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 連載 環境問題の羅針盤X 藤井 直紀

2008年 5月 第85号 

有意であるとは?

 
【前置き話】

 先日、インターネットでニュースを見ていると、「東京の住民は、環境意識は高いが行動せず」という記事が出ていた。これは博報堂生活総合研究所という機関が行ったアンケート調査結果だ。世界八都市(東京、ニューヨーク、トロント、ロンドン、フランクフルト、パリ、ミラノ、モスクワ)の市民に対し、インターネット上でアンケートをした結果だそうだ。「温暖化への危機感」を感じている割合は東京が88%で八都市中最も高いが、同時に「温暖化防止のために現在の便利な生活を犠牲にしたくない」と答えた割合も八都市中最も高かったそうだ。

 「環境問題」も「地球温暖化」も非常に気になるのだが、毎日の忙しい生活の中でなかなか啓発されているような行動は出来ないし、そう簡単に慣れた生活を変えることは出来ないと考えている人が多いということだろう。私自身の生活を振り返ってみても、このアンケートの結果はそう外れたものではない。皆さんはどうだろうか。

 この連載には「啓発行動」も「情報」も鵜呑みにしないで・・・なんてことを結構書いた。これは、これまでの生活のままでいいよと云っているわけではない。じゃあ、結局どうすればいいのって声が聞こえてきそうだ。ただ、これには答えはなく、自分には何か出来るのか自問自答してみるしかないように思う。

 
「データを見つめる」

 何かが起こっている。これを突き止めるためには、情報を収集して整理してみる必要がある。その上集まった情報は”確からしい”かどうかの確認も必要となろう。「前置き話」で紹介した「東京の住民は、環境意識は高いが行動せず」という事象は「インターネットを用いたアンケート」という方法を用いて得られたデータをもとに導き出したものである。ここで気になるのはこれら得られた情報は「信頼出来る」のかということである。実際アンケートは住民全員に行う訳にはいかない。一部の情報で全体のことを説明したことになるのだろうか。

 アンケート等で得た情報(これを標本という)が全体(これを母集団という)を説明しているのかということは、科学の中で常に問題となる。どれだけ調査すればいいのか。このことは「統計学」という学問を勉強するのがよい。ただし、この学問は結構難しい。科学の基本ではあるのだが、ここで挫折する人も結構多い。この連載を読み続けていただくためにはちょっとここの部分は割愛したいと思う。それに、流れている情報で「信頼出来るデータなのか」を統計学的に議論することは一般生活の中では難しいし、忙しい生活のなかでそんなことはしていられないし・・・(あっ、逃げた!と研究者につっこまれそうだ)。

 
【有意ということ】

 統計学の中でよく出てくる言葉のひとつが「有意(ゆうい)」である。有意とは「意味のあること。意義のあること。」(大辞林)という意味であり、統計学の中では、得られたデータの解釈が「偶然とは考えにくく、意味のあること」ということになる。例えば、ある集団Aとある集団Bがあり、性質に違いがあることを「有意な差がある」という言い方をする。

 ひとつ強調しておきたいのは、「偶然とは考えにくい」としていることだ。絶対にそうだといっている訳ではない。このあたりはデータばかりを見ず、周りの事象を含めて考察すべきことであり、頭の使いどころである。集団Aの傾向と集団Bという傾向が似ていた場合、集団Aと集団Bは関係があるかという事象が一例に挙げられよう。例えば、下に示した世界の気温のグラフがある。1900年以降をみると多少変動はあるもののほぼ右肩上がりのグラフとなっている。これと似たような変動があった場合、温暖化と似た傾向の事象が関係があるのか?ということである。学力テストの平均点が1900年に50点だったのが2000年には100点になった、そんなことがあった場合、温暖化とテストの点数に関係があったのかと云われたら甚だ疑問だろう。



 統計学が悪いと云っているわけではない。統計学はあくまでも事象を理解するための「手法」である。手法であるからには使い方を問違ってしまえばまったく意味をなさないものであるということだ。

 温暖化という現象も、データを集めてきて比較する(統計学的に処理をする)ということを繰り返して得られた現象である。したがって、きちんと統計学的処理が出来ていて、関係性のつじつまがあうのかをしっかりと理解している必要がある。

 
【気温が上がるという現象】

 そもそも、温暖化という現象についても議論が続いている。

 @温暖化している、それも人間活動によるところが大きい
 A温暖化している、しかし本当に人間活動なのか疑問
 B温暖化していない

 一般には温暖化が周知の事実ということになっているが、なんでこんな議論がくすぶっているのだろうか。ひとつには我々が見せられているデータが「右肩上がりのデータ」だからというのが挙げられる。原因を追及するときに右肩上がりの別データがあれば、気温の上昇と関係性有りという結果になりかねないということだ。勿論、気温の変動周期に関しても解析されてはいるか、気候システムの構造がしっかりと解明されていないので、温暖化の原因が完全に追求出来るとまではいえないだろう。

 気温のデータは実測以外にも氷床コア(氷の堆積物)に含まれている物質を解析することによっても推定出来る。これらの変動についても解析はされつつあるが、気候システムの解明にどれだけ近づけるか今後期待される分野である。

 ともあれ、現在は二酸化炭素が温暖化の原因物質として取り上げるのが主流となっており、この物質に対する処置が必要となっていることは無視できないことは事実だ。

 
【99%正しいって・・・】

 最後に余談であるが、IPCCの報告には温暖化という現象や原因に対して何%証明された(何%温暖化を説明できる)という指標が出ている。「証明された」という事象をどうやってパーセント表示出来るのか、私には未だに理解できない・・・。


 
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