両生類

太田川水系の生き物たち−両性類(9)−2007年6月第74号

ブチサンショウウオ
〜西日本に分布する流水性サンショウウオ〜


 サンショウウオといえば全長40p〜1mもあるオオサンショウウオを思い浮かべるかもしれませんが、中国地方にはオオサンショウウオの他に10〜17pの小型サンショウウオと総称されるサンショウウオ類も棲息しています。小さい方から、カスミサンショウウオ、ブチサンショウウオ、ヒダサンショウウオ、ハコネサンショウウオの4種です。

 オオサンショウウオは中・上流域の河川や用水路に生息していますが、小型サンショウウオ類は200mくらいの山麓から、1000mを越える中国山地脊梁部の渓流や湿地に棲息しています。また、生息環境の流れによっても大きく二分されます。一つは山の近くにある田んぼとか湿地・水溜りなどのように、ほとんど流れのない環境に産卵する止水性サンショウウオと、谷川などの小渓流に産卵する流水性サンショウウオです。今日はブチサンショウウオです。

 ブチサンショウウオは西日本を代表する流水性サンショウウオで、鈴鹿山脈以西の本州、四国、九州に分布します。全長10〜14p、茄子紺色の地色に銀白色の地衣状斑がありますが、地域変異が大きく、その形態を比べてみると別種化と見間違うほどです。近縁種のヒダサンショウウオと酷似していますが、本種は腹面にも地衣状斑があるので区別できます。太田川水系では、呉婆々宇山の北斜面にある緑化センターや白木山から棲息が確認されていますが、それより以北の山麓(300m以上)の沢には棲息していると思われます。サンショウウオの研究を始める前は、研究者が少なく、ブチサンショウウオの知見はほとんどありませんでした。毎年、夏季に調査をしていくうちに、「どこでもいるじゃん」ということが解ってきました。ただ、調査時期を間違えると、いくら探しても発見できません。それは、本種の生活史と関係しています。

 繁殖期は4月下旬から5月下旬です。県北に行くほど遅れます。成熟した雄は源流近くの産卵場にある石の下面に縄張りを作り、雌のやってくるのを待ちます。雌はその石の下面に一対の卵のうを産みつけ、産卵後は山へ帰ります。雄はその場に留まり、次の雌がやってくるのを待ちます。通常2〜3対の卵のうを産みつけますが、多い時には6対の卵のうが産み付けられたのを観察したことがあります。孵化まで、20〜30日かかります。幼生は「かく かくうお」と呼ばれ、7月下旬頃から渓流の溜まりなどに現れ、ヨコエビなどを餌として成長していきます。密度が高い時は、共食いもします。沿岸部では8月中旬までには4pに達し、変態し、陸に上がります。その後、渓流を調査すると、親も幼生も居ないことになり、初めての地域なら、「分布していない」という間違いをしてしまいます。

 1978年に実施された第2回自然環境基礎調査(通称 緑の国勢調査)の両生類に関する報告書では、広島県内では19か所の棲息地しか記録されていませんでしたが、現在までに約120か所の棲息地が確認されています。杉やヒノキの植林地でも、山が安定してくれば、ブチサンショウウオは回復しています。

 ブチサンショウウオは繁殖期以外、水際近くの湿地や落ち葉の下に棲息しています。主にミミズなどの小動物を餌としていますが、野外で親を見つけることは極めて困難なことです。先ず、8月上旬に幼生を見つけましょう。見つかれば、次の春の4月下旬から5月中旬に、幼生が居た沢の最上流域を調べてみると卵のうが見つかるかもしれません。運が良いとその卵のうを守っている雄の成体に出会うことがあるかもしれません。
 
川野 守生
 
当ホームページ上の情報・画像等を許可なく複製、転用、販売などの二次利用をすることを固く禁じます。