が、2000年に広島市が出版したレッドデータブックには絶滅危惧種として選定されています。

 親はサケと同じように産卵・放精が終わると数日のうちに死んでしまいます。一匹の「死」は多くの「生」につながらなくては種の存続はできません。スナヤツメが生き続けるためには幼生が生息できる泥底が必要ですし、親が繁殖するためには砂礫底が必要なのです。泥底は流れの緩い場所にでき、砂礫底は少し流れがある場所にできます。移動能力の少ないスナヤツメにとって、これら二つの環境が川の中に存在し続けなければ、スナヤツメは生き続けることができないのです。

 川は「瀬」と「淵」の繰り返しで構成されているものですが、河川改修によって「瀬」中心の河川形態が続けば、そこに生息する魚類相も単調になってくるのはしかたないことなのです。 
 
(川野 守生)
 
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