生態系・里山・里海


「太田川再生プロジェクト検討委員会」
第2回委員会は現地視察に…

 2006年11月 第67号

 第1回の委員会の時、新潟大学の大熊孝教授から提案があった現地視察が10月19日(木)に行われました。日程は上流から太田川源流の森→温井ダム→水内川→津伏堰堤(中国電力取水場所)→高瀬堰→空鞘橋の6カ所です。
 源流の森をスタートして夕方に空鞘橋まで下る1日コースですが、私は仕事の都合で午前中の源流の森だけの部分参加となりました。
 事務局(行政)での全体の意見報告のまとめができていないので、今回は源流の森の報告を中心に、後は事務局と広島大学の中根周歩先生からの聞き取り要約とさせていただきます。
 (取材・原 伸幸)

 

●太田川源流の森というのは1998年(H10年)に広島市が水源涵養林等の目的で旧吉和村の西山林業組合から購入した森林です。面積は155ha、周囲約10km、落葉樹林40%、針葉樹林60%の山です。管理者は広島市水道局で、市民からの参加も募って保水力の高い落葉樹の植林を行い、現在はほぼ植林の予定は完了したとのことです。水道局からの説明の後、同じ地域のやはり源流の森に当たる細見谷とそこに計画されている大規模林道の現状と問題点を私が報告させていただきました。広島市が購入した森は、将来的には水源の森として豊かな水を育む自然林(複層林)への移行が考えられているようです。

 広島大学の中根先生から針葉樹の人工林を落葉樹と針葉樹の混合の自然林へ移行させる時の注意点が話されました。それは下刈りや間伐などの管理が必要で、それを怠ると自然林のように自然淘汰できない人工林(針葉樹)は、クローンのため、淘汰が共倒れ的に一気に斜面崩壊する危険性があると指摘されました。

 今後、この森が緑のダムとしての森林保全と活用のあり方を提案する市民住民参加型のモデル森林にしていければと私は思いました。

 ここで私は仕事に戻るため視察を離れたので温井ダム以降の報告は、事務局と中根先生への聞き取りで報告させていただきます。


 
●温井ダムではダム管理所長の説明の後、中根先生から維持流量と排砂についての質問がありました。維持流量はアユ期(5月〜8月)には最低1t/秒の量でそれ以外の期間はダムへの流入量相当を流しているそうです。排砂についてはまだ新しいダムなので溜まっていないとのことです。

●津伏堰堤では中国電力北電力所から取水・放流量の説明がありました。視察当日のこの日は、晴天続きで流量が少ないために発電用に6.5t/秒(平均取水量25t/秒…総流量の2/3を取水)が取水され、残りの2.5t/秒が本流に流されていました。
(註・ここで取水された水が導水管を通って間平〜太田川両発電所に利用され可部の太田川橋の下で本流に戻されるわけで、津伏〜太田川橋間の本流の水量が極端に少ないことが問題なのです・原)

●水内川では太田川みこし連の小田長さんから水害についての説明があったそうです。

●高瀬堰では太田川河川事務所からの説明があり、ゲートの開閉や可動堰のメリット、魚道の落差や水の回転についての質疑があったそうです。

●空鞘橋では川底のヘドロの改善や、京橋・猿候川との比較が質疑されました。

 以上が視察の報告ですが、源流の森以外は私が参加できなくて事務局の報告資料も間に合わなかったため、あいまいな表現も多くなりましたがお許しください。いずれ資料がまとまりましたら機会を見て報告させていただきます。 

 ここで今後再生プロジェクトが取り組むべき課題を私なりに列挙してみます。

◆源流域の保全のあり方、流域周辺の緑のダムとしての山林の保全と活用のあり方。

◆太田川本・支流の水量・流量・水質の問題(見た目の清流とは異なる水質、とりわけ内分泌攪乱物質(環境ホルモン)の問題

◆中上流域の過疎化の問題

◆異常気象が現実化してきた現代における堤防等の防災対策のあり方

◆広島湾への流量やアユにも影響を与える高瀬堰の開閉のあり方

と課題を挙げれば枚挙にいとまがないのが現実です。

 これらの課題を、地球というこの星の重要な要素である水循環として位置付け、循環を阻害する要素と促す要素を取捨選択しながら、源流域から河口域(広島湾)まで、可部線跡地を含むアクセスの見直しを含めた地域の特性をより活かせるデザインをする必要があります。

 この星でもっとも重要な3大循環は大気・水・物質の循環ですが、一番大切なことは、それによって育まれる食物連鎖などの生態系の循環(生命循環)であると考えます。そしてこの3大循環がバランスよくスムースに行われる世界が生命の安定した世界をつくります。これこそが人間社会の平和への保障といえるのではないでしょうか。

 今はとりあえずゴミ問題など物質循環を優先させることが目立ちますが(使い捨てよりはましなのですが)、生命をおろそかにし、地球規模の環境破壊が現実的になった現代こそ、広島から根本的な平和への道として、安定した生命循環の世界の実現を太田川の流域を通して世界に発信することが必要だと考えます。そのためのキッカケをこの再生プロジェクト委員会が創っていけたらと思います。

(写真は太田川源流のでの現地視察の様子) 
 
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