太田川水系の生き物たち−植物− 2006年3月 第59号

アテツマンサク

〜春を告げる黄金花〜

アテツマンサク
 春を告げる花として思い浮かぶのは様々ありますが、樹木ではマンサクが挙がってくるのではないでしょうか。まだ雪の気配が残る山肌をパッと華やかにする満開の黄金花は、「満作」から来たという説と「先ず咲く」が訛ったという説の、どちらにもぴったり当てはまる気がします。
太田川流域にはマンサクの変種、アテツマンサクが見られます。岡山県北西部から広島県北東部にかけてを「阿哲台(あてつだい)」と呼びます。石灰岩によって特徴づけられる地質と、そこに発達した植物相の特性から、植物学では重要な地域として扱われてきました。アテツマンサクはその名の通り、阿哲地方で発見・命名された植物ですが、四国や九州にも分布します。

 アテツマンサクは3mほどの落葉低木で、大きいものは5m程度に生長します。川沿いやのり面などの明るい斜面地に多いようで、道路からも観察することができます。マンサクの仲間で特徴的なのは花で、4枚の細長い花弁はクルクルと巻かれた状態で花芽の中に収まっています。雪が湿気を含む頃になると、花芽が割れ、巻物を開くようにそれぞれの黄色い花弁が数日かけてゆっくりと展開します。花のつくりや香りは明らかに虫媒花なのですが、他との競争を避けるためとはいえ、雪をかぶりながらも虫が少ない季節に咲く姿にはこの植物の強い意志さえ感じ取れます。
マンサクの萼が暗紫色なのに対し、アテツマンサクの萼片は黄色なので、花全体が明るい色に見えます。ただし、中には萼が赤紫色の中間型の個体も見られるようです。
花が終わると、果実が丸く熟し、中から黒くて細長い種子が2つ出てきます。葉は左右不相称で互生し、長さ10cm前後、幅は5cm前後で、秋には黄葉します。葉の両面に星状毛が多く、特に脈上に密に付きます。マンサクの葉では星状毛は散生し、古くなると落ちる点が異なります。

 合掌造りで有名な白川郷ではマンサクのことを「ねそ」と呼び、この生木を使って屋根の垂木を固定します。他の地方でも薪を縛ったり、かんじきの材料につかったりしていたようです。重い積雪に耐えるマンサクのしなやかさは、雪深い地域に住む人たちの冬の暮らしをも支えてきたのです。そうして、雪解けとともに咲く満開の黄色い花は、今も変わらず人々の目に「あぁ、春が来たんだな」と知らせています。
 
写真・文 芸北 高原の自然館 白川勝信
 
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