太田川水系の生き物たち−植物− 2006年4月 第60号

オウレン
〜アントシアニンで葉を不凍に〜

オウレン
 この冬は久しぶりの大寒波がやってきて、12月の八幡高原にはたくさんの雪が積もりました。例年は小春から穀雨にかけて降る雪が多いようですが、年が明けてからの積雪は少なく、いつもとは少し様子が違うようです。それでも、3月になり、4月に入ってからも、所々に雪が残っています。林の中の雪が消えると、待ち構えたように花を咲かせるのがオウレンです。

 本州の温帯から北は北海道の西南部まで分布します。雪解けとともに咲くので、低地では2月の中頃から咲き始めますが、八幡高原での最盛期は4月の上旬ころになります。林縁や林内に見られ、植林地内にも生息しています。今でも薬用植物として利用されているので、植えられたものもあるのかもしれません。


 葉は1回3出複葉で、小葉には不揃いな鋸歯があります。2回3出複葉でセリの葉のように切れ込むものはセリバオウレンと呼ばれ、これに対して1回出複葉のオウレンをキクバオウレンと呼ぶこともあります。一つの株には通常3つの花を付け、雄花を付ける株と、両性花を付ける株があります。雄花ではたくさんの雄しべが目立ち、両性花では紫褐色を帯びた雌しべが目立ちます。おもしろいことに、雄しべの数ばかりでなく、萼片の数や花弁の数、雌しべの数までが不定です。花が終わった後には果実が矢車状に拡がり、たいへんかわいらしい姿になります。5月頃には実が熟して、短い繁殖期間が終わりますが、常緑の多年草なので葉はそのまま残ります。上を被う植物が葉を展開する前にすばやく開花・結実を終えるために、オウレンは夏から秋にかけて栄養を蓄えてゆき、長い冬にも地上部を枯らさずに過ごすのです。

 葉を付けたままで冬を越す植物にはオウレンをはじめ、ショウジョウバカマ、イワカガミ、トキワイカリソウなどがあります。春先にこれらの植物を見ると真っ赤になっている葉に気付きますが、これはアントシアニンという物質が葉の中に蓄えられているためです。雪の下は0℃程度に保たれているのですが、それが溶けた時には外気が氷点下にまで下がる事があります。冷たい外気にさらされた葉が凍らないようにするために、常緑の草本はアントシアニンを生産して、体液を不凍液にしているのです。植物が生きていくための戦略には、いつも驚かされるばかりです。
 
写真・文 芸北 高原の自然館 白川勝信
 
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