生態系・里山・里海


第6回の太田川河川整備懇談会を開催
〜利水・環境・維持管理・流域の諸問題を審議〜

 2008年10月 第90号


 第6回太田川河川整備懇談会が9月29日、YMCAコンベンションホールで開催されました。昨年度の第1回(07年7月23日開催)から約1年2ヶ月に渡って行われた懇談会ですが、今回は「太田川河川整備計画」原案作成直前の重要な節目となる会議でした。

 今回の懇談会が終了すると、太田川河川事務所は今まで得られた各委員の意見を元に、太田川の整備に関する「対処方針」を設定。その内容説明を広島県・広島市・安芸高田市の各首長へ行ったのち、「太田川河川整備計画」原案が作成されます。今回の傍聴者は、我々取材者を含め30名ほど。議題は、太田川の利水・環境・維持管理・流域、各項目の目標および対処方針でした。事務局が作成した資料を元に説明が行われ、その後、委員による意見交換がなされました。意見交換の内容を中心に、主なポイントをご紹介します。 (岩本)



1.利 水

河川流量の正常値を確保できていない年度があるが、今後どう対処するのか?


 太田川の水は流域に限らず、広範囲・多目的に利用されているため、渇水時の社会生活への影響が懸念されています。日比野委員からは「今回の整備計画案で、流水の正常値維持に関する内容は含めないのか?」との質問が。福岡委員からは「流水の正常な機能を維持する事は、法律としても重要な事項であるはず」と、流況改善の具体的方針を求める意見が出されました。これに対し、事務局側の回答は「今後の対策は関係機関と協議し、流況データを蓄積した上で問題の無いように努力したい」という内容にとどまりました。

2.環境・水質

目標達成の成否を測る基準を、より明確・厳密にするべき。

 資料には、魚道整備によってアユやサツキマスは河口から約76q上流の鱒溜ダムまで遡上可能と明記されています。しかし、このデータはあくまでも、魚がその場に「いるか・いないか」と言う事だけ。毎年、どの程度の「量」の魚が遡上するかは調べられていません。これに対し、中越委員は「現行の基準では今後、環境が改善しているのか、悪化しているのか、明確に判断できないのではないか。」と、達成基準の甘さを指摘。加えて「アユやサツキマスは一般の方々にも馴染みのある、太田川を代表する生物である。その「量」を指標として数値化することで、太田川ならではの指標として活用できるのではないか」と提案されました。また、河合委員からは水質について「BODなどから判断すれば、水質は良くなっている。しかし、生物が増えたと言う、現場からの実感の声はほとんど無い。現行の基準だけではなく、生物にとって実際に住みやすい水質かどうかも考えるべきでは」と、生物の視点から水質を考える必要性を提案されました。

3.維持管理

河川管理への市民参加を行政がバックアップできないか?


 河原の植物が増えすぎると、流水の妨げとなり、河川本来の機能が損なわれる事が指摘されています。平成17年度の台風では、広島市西区の草津漁港内の海面が植物・流木などで埋め尽くされましたが、中越委員の視察によると、その多くが河原の植物で構成されていたそうです。その事実を踏まえて「河原の植物(雑草)が増えすぎている。河川の維持管理のため、市民による草刈などを呼びかけられないか。例えば、河川ボランティアと言った市民参加を地域にお願いし、河川管理者がその活動を応援すると言った環境を整備できぬものか」と提案。また、福田委員からは「市民が積極的に河川を使うためには、情報網の整備が大切。GOGIルームなどの既存設備も積極的に活用すべき」との提案がありました。

4.流 域

太田川流域の個性を引き出した河川整備を行うべき


 上流から下流の都市部に至るまで、太田川の景観的個性を利用した河川整備が求められています。景観が専門の大井委員からは「都市化の中では、背景(都市)と護岸が生み出す景観的な個性を表すのは難しい。太田川流域の個性として、自然の特徴を取り入れた整備を目標とするべき。太田川のどんな特徴を価値として残していくかを明確にした上で、太田川の「資産価値を高める」環境整備に取り掛かるべきだ」との意見が出されました。

5.維持管理

上流域に必要な洪水調節施設について、今後の方針を明確にすべき。


 福岡座長から「近い将来、洪水調節施設は必要となると思われる。太田川上流域は強い降雨が多く、洪水対策の不十分な箇所は危険である。今後の太田川の安全性を考える上で、洪水の調節施設をどのように検討されているのか」と言う質問が投げかけられました。これに対し、河川事務所側は「現段階で不十分な洪水対策については、河道の整備に加え、洪水調節施設の調整も考えている。調節施設は既存の建造物の改良や、新規施設の設置も可能性として視野に入れている。今は環境・地域社会・施設の効果・経済性など、総合的な判断をするための調査・検討中である」と回答しました。

 福岡座長は、最後に「やはり、今回のような様々な視点からリクエストが出ると言う事が、太田川が市民の川である事を表している。今後、誰のために河川を整備し、何を目標として掲げるのか、そのロードマップをはっきりと示す事が必要。整備をやるだけで終わらないような、価値のある計画策定に取り組むべきだ」と、今回の会を締めくくりました。計6回の懇談会で、河川事務所は今回までの会議を元にして、どのような整備計画案を作成するのか。様々な分野の意見が凝縮され、多くの流域住民に受け入れられるような計画案が期待されます。

 
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