生態系・里山・里海


高瀬堰カラッポの効果は?

  〜アユ仔魚降下試験放流の結果報告〜

 2006年 2月 第58号
 
 秋にアユの親魚が産卵し、孵化したアユの仔魚が海に降下するのを邪魔しているのは、高瀬堰だ! 以前からいわれている疑惑を調査、検証するために、深夜に高瀬堰の水を試験放流してカラッポにしたのは昨秋10月。この試験放流調査の結果はどうだったのか?
 2月7日に鯉城会館で行われた、広島県立水産海洋技術センターの研究発表会で、同センターの工藤孝也研究員が研究発表されました。その要旨をご紹介します。(調査研究は、国交省太田川河川事務所、県立水産海洋技術センター、広島大学、太田川漁協の4者による共同ワーキンググループで実施)(取材・篠原一郎)

 


 アユの天然遡上復活をめざして

 県立水産海洋技術センター(以下、水産技術センターと略)では放流に頼らない天然遡上アユの復活を目標に平成16年から、@アユ仔魚の降下(9月〜翌1月)A冬期の仔稚魚の分布状況(12月〜3月)B稚魚の遡上状況(3月〜5月)以上3点について調査研究を進め、天然遡上アユ回復に必要な環境条件を探っています。今回の高瀬堰の貯水放流試験もその一環として行われたものです。

 まずこれまでに分かっている太田川のアユ仔魚の生態は・・・

 @親魚の産卵場所は、根谷川との合流点と高瀬堰〜安芸大橋の間にある
 A親魚が産卵した卵はこの時期、水温14℃約2週間で孵化(積算温度200℃)
 B孵化は日没の明暗刺激でおこる。この時期18時頃に一斉に孵化
 C孵化した仔魚は川の流れに乗って夜間に流下、昼は沈下、夜は浮上を繰り返し海へ
 D仔魚は卵黄を抱え、その栄養摂取期間は約5日間、この間に海にたどりつく必要がある
 

 高瀬堰が仔魚降下を邪魔

 水産技術センターの平成16年度調査で分かっていることをまとめると、仔魚流下のピークは10月中旬と11月上旬で、この年の年間流下量は9800万尾(図1)。そして流下の多い日は卵黄指数の低い個体(孵化後3日以上経過した指数1以下のもの)が多いということです(図2)。

 以上のことから流下仔魚はある程度いるのだが海まではたどり着けない…それは高瀬堰で滞留しているから?それでは高瀬堰の運用を変えることで仔魚の流下がはかれないかという課題が浮上、確認されました。
 

 貯水一斉放流と右岸放流

 そこで平成17年度の調査は高瀬堰の運用を通常運用とは違った2つの方法を試験することになり(図3・4・5)10月20日と24日の夜間2回にわたって実施されました。

 @高瀬堰の貯水の75%を飲用水、工業用水に支障のない深夜0時から放流する

 Aアユ仔魚の滞留は水深の深い左岸に多いと推定されるので、通常の1号ゲート放流を左岸の6号ゲート放流に変更する

 以上の試験運用によってアユ仔魚の流下がどのように変わるかを3地点で、仔魚を捕獲して結果を判定することになり、

@高瀬堰6号ゲートのすぐ下流
  :太田川事務所
A安芸大橋の下
  :水産技術センター
B大柴水門の下
  :広島大学

で捕獲調査が行われました。

今回の研究報告は、高瀬堰地点の太田川河川事務所と安芸大橋地点の水産技術センターの2箇所のデータです。
 

 右岸放流で滞留解消

 平成17年の調査の結果はどうなったか?
 まず、シーズンを通じての流下仔魚の総数は2億5千万尾と推定され、前年度の2.6倍の仔魚流下があったこと(図6)。そして高瀬堰を空にした20〜21日の時間別流下数(図7)をみると、仔魚流下のピークは22時で、高瀬堰の水を放流した0時〜2時以降に流下数は増えていないことが分かります。
全体の調査では、高瀬堰を空にした時と、通常運行の時、それぞれ2回ずつ仔魚の流下状況を調査しましたが、貯水の放流による仔魚流下の差異は見られませんでした。

 もうひとつ、放流ゲートを左岸の1号ゲートから右岸の6号ゲートに変えたことについては、昨年の2.6倍の流下数があったことなどから、堰の右岸に滞留する仔魚を流下させる効果があったと推定されるということです。


 研究調査の結果をまとめると

 @右岸の放流で仔魚の滞留が解消される可能性が確認された

 A高瀬堰の貯水の滞留放流は仔魚の流下に顕著な影響はなかったが、早い時間帯に行えば効果がある可能性はある

 B堰の上流の孵化場所から仔魚がスムースに降下した場合、約6時間で安芸大橋まで到着することが分かった。
 
 共同研究を進めているワーキンググループは今後も仔魚の流下にとってより効果的な堰の運用を考え天然遡上アユの復活につなげていく計画です。
 
 
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