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 連載 どうして決まる?
「川の大きさ、ダムの大きさ 
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〜計画雨量から流量への換算方法は?〜
 
2007年 4月 第71号 浦田 伸一

1.雨量から流量へ

 前号までに「現工事実施基本計画」(略して「現工実」と記述します)策定の際に太田川の計画雨量が396o/2日(超過確率1/200)と決定されたことを説明しました。今回は「その降雨量がどうして12,000m3/秒になるの?」ということを書いてみたいと思います。

 その前に、大前提として、計画降雨量396mm/2日=12,000m3/秒というのは単純計算では得られない数字だということをご理解ください。

 これまでの記事にも述べましたが、同じ2日雨量396mm/2日でも、その雨の降り方によって、最大流量がかなり異なるのです。

 「現工実」では約20パターンの降雨波形群を対象に降雨波形→流出波形への換算計算を行い、その結果の中から、昭和26年洪水の降雨から得た流出計算結果である12,000m3/秒を選択してこれを基本計画高水流量と定めています。
 

2.時間降雨波形→流量波形への換算手法はどんなモノなんだろう?

 
 太田川の場合、降雨波形から流量波形への変換手法としては「貯留関数法」という降雨→流量換算手法を用いています。

 この「貯留関数法」の特徴は、「流域に降った雨は一旦その流域に貯留され、その貯留量に呼応して河川に洪水が流出する。そしてその流域貯留量と河川流出量の関係は線形ではなく非線形の関係を持っている。」というものです。

 すなわち、図−2の中ほどのグラフをご覧いただければ解るとおり、流域貯留量と洪水流出量の関係が直線の正比例関係か、あるいは直線ではなく貯留特性を持つ曲線か、という違いです。同図で言えば、破線ではなく実線の方が貯留効果を持つ曲線です。(数式にすると式1のとおりで、乗数pの値は通常0.3〜0.6くらいです。)

 一方、流域貯留量の時間変動量(ds/dt)と降雨rと流出高qの関係は式2の微分方程式で表されます。(これを連続方程式と呼びます。)

 式1と式2を連立させることによって、毎時の雨量から時々刻々の流量が導き出されるのです。

 その時、図ー2の中の流域のモデル定数であるKやPなどの流域固有のモデル定数は、これまでに実際に降った雨と実際に生起した洪水の関係から試行錯誤で求めます。


3.「現工実」に於ける太田川の貯留関数法の適合度


 
 昭和50年に策定された「現工実」での貯留関数法の適合度はどの程度だったのでしょうか?

 実は、1月23日発表の「太田川水系河川整備基本方針 基本高水等に関する資料(案)」にその図が載っていますので図ー3に示します。

 他の洪水ではどうなのかは現在発表されている資料からは判りませんが、昭和50年の流量改定の契機となった昭和47年洪水では降雨波形から流量波形へとかなり精度良く再現されています。

 「現工実」策定時点において設定したこの貯留関数モデルに過去の5洪水を当てはめた結果が次の通りです。


4.貯留関数モデルは山の貯留効果を見込んだもの


 今回は本当に数学的で申し訳ないくらいだったのですが、最後に肝心なこと…「貯留関数法」という流出モデルの最大の特徴は「流域(時に山間地)の貯留効果」をモデルの中に既に含んでいるということです(図-2)を参照)。

 今、緑のダム(山林保全がダムに代わりうる)という議論がありますが、山林の貯留効果は貯留関数モデルで計画上見込み済みという考え方も一方であるという事実も頭の片隅においていただければと思います。

 ただ、「現工実」を策定した表−1の頃の山林と現在の山林は様子が違うかもしれません。昭和18年〜昭和47年頃の山は一番伐採がひどく、保水力が少なかったし、一方で現在は森が密植状態で放置されて逆の意味で保水力が無くなっているという説もあるようです。

 しかし、私は山の手入れを十分に行い、広大な森を完全に保全・キープすることができたとしても、その効果を現時点で検証し、定量的に洪水低減効果として明示できるのか?と、疑問に思ったりしております。無論、水環境論や土石流災害論において、山林保全は欠かすことのできない問題であるとは認識しておりますが、こと洪水論防御論に限って申せば、山林保全を定量化して計画に見込むという考え方は少なくとも私にはできません。
 

5.次回予告


 次回が最後になります。もう一度、基本高水流量12,000m3/秒についてあれやこれや…と河道とダムの配分の話などを書かせていただきたいと思っております。

 
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